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月の報酬たった3千円。激減する消防団員のために国が今すべきこと

日本の国防のあり方について軍事アナリスト、危機管理の専門家として厳しい目を向け提案を続ける小川和久さん。今回のメルマガ『NEWSを疑え!』で俎上に上げたのは、全国的に消防団員が減り続けているという実態についてです。小川さんは、消防団員の報酬年額の目安3万6500円、月額で3千円を少々見直す程度では必要人員の確保はできないと明言。一定の訓練と義務を課し、職務に見合った報酬ありきで準常備消防組織を構築するため、主婦や定年世代の活用策を具体的に示しています。

消防団員を減らさないための戦略

18日、イージス・システム搭載艦2隻の建造とスタンドオフ・ミサイルの導入が閣議決定されました。しかし、「道具」を揃えることだけに目を奪われ、肝心の日本の国防がいささかも考えられていない点で、本末転倒と言わざるを得ません。

それについては、これまでも編集後記に書いてきましたし、これからも触れていくつもりですが、今回は防災能力の問題について一言。16日付けの毎日新聞は次のように報じました。

「総務省消防庁は、地域の防災活動を担う全国の消防団員数(4月1日現在)が81万8478人となり、過去最少を更新したと発表した。前年からの減員数は1万3504人で、2年連続で1万人を超えた。同庁は24日に要員確保策の検討会を開く。

 

東京都、香川、鹿児島両県を除く44道府県で減った。減員は新潟の959人が最多で、静岡が779人、長野が718人と続いた。

 

消防団は市町村などが設置。同庁によると、少子高齢化や市町村が支払う団員の年額報酬が財源不足などのため、国の目安(1人当たり年額3万6500円)を下回ったり、出動手当がなかったりと市町村で差が生じていることが減少の原因。検討会では報酬を含めた待遇改善などについて話し合う」(12月16日付毎日新聞)

しかし、生半可な処遇改善などで消防団員の減少に歯止めをかけようとしても、それが無理なことは報酬年額の目安が3万6500円とされていることでも明らかです。月額にして3000円ですよ。中には月額1000円ほどのところもあります。消防団員は自分の職業を持っているほかに、全くのボランティアとして消防防災の任務に当たっています。危険な職務であることは東日本大震災で多くの犠牲者を出したことでもわかるでしょう。総務省は一体どうしようとしているのでしょうか。

実を言えば、同じような話は20年以上も前から一歩も前進していないのです。私は総務省消防庁の消防審議会の委員(現在も同審議会の専門委員です)として、消防団の改革などについての小委員会の委員を務めてきました。

そして15年ほど前から、消防団を準常備消防組織に編成し、国全体の消防防災能力を向上させるべきだとして、次のような提案を繰り返してきました。常備消防とは私たちがお世話になっている普通の消防、つまり市の消防局などです。それを補完し、国の消防防災能力全体を引き上げようというのが消防団の準常備消防化です。

まず、消防団員はボランティアに頼るのではなく、定年退職者や主婦を含む女性から募ります。報酬は月額15万円程度。一定の能力を備えるため、定期的な訓練と災害時の準常備消防に見合った出動を義務づけます。

そして、可能な部分を機械化します。普通の消防隊員と比べて体力面で劣るのは紛れもない事実ですから、例えば消防車は小型のはしご車の近代化されたもので統一します。小型のはしご車は、はしごをたたんでいれば普通の消防車として使えますし、はしごを伸ばせば3~5階建ての建物にも使えます。

はしごの操作(伸縮、角度調整、回転)と消火ノズルの調整は、はしごの先端部分と車体側面にある小さな2本のレバーでできるようにします。この機能は、50メートル級の大型はしご車では標準装備となっているものです。

このような枠組みを示し、消防団員を募っていき、一定規模で地域ごとに組織化していくのです。田舎暮らしで都会から来る人を含めて、地域で暮らす定年退職者や女性にとって、現金収入の面からもメリットがあるはずです。地方創生に組み込んでもらいたいプランでもあります。報酬の面は、まずは提案してみて、応募状況を見ながら改善していくくらいの柔軟性があれば、魅力的なものになると思います。

私が関係している静岡県の消防団員の定員は2950人です。そこに月額15万円を支給すると月に4億4250万円。年間では53億1000万円。機械化の問題を含めても不可能な数字ではありません。まずは各都道府県がモデルを描き、国に提案してみてはどうでしょうか。それを国が制度化し、財政的に補助することになると、具体化していくのは時間の問題のような気がします。

このくらいの「絵」を描くのが戦略的な思考というものです。防衛も防災も、日本は絵を描けず、枝葉の議論ばかりです。幹を描くことができるようになるまで、文句を言い続けなければならないとは辛いですね。(小川和久)

image by:Aduldej / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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【著者】 小川和久 【月額】 初月無料!月額999円(税込) 【発行周期】 毎週 月・木曜日発行予定

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