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「次に潰れるのはうちだ」トヨタ経営幹部が放った言葉の真意とは

日本を代表する企業であるトヨタは「次に潰れるのはウチだ」と社員を鼓舞するそうです。もちろん本当に潰れるわけではありませんが、この言葉の真意はどこにあるのでしょうか。今回のメルマガ『戦略経営の「よもやま話」』では著者の浅井良一さんが、トヨタとアップルを例に挙げ、ドラッガーの言葉を引きながら論じています。

真摯さの系譜 存続と成長のルールが変わった

“なぞなぞ”です。

「上場企業で、次に潰れるのはウチだ」と経営幹部が言っている企業がありますが、さてどこの企業でしょうか。いきなりの答えですが、それが“もっとも潰れることがない”と思われるあの「大トヨタ」だと言うとほとんどの方は意外に思い、一部の訳知りは「なるほど、もっとなことだ」と思うでしょう。

そこには、相異なるのですが同根の2つの事情があります。一つの事情は、トヨタの創業以来の苦難の歩みからくるもので、もう一つは今日の“大変革”がそう言わしめている凄まじみがあります。

前にも書いたのですが、トヨタはその起業のはじめから“真摯さ”で危機を乗り越えてきたのですが、それが第二次世界大戦後のしばらくの頃、大量の解雇者を出して倒産の淵にあったことがあります。それもメインバンクから見放されてというオマケまでついて、地域経済が破綻するとの日銀の判断で救済され生き残ったのです。

少しここで、ドラッカーによる“真摯さ”の定義を確認します。

“真摯さ”とは「一流の仕事を要求し、自らにも要求する。基準を高く定め、それを守ることを期待する。何が正しいかを考え、誰が正しいかを考えない。真摯さよりも知的な能力を評価したりしない」。“真摯さ”は始めから身につけていなければならない資質で、これに欠けことは危険で、組織を死へとたどらせると言い切っています。

その当時、トヨタ中興の祖と言われ社長であった石田退三さんは、後に会長にもなる若手社員であった張富士夫さんらを相手に「この会社は、いつつぶれるかも分からないぞ。頑張れよ」といつも口癖のように言っていたそうで、“危機意識”は底知れないもので、それが企業文化にもなっています。

トヨタの実質的な創業者は豊田喜一郎さんです。発明王豊田佐吉さんの長男で、東京帝国大学卒業後は家業の研究開発に取り組み、画期的な「G型自動織機」を完成させています。その豊田喜一郎さんが「トヨタ」のまた「日本産業」の将来の“発展の礎”にとして考えて、取り組んだのが「自動車製造」でした。

トヨタには、豊田佐吉そして豊田喜一郎と続けられる“創意工夫”での「モノづくり」という血脈があり、それらが熱く貫いています。「人材もない資金もない技術も乏しい“ないないづくし”」の中から、“企業”の“地域”の“日本”の発展を賭しての挑戦は「どうしてもやり遂げたい、やり遂げねばならない」の想いがありました。

“ないないづくし”のなかで「あらぬ夢と悲愴」の中から始まった自動車事業ですが、それがために“根源の強み”が生れたのでした。不断の危機意識と自存の気概と「無限の可能性を持つ“智恵”」による石田退三さんが言うところの「自分の城は、自分で守れ」の経営で、これがための自戒から「尽きることのないカイゼン」が行われます。

トヨタが強いのは、自存と危機意識のもと「尽きせぬ知恵を生み出す」からで、過去にあった“現実”を忘れないようにしているからです。だから時代の変化に的確、過敏に反応するので。ただことはそれだけではなく、情報化を始めとする“静かな革命”の進展が「存続と成長のルール」を変化させ危機意識をさらに高めるのです。

トヨタは時代の変化を過大にかつ過敏に反応して、それをエネルギーに「“知恵”を増産させて」どこよりも強い基盤を造ってきました。だから「危機感を持たなくなること」が“危機”であるとします。加えて「100年に一度の大変化」は文明レベルのものであり、未知なる脅威であるがゆえに、危機感のレベルを高めなければならないのです。

「工業社会」から「情報社会」へと産業の主軸が変換しています。もちろん現在も農業の営みがあるのように、工業の貢献がなくなることはないのですが「存続と成長のルール」が根底から移り変わりました。「GAFA」が明らかに示しているように“よき種子”であれば大樹になり、過去の環境に適応していた大樹はそれがために枯れかねません。

そこで“機会”の先導者である“知恵”について再確認したいのです。絶対条件についてですが、それは「顧客の欲求、社会の願望を満たす」つまり「なすべきことをなす」という一点に焦点化されますが。今日、必須とされるのがITを始めとする“知識”であり、ためにその偏在をいかに“コラボレーション”させるかが課題となります。 

習得すべきもの

ある意味で、組織とは「機能や能力や知識を持った人材を目的・目標達成のために“コラボレーション”するシステム」とも定義できそうです。この“コラボレーション”の今日的な意味合いも含め確認します。あの「自分の城は、自分で守れ」の気概のトヨタが「我が城を守る」がために「他との最適コラボレーション」を本格化させています。

さて“コラボレーション”にはいろいろな形があり。一般的な意味の“コラボレーション”は、他との関係を言いますが、企業そのものが多様な人材のコラボレーションであり、ここから考えます。ついては、20世紀に特筆すべき人材コラボレーションである「アップル」をまず見て、続いて「トヨタ」について考察し参考にしたいと思います。

スティーブ・ジョブズをまずみますが、彼をして「何があった」からあのような“飛び抜けた成果”を実現させたのでしょうか。学歴でないのは確かで、高度なITスキルがあったからでもなく、彼の強みは何かとなると「クリエーティブ・デザインとリーダシップ」とも言えうで、それらが“圧倒的な執念”によって高められていました。

かなり横道に逸れるのですが「ジョブズは“カリスマ”である故に、大成功したのか」を吟味したいと思うのですが、そのことについては「ドラッカーの見解」をいつものように聞き取ってみると、「成果をあげる人のタイプなどというものは存在しないことに、かなり前から気付いていた。共通点は“なすべきことをなす能力”だけだった」「成果をあげる能力は、習得すべきものだ」と断言します。

そうであるなら、ぜひその「奥義というもの」を知りたいとなりますが、では、ドラッカーの言うことを列挙しますと、その効果のあるものとはしごく当然で「シンプルな考え方」にあります。

1.時間を管理すること、何に時間をとられてるかを知り、時間を体系的に使うことである
2.世の中への貢献に焦点を合わせること。成果に精力を向けることである
3.目線を高くして、自らの強みに基準を据えることである。上司、同僚、部下についても、その強みを中心に据えることである
4.力を集中することである。優先順位を決め、それを守ることである
5.成果をもたらすように意思決定を行うことである

と言っています。そして、必須の基本要件を「真摯たること」としています。

ところで、ジョブズの場合はそのようであるのかどうか。「宇宙に衝撃を与えるものをつくろう」という高みのミッションのもとに、「家庭やオフィスにコンピュータを売ることを通じて世の中を変えられる」の貢献ビジョンをもって、すべての時間をそのことのみに集中し、有能な“はみ出し者達”とコラボレーションし「海賊になろう」のキャッチフレーズでもって究極まで追い込み潜在能力を引き出させるのです。

ジョブズには「世界に衝撃を与えた」ものがいくつもありますが、同じくして多くの失敗と挫折もあるのですが“やり通し”ました。ジョブズは「もし今日が人生最後の日だとしたら、私は今日やろうとしたことを本当にやりたいだろうか」を30年間毎日鏡に向かって語り続けたそうで、まさに「成果をあげる能力の習得」が日常生活となっていました。

また、ドラッカーのことばを拾います。リーダシップについてこのように「リーダーシップとは、人の視線を高め、成果の基準を上げ、通常の制約を超えさせるものである」とあります。ジョブズの場合は「衝撃を与える商品づくり」を、能力あるオタクと“コラボレーション”しリーダシップを発揮して行ったのです。

“リーダーシップ”を発揮することで、通常の制約を超えた世界に衝撃を与える「知識商品」を連続して創作したのです。これは決してカリスマではなく“習得できる能力”によって行うことです。

トヨタの場合を探ってみますが、トヨタは豊田喜一郎さんというリーダーを亡くした後、トップがコラボレーションし全面的に支援したのが、突き抜けたリーダーシップを発揮できる「大野耐一さん」で、氏が行ったのは現場の従業員をして「知識労働者」に育て上げことで、それによって「尽きない知恵(知識)」が創造されて「尽きないカイゼンが」を実現させたのです。

今日の成果とは、リーダーがいかにして“知識労働者”から“知識”を沸き上がらせ活用して実現させるかにかかっています。いまや新知識であっても直ぐに陳腐化するので、変化してやまないグローバル競争のなかでは、常に“創造される知識”が必須なのです。それは、ひとえに真摯なリーダーシップの発揮にかかっているのです。

さらに静かな革命の中においては、他とのコラボレーションへと「自らの強みに焦点を合わせ。強みでないことは他社に任せる」。ジョブズが、宿敵ビルゲイツの「マイクロ・ソフト」と組んだり、トヨタがパナソニックやソフトバンクとコラボレーションしたり、もはや成果を得るためには最適結合いかに行うかが“通常”となります。

image by: dvoevnore / Shutterstock.com

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戦略経営のためには、各業務部門のシステム化が必要です。またその各部門のシステムを、ミッションの実現のために有機的に結合させていかなければなりません。それと同時に正しい戦略経営の知識と知恵を身につけなければなりません。ここでは、よもやま話として基本的なマネジメントの話も併せて紹介します。

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【著者】 浅井良一 【発行周期】 ほぼ週刊

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