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1個5万円の高級りんご栽培法が教えてくれた「強みづくり」のコツ

スーパーでは手軽に買えない、1つ数万円もする高級な果物。これらは一体どのように栽培されているのかご存知でしょうか? 今回のメルマガ『戦略経営の「よもやま話」』では著者の浅井良一さんが、ひとつ5万円の高級りんごの栽培法を紹介し、そこから繋がる「人材づくり」の価値観について、トヨタの事例やドラッカーの言葉を引用して紹介しています。

人づくりの価値観 高級林檎のつくり方

長男から「高級品やで」の一言とともに林檎が送られてきました。旅行に行ったついでに買ったものだそうで、味わってみると確かにスーパーで買ったものより風味が勝ります。そこで、ふと妙に飛躍した思いがよぎったのです。それは、日本人が持つ「ものづくり」についての“こだわり”です。

ところで、林檎の最高価格をご存知でしょうか。それは奥州市特産の「江刺りんご最高級品種サンふじ」で、競り市での落札価格が28個入り1箱(10キロ)140万円という代物で、ご祝儀相場のこととはいえ実に1個当たり5万円なのです。そこでなお気になったのが、その高級林檎の栽培法なのでした。

<「江刺りんご最高級品種サンふじ」の栽培法>

昼夜の激しい寒暖差や石灰とリン酸分の多い土壌という自然と風土に恵まれているという条件があってのことですが、問題はそこからで“智恵”と心血をどれだけ注ぎ込んでつくりあげたのか。

“おいしさ”は日照時間によって決まるのだそうです。日照で作り出される養分の行き届かせ量にかかっています。そこで取られるのが「わい化栽培」というもので、約2.5m程度の高さに抑えられた「わい性台木」に接ぎ木し、育てるりんごの数も少なくして、りんごひとつひとつに養分を充分に行き届かせるのです。

さらに、ひとつの芽から複数できる幼果を摘み取り“かたちのいいもの”だけを残して、収穫が近づいた果実を覆っている葉を摘み取り、全体が赤く色づくように手作業で果実を回転させるのです。りんごの実を回し過ぎると取れてしまうので、丁寧に静かに少しずつ動かすのだそうで、ここまでくるとまさに“創作”とも言えそうです。

さらにさらに言うと、林檎づくりはここで止まっているのではなくて、時期によりさまざまな種類の栽培が試みられ、それぞれの品質が高まるように「有袋栽培」なども取り入れて改良・進化させて行きます。品質安定と向上のため生産者が一体となって取り組んできた結果「江刺りんご」はブランド化され、高く評価されるようになったそうです。

※ ここで誤解なきように余計な解説を付言いたします。よき実りをもたらす「人においての“かたちののいいもの”」についてで、それは俗にいうエリートと称される者たちでは決してありません。社会人としての“かたちのいいもの”とは、あるべき“価値観”に共感できてそして“真摯”であるすべての人達のことです

長々と林檎の話をしましたが、ここには今日的な「知識戦略の“強み”づくりのベスト・プラクティス(最優良事例)」の基本があり、またいろんな意味おいても凝縮されており、ついつい冗舌になりました。満足商品やサービスはどのようにしてつくれるのか、それは功利的な手法では不可能で、高次欲求を充足させることによってのみ発現します。

21世紀の今日において、すべての企業の「存続と成長を可能とさせうる要件」は、結論的に言うと「人をして最高の知識(知恵)と実行をどのように引き出せるか」にひとえにかかっています。

ここで、ドラッカーの言葉を引っぱってきますと。「組織は天才に頼ることはできない。天才は稀である。当てにはできない。凡人から強みを引き出し、それを他の者の助けとすることができるか否かが、組織の良否を決める。同時に、組織の役割は、人の弱みを無意味にすることである。要するに、組織の良否は、そこに“成果中心の精神”があるか否かによって決まる」とあります。

さて具体的にどのように考え、どのように実現させるのか。事は人に関わることなので画一的な組織論理では処しえず、本質を踏まえた人間性摂理に真摯に向き合うこと以外に法はないようです。パナソニックにその実現事例がありトヨタにもあり、そこで今回はトヨタの“カイゼン”の創始者「大野耐一さん」の核心からそれを見ます。

少しの飴玉とたくさんの賞賛

「天才は稀である」ので「凡人から強みを引き出す」これが“マネジメントの要諦”で“知識労働者”たる「人づくり」の基本戦略です。ここで求められるのは、この基本戦略の意義を知り実践できるリーダー・シップで、トヨタでは豊田喜一郎さんがその兆しを示し、真摯なリーダーの大野耐一さんが形づくり、その系譜により引き継がれています。

「人づくり」の目的は、人が本来的に持っている個々の能力の強みと仕事の仕方を見極めて、協調してやり抜く精神性を宿らせることです。高級林檎を栽培するように、丹精込めてつくり込むことです。“知識(智恵)”こそが成果を実現させる源泉なので、すべての現場の人材を自ら機会を見つけ挑戦する“知識労働者”に育て上げることです。

さてですが「人材づくり」は“挨拶する”環境づくりから始まります。明るくない職場から“知恵”が生まれることはなく、ましてや協力して目標達成のためにがんばろうと思うはずなどありません。大野耐一さんの教え子である若松義人さんが、明るく挨拶する職場をつくった経営者の事例を紹介しているので、底流の道理を観ます。

それは、まるでイソップ物語の「北風と太陽」のような話です。

経営者は、一言も「挨拶しろ」とは言わなかったし、管理者に「挨拶を徹底しろ」とも指示せず、そのかわり朝夕二回必ず工場に顔を出してみなに「お早うございます」「ご苦労様」と声がけしたのでした。すると戸惑いながら小さな声で挨拶を返す社員が出始め、そのうち社員の方から挨拶すようになり相談を持ちかける者まで出てきました。その経営者は、このように言うのです。

「挨拶が習慣になるまで2年かかりましたが『案外早かった』と思っています。挨拶やしつけは強要するものではなく、上の人間が率先垂範することで定着します。率先垂範してやるその姿を見て、皆もやるようになる。時間がかかりますが、これが一番の近道ではないでしょうか」

ドラッカーによると「企業がどれほどのものかを知るには、3つの問いに答えることによって知ることができる」とします。

1.敬意をもって遇されているか
2.貢献するために必要な教育訓練と支援を受けているか
3.貢献していることを会社は知っているか

の3つです。大野耐一さんが行おうとしたのは、人が本来的に持つ“高次の欲求と能力”を覚醒させ自律型の“知識労働者”へと育て上げることでした。そのために、ドラッカー原則を行っているのです。ただし、従業員の“本来の資質”に敬意を表しすぎて、とことんまで難題を吹っかけて追い込み、成果が出るよう導き熟成させるのです。

“改善は、自分で考えるもの”だとして、人材育成を行いました。「指示通りしようものなら『わしの言う通りやるヤツはバカで、やらんヤツはもっとバカ、もっと上手にやるヤツが利口だ』と叱責します」。大野耐一さんの信念は現場に「カイゼンの醍醐味」を根付かせることで、これ味わった従業員はやがて『問題解決中毒』となるようです。

「権限や権力でやるものじゃない。現場の人たちに対する粘り強い理解と説得なんだ。自分でやってみせて、説得し理解させて行く。少しずつ改善を定着させて、それで“風土”と呼ばれるものになる」。「“風土”と呼ばれるとことまで定着させるには“訓練”によらなけれなばならない。愚直に、地道に、徹底的に行うのは執念の問題だ」

トヨタには「『なぜ』を5回繰り返し“真因”を明らかにする」とする“なぜなぜ分析”なるものがあります。「1つの問題に対して『なぜ?』とその問題を引き起こした要因を提示し、さらに『なぜ?』と何回もそれを繰り返すと、やっと“根本的原因”が分かり対策を立てることができるのです」。

少なからずの経営者の方が「業績の悪い」のを「従業員が働かない。出来が悪い」とか「景気が悪いから」だとか言われることがあります。“真因”探りについて“なぜなぜ分析”をされることをお勧めます。松下さんように「血の小便」が出るまで考え抜いたら「経営の“コツ”はここなりと気づいた価値は百万両」となるかとも思われます。

松下幸之助さんは「真摯に素直」に事業について悩み考え続けて、ある時にハタと気付いて「大いに安心」されたのだそうです。これと同様に京セラの稲盛さんも、新入社員の団体交渉要求をきっかけに「会社とはどういうものでなければならないか」に気付かれました。それは、正しくマネジメント行う経営者の“基本思考”なのです。

トヨタでは「少しの飴玉とたくさんの賞賛」ということを言うのだそうで、飴玉とはもちろん金銭的な見返りですが、しかしこれだけでは人は動かず、改善の成果を直属の上司や工場責任者がきちんと認めることがあって始めて改善提案件数なども増えるのだそうです。世界ではどうかなのか知れませんが、少なくとも日本ではこれです。

image by: Shutterstock.com

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戦略経営のためには、各業務部門のシステム化が必要です。またその各部門のシステムを、ミッションの実現のために有機的に結合させていかなければなりません。それと同時に正しい戦略経営の知識と知恵を身につけなければなりません。ここでは、よもやま話として基本的なマネジメントの話も併せて紹介します。

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【著者】 浅井良一 【発行周期】 ほぼ週刊

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