コロナ解雇7万人超を無視。菅内閣が目指す「冷たい国」ニッポン

kawai20201111
 

6日の時点で7万人を超えた、新型コロナウイルスの影響による解雇者数。リーマン・ショック時と同様、多くの非正規雇用者がその対象となっていますが、菅内閣からは彼らに救いの手を差し伸べる姿勢を見て取ることができません。そんな「見て見ぬふり」の政府に疑問を呈するのは、健康社会学者の河合薫さん。河合さんは自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で、今、非正規雇用のあり方を議論しない内閣を批判した上で、菅総理は「冷たい国」を目指しているとしか思えないと吐露しています。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

目指すは「冷たい国」なのか?

“コロナ解雇”にあった人が7万人を超え、7万242人に達したことが明らかになりました(6日時点)。9月23日時点で6万人超でしたので、約ひと月半で1万人増えた計算です。

ただし、あくまでもこの「数字」は、全国の労働局やハローワークを通じて厚労省が集計したものですから、実際の人数はもっと多い可能性があります。

実際、私の元にも「夏場を乗り切ったので大丈夫だと思っていたのに、突然、契約更新はしないと言われた」という相談が相次いでいます。コロナの感染拡大が収束せず、アフターコロナの見通しも立たないため「だったらもう辞めてもらおう」と、雇用期間満了に基づく雇い止めが増えているのです。

経営者の方たちに意見を聞くと、「あと2年くらいは人員整理を進めざるをえない」という人がかなり多い。最初は非正規、ついで希望退職の増員、それでも足りない場合は、中高年を中心としたリストラを実行することになる、というのです。

一方で、リーマンの時に採用を抑えたあとの苦い経験から、「会社のニーズにあった能力を持つ新卒や中途は積極的に採用する」という意見も少なくありませんした。

いずれにせよ、今回の「7万人超」という数字を、メディアは「増加ペースは鈍化」「すでに再就職した人もいる」といった具合に、楽観的に捉えていますが、実態はかなり厳しい。しかも、アフターコロナを見越して「人に頼らない経営」を進めている企業も多いので、「人」が働く環境はますます厳しさを増していく事でしょう。

そんな中、菅首相が「アフターコロナに向けた環境に投資する」ための経済対策を指示したと報じられました。しかし、その内容を見る限り、コロナで浮き彫りになった「非正規雇用」問題や、社会福祉政策への言及はありませんでした。

2008年のリーマン・ショックで「派遣切り」が問題になった時には、非正規労働者を守るための法整備が進められたのに、今回は完全に「見て見ぬふり」です。

例えば、リーマン後は「やむを得ない事由がなければ、契約期間満了まで解雇できない」とする労働契約法の改正や、同じ会社で契約期間が5年を超えた場合は、無期雇用に転換することが義務付けられました(本人の申し出による)。

つまり、「人」を主役とするセーフティネットの整備を進めたのです。

もっとも、法律の隙間をつつく“あざとい解雇”は後を立ちませんでしたし、正社員化が進む一方で、女性やシニア層の「新しい労働者」の多くは非正規で雇用され、非正規で働く人たちは増え続けました。

それでも、国が「非正規の不安定さ」を議論の俎上にあげ、動いたことは確かです。

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