アリババ創業者マー氏の失踪に見えた中国崩壊。四千年の歴史は繰り返す

 

毛沢東からトウ小平までの歴代の指導者というのは、とにかく共産中国の安定のために必死に仕事をしてきたわけですが、江沢民以降は「どうやら自分たちの王朝は歴史に残る反映を実現しつつある」という認識を持ち始めたようです。

その証拠に、江沢民、朱鎔基、胡錦涛、温家宝といった指導者たちは、やたらに「自分たちは清朝の最盛期のような王朝の隆盛を実現しつつある」というような意識を持っていたようです。その際に、長い清朝の時代の中で一番理想とされていたのは、驚いたことに雍正帝の時代でした。

雍正帝というのは、質素倹約を旨として、徹底的に国家財政のリストラを行う一方で、地方官の報告書に全て目を通して朱筆で指示を書き込んで返却する、今のシリコンバレーのCEOのような多忙ぶりで、平均睡眠時間4時間、結果的に在任13年弱で過労死したという仕事の鬼です。

その一方で、自身の政治権力を高めるためには冷酷な処分も、果断な判断も、また権謀術数も行う冷血な専制君主でもありました。いわば中華の皇帝制度の特徴が集約されたような人物です。その雍正帝の時代に、中華の国力は絶頂期に近づいたのでした。

どういうわけか、歴代の共産党の指導者はこの雍正帝の「去私」という姿勢に自分たちは少しでも近づこうとしていたようです。巨大な中華帝国のかじ取りという責任の重さに対してある意味、謙虚であったのかもしれません。

これを受けて、雍正帝を主人公にした大河ドラマが何本も作られました。後年は、峻厳な雍正帝が温厚な中年の億万長者のように描かれて行きましたが、初期に作られた『雍正王朝』は、それまで冷血な悪役とされた君主を現代的なヒーローに読み替えた傑作でした。

ですが、2020年代に入った近年の中国の大河ドラマは、より爛熟して退廃が忍び寄って行った乾隆帝の時代を称賛したかと思うと、非道な専制君主であった秦始皇をヒーローにするなど、カルチャーの面でもどこか不安定さを感じます。

実際に、経済も好調ではないと思います。中国経済は、もう大規模な内需で自立しているとか、こうなると米国とのデカップリングで良いという声もあります。ですが、アリババの成功は許さない、テックの分野では依然として自由がないという中では、成長の可能性に「無限」という感じはありません。また、リスク選好マネーということで、アメリカの投資家を失った場合に、中国独自でどのレベルのファイナンスができるのかは、やはり限界があると思います。

そうした中で、中国はやはり、どこかの時点でまずは「グラスノスチ(情報公開)」をもっと踏み込んで行かねばなりません。そうでなければ、民衆から不信任を突きつけられて王朝が動揺してしまうからです。

またその先には複数政党制ということも、何らかの工夫をして採用して行かないと、どこかで立ち行かなくなると思います。ものすごく乱暴な仮説ですが、例えば共産主義と民主主義を二大政党にするのは無理なので、太子党と上海閥が二大政党になるとか、いきなり完全普通選挙の導入は無理なので、戦前の日本のように納税額で区別する限定選挙をやるとか、市長公選制は人口100万都市だけ実験的にやるとか、色々と柔軟にやったらいいのではと思うのです。

反対に、そうでもしないと豊かになった国民の本音との乖離が広がって、政権としては危険な状況に立ち至るかもしれません。

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