1月4日の年頭記者会見で、緊急事態宣言発出の検討を発表した菅義偉首相。奇しくもこの日は東京オリンピックまで200日という節目の日でもありましたが、首相はあくまで「コロナに勝った証」としての開催にこだわり続けています。そんな姿勢に否定的な意見を記しているのは、健康社会学者の河合薫さん。河合さんはメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で今回、「開催できないリスク」をまったく考慮していない政府を「完全なる危機管理意識の欠如」と強く批判するとともに、日常に戻るのは来年の春と言われている日本での今夏の開催を叫び続ける無責任さを非難しています。
【関連】オリンピック強行か。「新型肺炎は夏までに終息」という思考停止
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
オリンピック、できるんですか?
「緊急事態宣言」が発令されることになりました。
遅い…というのが率直な感想です。
第3波がくることはとうの昔にわかっていたし、感染者数も第1波、第2波より増えることもわかっていました。
いったい政府は何をやっていたのか?
コロナはさまざまな問題を顕在化させましたが、政府の“ソレ”は危機管理の脆弱さです。
2020年2月26日vol.164「オリンピック中止排除という思考停止」の中で「オリンピック中止を考えないことが最大のリスクだ」と書きましたが、「国民のための内閣」だの「国民の命を守る」だのと美しい言葉を好んで使うのに、リスクの概念がないのです。
そして、今「緊急事態宣言」を出すと言っているのに、何がなんでも「コロナに勝った証としてオリンピックを開催する!」と。
「3月には聖火リレーをスタートし、4月にはコロナ対策を入れたテスト大会を実施し、6月までに各競技の代表選手を決める」と豪語。
「開催できないリスク」を全く考えていません。…これは完全なる危機管理意識の欠如としかいいようがありません。
どんなに感染症対策を万全にしたところで、リスクはなくならないのです。
今、必要なのは「自分が進もうとしている未来(=オリンピック開催)で、起きそうな出来事を予期し、それに備える」対処です。これは「アンティシパトリー・コーピング(anticipatory coping)」と呼ばれています。
オリンピックが予定されている7月までに発生しうるさまざまな“リスク”を徹底的に想定する。最悪の事態にそなえ、そのときにとりうる選択肢を事前に準備しておく。
「開催」へのロードマップではなく、「開催できない」可能性のロードマップも確実に準備しておく。
そのことが「進もうとしている未来」が閉ざされた時に生じる問題を最小限に抑えることに役立ちます。
「攻めるが勝ち」とはよく言いますが、アンティシパトリー・コーピングも攻めの対処です。しなやかに攻めることが結果的に勝ちにつながるのです。
先月、英医療調査会社エアフィニティーは、新型コロナウイルスのワクチンが各国・地域で普及し、社会が日常に戻る時期を予測した調査結果を発表しました。
同社によれば、最も早いのは米国で、今年の4月。カナダ6月、英国7月、EUは9月、オーストラリアも12月と続き、主要先進国はいずれも年内に「正常に戻る可能性」が予想されました。
一方、日本は22年4月です。来年の春です。
先進国では最も遅いという結果が出てしまったのです。
オリンピックに出場する選手、パラリンピックに出場する選手、コーチなどのスタッフ、ボランティア、医療者、政府関係などなど、たくさんの人が関わるイベントを、本当に「コロナに勝った証として開催する」と言い切ることは…無責任すぎる、と私は思います。
みなさんのご意見もお聞かせください。
image by: 首相官邸