オリンピック強行か。「新型肺炎は夏までに終息」という思考停止

kawai20200226
 

2月26日、新型肺炎の感染拡大防止策として、大規模なスポーツや文化イベントについて、今後2週間の中止や延期、規模縮小を要請した安倍首相。5ヶ月後には東京オリンピックを控えていますが、海外からは開催自体に懐疑的な声も上がっています。その世界的な批判の根本原因として、「五輪開催中止の可能性を除外している日本の姿勢」を指摘しているのは、健康社会学者の河合薫さん。河合さんは今回、自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で、このような非常事態下に徹底すべきにも関わらず日本に欠けている「リスクコミュニケーション」について解説しています。

※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2020年2月26日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

オリンピック中止排除という思考停止

新型コロナウィルスの感染拡大が止まらない中、海外のメディアからは「東京オリンピックは本当に開催できるのか?」という疑念が出てきています。

といっても、正確には「感染拡大が既に日本で広がっている」という前提で物事を考えない姿勢に対しての批判であり、「夏までには終息している」といった根拠なき楽観にすがり「問題ない、開催できる。いや、開催する」とオリンピック開催中止の可能性を除外していることが原因です。つまり、思考停止に陥っているのです。

そもそもこういった異常事態では「リスクコミュニケーション」を徹底することが最大のリスク管理になります。しかしながら、日本ではリスクコミュニケーションがゼロ。政府側は(オリンピック組織委員会含め)、「リスクコミュニケーション」をないがしろにし続けています。

「リスクコミュニケーション」は個人、集団、組織などに属する関係者たちが情報や意見を交換し、その問題について理解を深め、互いにより良い決定を下すためのコミュニケーションです。つまり、一方通行ではなく双方向。言い換えれば、リスクコミュニケーションとは、一般の人たちの「知る権利」であり、リスクに対する彼らの不安や被害をできる限り減らすための唯一の手段なのです。

そういったコミュニケーションの積み重ねが、リスクそのものをなくしたり、想定外の出来事が起きた時のパニックを防ぎ、冷静な判断とリーダーシップにつながります。

しかしながら、日本は「お上が決めたことに従う」という文化が古くからあるため「リスクコミュニケーション=双方向」という考え方が希薄でした。その一方で、日本は世界中のどの国より「リスクコミュニケーション」の大切さを経験した国でもある。

原発の事故。そうです。原発のときの、さらにはその後の再稼働などでも、リスクコミュニケーションの重要性が専門家から指摘され続けてきたのに、今回も政府は性懲りなく「リスクコミュニケーション」を軽んじているのです。

リスクコミュニケーションという用語が広く使われるようになったのは、1万人以上の死者を出して史上最悪と言われたインド・ボパール事故がきっかけでした。

1984年にボパール北端にある有限会社インド・ユニオン・カーバイドの工場で、操業中にメチルイソシアネートという化学物質の貯蔵タンクに水が異常に流入。その結果生じた化学反応によって、タンク内の圧力が急激に上昇しました。

ところが安全装置が作動せず、メチルイソシアネートが大気中に大量に放出され、有毒ガスが工場周辺の市街地に流出する事態に発展したのです。

ボパール市民健康病院の発表によると8,000人以上が瞬時に死亡し、50万人以上の人が被害を受けたとされています。工場には、アメリカ合衆国ウェストバージニア州インスチチュートの工場と同じ安全基準が適用されていると発表され、事故後もそう主張され続けました。

このような事態を受け、1986年に米議会は、「緊急時行動計画と市民の知る権利法」(Emergency Planning and Community Right- To-Know Act =EPCRA)を制定。地域住民が化学物質のリスク情報を知ることができるようになり、環境に影響を及ぼす可能性のある施設を設置する場合、一般市民との対話プロセスが必須となりました。

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