習近平の国賓来日が試金石。菅首相「米中バランス外交」の傾き具合

 

日経新聞の奇妙な見出し

さて、右寄り勢力は菅が二階に引き摺られて、安倍が7年8カ月を通じて築き上げようとしてきたことを少しでも後退させようとしたりすれば「許さないぞ」という気持ちがあるからだろう、どんな小さなことでも気になってしかたがない。

その一例が、「インド太平洋『構想』外す/菅外交、米中バランス重視」という10月28日付日本経済新聞の5段記事である。私は見出しの「『構想』外す」の意味が分からず戸惑いながら記事を読むと、日経を含む右寄り勢力にとっては、上に述べたように安倍が「自由で開かれたインド太平洋戦略」を中国に媚びて「構想」と言い換えたことがすでに気に入らないのに、菅はその「構想」も外してしまったことを嘆いていることが分かる。

「首相は……就任後初の外国訪問となったベトナムやインドネシアでも『構想』には言及しなかった。その上で『インド太平洋版のNATOを作る考えは全くない』と強調した」(日経)

確かに菅は、10月21日ジャカルタでの記者会見でフジTV記者が「それぞれの首脳会談で、総理は、日本が提唱するインド太平洋構想の推進を繰り返し訴えられました。一方で、中国の王毅外相はこの構想についてインド太平洋版の新たなNATOを企てていると強く非難しています。こうした中国の反発もある中、同時に、中国の海洋進出への懸念もある中で、この構想をどう進めていくお考えでしょうか」と質問したのに対し、こう答えている。

「インド太平洋地域において、法の支配に基づく自由で開かれた秩序を実現することにより、地域全体、ひいては世界全体の平和と繁栄を確保していく。このことが重要だと思います。我が国としては、「自由で開かれたインド太平洋」は特定の国を対象としたものではなく、考え方を共有するいずれの国とも協力することができると考えています。インド太平洋版のNATOを作るというような考えは、全くありません」

さらに26日の初の所信表明演説でも「自由で開かれたインド太平洋の実現」と、「構想」という言葉を外していて、それは、日経によれば「安倍政権の基本路線は継承しつつも中国包囲網という印象を和らげ、米中のバランスを重視する狙いがある」というのである。どうしてその印象が和らぐのかといえば、「日米など特定の国が決めた構想」ではなしに「単なる地理的概念を示す言葉との位置づけ」にとどまるからだというのが「首相周辺」による説明である。

とすると、本稿冒頭に引用した9月12日の石破とのやり取りの中での「対中包囲網」否定は本気だということになり、つまり菅は安倍を踏襲するような振りをしながら実は少しずつ「米中バランス」を中国寄りに変えつつあるということになるのかもしれない。

会員制月刊誌『選択』も「菅政権『親中傾斜』の危うさ」という無署名記事を掲げ、「中国との距離をどう取るかという機微で困難な課題を前に、自覚のないまま〔二階的な〕『親中DNA』に引きずられることだ」と菅の対中姿勢に警告を発している。

さて本当に菅は、安倍を怒らせてでも中国寄り外交に踏み出すのかどうか。来年前半~夏に延期された習近平国賓来日を実現させるつもりなのかどうかがその試金石となろう。

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