習近平の国賓来日が試金石。菅首相「米中バランス外交」の傾き具合

takano20201109
 

「安倍政権の継承」を明言し発足してからおよそ2ヶ月が経過した菅義偉首相率いる新政権ですが、外交面における菅氏の言動に「右寄り勢力」のいら立ちが募っているようです。ジャーナリストの高野孟さんはメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』で今回、日経新聞に踊ったある奇妙な見出しの記事等を引きつつ、その「苛立ち」が菅首相の「親中傾斜への懸念」に起因するものであることを解説。さらに首相が中国寄り外交に踏み出すのか否かは、延期されている習近平国家主席の国賓来日の扱いが試金石になると記しています。

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※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2020年11月9日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

菅政権の「米中バランス外交」を警戒する右寄り陣営

安倍晋三前首相を支えてきた親米反中的な勢力の中で、菅義偉首相が中国との融和に傾くのではないかという“警戒感”が広がり始めている。それも当然で、菅は9月12日に日本記者クラブで行われた総裁選ディベートで、石破茂の持論である「アジア版NATO」について、

▼アジアで敵味方をつくってしまい、反中包囲網にならざるを得ない。日本外交の目指す戦略的な外交の在り方や国益に資するとの観点から正しくない。

▼ASEAN諸国も参加できないのではないか。

▼中国は隣国であり経済的にもわが国と関係が深い。世界で米国と競う大国でもある。

と述べ、明確に「中国包囲網」への加担を否定した。それに対して石破は、「中国やロシアを排しているわけではなく、自由や法の支配など価値観を共有する国々のネットワークだ」と説明したが、その口ぶりは弁解調で説得力に乏しかった。

「アジア版NATO」という幻覚

石破の言い方が不明瞭になる根本原因は、彼が安全保障問題の専門家だと自認していながら、冷戦的な軍事同盟と冷戦後的な集団安全保障機構との原理的な違いをよく分かっていないことにあるのではないか。

NATOや日米安保などは、冷戦時代の遺物である「敵対的軍事同盟」であり、すでに歴史的使命を終えてゴミ箱入りにすべき代物である。その本質は、予め誰かを仮想敵と設定し、その侵略の脅威に対抗するために出来るだけ多くの味方を結集して身構えることにあり、「集団的自衛権」はこの旧タイプの同盟の属性である。

それに対して国連理念や欧州安保協力機構(OSCE)やアセアン地域フォーラム(ARF)などは、誰が誰を敵とするのでなく、該当地域に存在するすべての国が参加してラウンドテーブルの席に着いて紛争を予防し、もし起きてもとことん話し合いで解決しようとする、これから創出すべき21世紀的な新タイプの安保で、これを普遍的安全保障、共通安全保障、集団安全保障などと呼ぶ。

端的に言うと、前者は国際紛争を解決する手段として「国権の発動としての戦争と武力による威嚇または武力の行使」を用いるのは当たり前という立場であり、後者はそれを当たり前としない立場である。この致命的な原理の違いを理解しないと、すべての安保論議は茶番となってしまう。

今更アジアに、NATO型の、その本質において敵対的な性格の軍事同盟を作るなど愚の骨頂どころか狂気の沙汰であって、上記ARFをベースに、まずは東南アジアと北東アジアを複眼として(台湾や北朝鮮を含む)すべての国・地域が参加する「東アジア安保共同体」を作り上げ、さらにそれに域外の豪州・ニュージーランドやインドなども加えた包括的な地域集団安全保障機構を構想するのでなければならない。この冷戦終結の前と後の2つの安保原理の違いを混濁したま「アジア版NATO」などと口走るのは、まことによろしくない。

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