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中国「海警法」成立で尖閣危機。毎日以外が報じない日本の突破口

1月22日、中国が「海警法」を成立させ、国内法を盾に尖閣諸島周辺海域での活動を活発化させる可能性が高まったと、マスコミ各社が伝えています。しかし、毎日新聞を除けば踏み込みの足りない報道ばかりと嘆くのは、軍事アナリストでメルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する小川和久さんです。小川さんは過去にも「なぜ日本は尖閣領海に侵入する中国公船を取り締れないのか?」などで領海法改正を訴えていますが、今回の海警法成立は、日本が対抗するための突破口になりうると指摘。マスコミの正しい認識と世論形成への尽力を求めています。

海警法に滲み出た中国の本音

中国が尖閣諸島にも影響の及ぶ海警法を成立させました。

「中国の全国人民代表大会常務委員会会議は22日、中国海警局に武器の使用を認める海警法草案を可決、同法は成立した。中国メディアが報じた。海洋権益維持を目的に発足した海警の法整備が完了し、体制や装備も強化される。中国が領有権を主張する沖縄県・尖閣諸島の周辺海域や南シナ海で海警の活動が活発化し、緊張が高まる恐れがある。施行は2月1日」(1月22日付共同通信)

この動きは早くから報じられていましたから、これまで述べてきたとおり、海上保安庁の増強、陸海空自衛隊の即応態勢の強化、日米同盟の深化によって手出しを躊躇わせる抑止力を一層高めるとともに、領海法の改正と日中漁業協定の決着を図り、鉄壁の領域防衛を実現しなければならないのは言うまでもありません。

そのためには、政府と与野党が危機意識を持ち、コロナ対策があろうと何があろうと、迅速に行動する必要があります。しかし、世論を形成し、政治を動かしていく役割を担っているはずのマスコミの認識が気になるのです。

日本の新聞で今回の海警法問題の内容に踏み込んで報道したのは1月23日付の毎日新聞だけでした。毎日新聞は見出しに「海洋進出に独自解釈中国海警法、『管轄海域』あいまい」と掲げているように、中国の本音が滲み出た「管轄海域」という表現に着目し、次のように伝えています。

「中国海警局の船は機関砲を備えるなど既に重装備化が進み、軍とも一体的に活動する。22日に成立した『海警法』は、これまでブラックボックス状態だった武器使用規定や具体的な権限の法的な根拠を明らかにしたと言える。そこから透けて見えるのは、独自の基準を国内外に示し、新たな国際秩序を生み出そうとする戦略だ。

 

中国は近年、他国との権益争いで『法律を武器』とする姿勢を鮮明にする。習近平国家主席は2020年11月の演説で『対外問題に関わる法整備を加速し、立法、法執行、司法の手段で闘争し、国家主権や核心的利益を守る』と述べた。(中略)

 

権限の範囲を『管轄海域』と特異な表現にしたのも、南シナ海での一方的な主張を正当化するためとみられる。中国は南シナ海の大半を占める『九段線』内の権益を主張するが、オランダ・ハーグ仲裁裁判所は16年に『法的根拠がない』とこれを否定した。もし海警法が権限の範囲を『領海』などと国際ルールに則して明記すれば、九段線の範囲で活動できなくなる。そこで『管轄海域』という言葉を持ち出したとみられる。(後略)」

実を言えば、この部分にこそ日本が中国と渡り合い、その拡張主義を撥ねのけていくうえでの突破口がのぞいているのです。領海法の改正にあたり、日本も中国と同じように「管轄海域」での強制措置を可能にすると謳えば、中国の船や航空機に対して「この海域は日本の管轄海域だ」と主張できるようになり、ガチンコの勝負を避けたい中国への歯止めとなるのです。

毎日新聞以外のマスコミは、海警法成立の動きと、それが尖閣に及ぶ影響などを伝えたに過ぎません。読売新聞にしても「法執行の場として、領海、排他的経済水域(EEZ)だけでなく『管轄するその他海域』との定義も示し、『有事に際して公海上でも外国船を妨害するのではないか』(外交筋)との懸念が出ている」と、管轄海域という表現に注意を払っているとは言えない書きぶりです。これでは、日本国民に領域を守ろうという意識が育つ訳はありません。新聞各紙の奮起を期待したいと思います。

ひとつだけ毎日新聞の記事に注文をつけるなら、「中国海警局の船は機関砲を備えるなど既に重装備化が進み」というくだりです。

日本の新聞は注意を払っていないようですが、巡視船の武装を比較するなら、40ミリ、30ミリの機関砲、20ミリバルカン砲、12.7ミリガトリング砲を備えた海上保安庁のほうが圧倒的に重武装であり、尖閣周辺で行動する中国海警の船は4隻編成の場合でも武装しているのは1隻にとどまっているのです。76ミリ砲を積んだ大型巡視船も10隻で、尖閣諸島で前面に出てくることは控えています。中国のほうが重武装のはずだという思い込みは、ジャーナリズムの視線を曇らせかねないので要注意です。(小川和久)

image by:Igor Grochev / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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