1個5万円の高級りんご栽培法が教えてくれた「強みづくり」のコツ

 

少しの飴玉とたくさんの賞賛

「天才は稀である」ので「凡人から強みを引き出す」これが“マネジメントの要諦”で“知識労働者”たる「人づくり」の基本戦略です。ここで求められるのは、この基本戦略の意義を知り実践できるリーダー・シップで、トヨタでは豊田喜一郎さんがその兆しを示し、真摯なリーダーの大野耐一さんが形づくり、その系譜により引き継がれています。

「人づくり」の目的は、人が本来的に持っている個々の能力の強みと仕事の仕方を見極めて、協調してやり抜く精神性を宿らせることです。高級林檎を栽培するように、丹精込めてつくり込むことです。“知識(智恵)”こそが成果を実現させる源泉なので、すべての現場の人材を自ら機会を見つけ挑戦する“知識労働者”に育て上げることです。

さてですが「人材づくり」は“挨拶する”環境づくりから始まります。明るくない職場から“知恵”が生まれることはなく、ましてや協力して目標達成のためにがんばろうと思うはずなどありません。大野耐一さんの教え子である若松義人さんが、明るく挨拶する職場をつくった経営者の事例を紹介しているので、底流の道理を観ます。

それは、まるでイソップ物語の「北風と太陽」のような話です。

経営者は、一言も「挨拶しろ」とは言わなかったし、管理者に「挨拶を徹底しろ」とも指示せず、そのかわり朝夕二回必ず工場に顔を出してみなに「お早うございます」「ご苦労様」と声がけしたのでした。すると戸惑いながら小さな声で挨拶を返す社員が出始め、そのうち社員の方から挨拶すようになり相談を持ちかける者まで出てきました。その経営者は、このように言うのです。

「挨拶が習慣になるまで2年かかりましたが『案外早かった』と思っています。挨拶やしつけは強要するものではなく、上の人間が率先垂範することで定着します。率先垂範してやるその姿を見て、皆もやるようになる。時間がかかりますが、これが一番の近道ではないでしょうか」

ドラッカーによると「企業がどれほどのものかを知るには、3つの問いに答えることによって知ることができる」とします。

1.敬意をもって遇されているか
2.貢献するために必要な教育訓練と支援を受けているか
3.貢献していることを会社は知っているか

の3つです。大野耐一さんが行おうとしたのは、人が本来的に持つ“高次の欲求と能力”を覚醒させ自律型の“知識労働者”へと育て上げることでした。そのために、ドラッカー原則を行っているのです。ただし、従業員の“本来の資質”に敬意を表しすぎて、とことんまで難題を吹っかけて追い込み、成果が出るよう導き熟成させるのです。

“改善は、自分で考えるもの”だとして、人材育成を行いました。「指示通りしようものなら『わしの言う通りやるヤツはバカで、やらんヤツはもっとバカ、もっと上手にやるヤツが利口だ』と叱責します」。大野耐一さんの信念は現場に「カイゼンの醍醐味」を根付かせることで、これ味わった従業員はやがて『問題解決中毒』となるようです。

「権限や権力でやるものじゃない。現場の人たちに対する粘り強い理解と説得なんだ。自分でやってみせて、説得し理解させて行く。少しずつ改善を定着させて、それで“風土”と呼ばれるものになる」。「“風土”と呼ばれるとことまで定着させるには“訓練”によらなけれなばならない。愚直に、地道に、徹底的に行うのは執念の問題だ」

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