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テスラはビットコイン不要論に傾くか?イーロン・マスクが「世界初の自動運転車」を宣言する日

15億ドルという途方もない金額分のビットコインを大量購入して賛否が分かれている米国の自動車メーカー「テスラ」。同社は、以前より条件付きの自動運転機能を持つ電気自動車(EV)を開発していることで知られていますが、手ぶらのまま目的地にたどり着くレベルの自動運転車の登場はいつになるのでしょうか。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では、著者で「Windows 95を設計した日本人」として知られ、自らテスラModel Xも所有するシアトル在住の世界的エンジニア・中島聡さんが、近く起こるであろう自動運転車をめぐる未来予測と、テスラ社という企業が持つ可能性について詳しく解説。さらに同社のビットコイン大量購入は大きな間違いであるとして、その理由を記しています。

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

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「自動運転」の近未来

これまで自動運転に関しては、テスラを中心に色々と書いて来ましたが、一度頭の中を整理する意味でも、これから業界全体に起こるだろうことを私なりにまとめてみようと思います。

まず確実に起こるのは、各社によって「世界初の自動運転車」が次々と発表されることです。

レベル4は「特定の条件で、人間の関与なく、安全に自動運転出来ること」で、レベル5は「運転席すらなく、あらゆる環境で、目的地まで自動運転出来ること」です。特にレベル4は「特定の条件で」という条件付きなため、曖昧さがあり、それゆえに「我が社の自動運転こそ本当のレベル4」という宣言が続くのです。

テスラのオートパイロットは、レベル3(高度な運転補助)で、自動運転にまかせてスマホを操作するなどはまだまだ危険です。高速道路のような車線のはっきりした場所では、かなり安定していますが、一般道ではまだまだです。カーナビで指定した目的地まで、自動的に運転してくれることもありません。

オートパイロットは、あくまで「運転補助」なので、運転手がハンドルを握っていて、いざという時には手動運転に切り替えて事故を回避する必要があり、そのために、ハンドルにかかる力を常時監視し、それがなくなると警告が出る仕組みになっています。

現在ベータ版として一部のユーザーにテスラが提供しているFSD(Full Self Driving、完全自動運転)はレベル4を目指したもので、公開されたビデオを見る限り、一般道も含めて、カーナビで指定した目的地まで運転手の関与なしに自動運転出来るようです。このモードになった時にも、運転手がハンドルを握り続ける必要があるかどうかは明確ではありませんが、事故を起こした場合の責任が誰になるかを決める重要な話なので、慎重な行動に出ると予想出来ます。

テスラは十分な安全性が確認出来たところで、今年中に一般ユーザーに対してもFSD を提供すると宣言していますが、実際に「ベータ」の文字を外せるほど安全性が確保出来るとは私には思えません。私のModel Xで使えるようになったとしても、一般道での「ながら運転」はしないと思います。

とはいえ、その段階でテスラは「(商用車として)世界初のレベル4の自動運転」を宣言するでしょうが、それに異論を唱える人もたくさんいるだろうと思えます。「レベル 3.5 に過ぎない」と言う言葉も聞かれると思います。

それに続いて、GMや中国のメーカーもFSDをリリースし、「テスラの自動運転は、レベル4ではない。我が社のFSDこそ、本当のレベル4だ」と主張しながら「世界初のレベル4の自動運転」を宣言することになると思います。

レベル3である「プロパイロット」や「アイサイト」を持つ日産とスバルも、自動運転機能を改良して、テスラと同等のレベルにまで自動運転機能を上げてくるでしょうが、日本の厳しい法規定と保守的な企業文化を反映して、簡単にはレベル4を謳っては来ないと思います。

そんな混沌とした時代が、ここから3年ほど続くと思います。

それと平行して、運転席すら持たないレベル5の自動運転車がタクシーおよび配送業務向けに開発され、限定した地域での運営が始まります。これに関しては、共産党がなんでも決めることが出来る中国が圧倒的に有利ですが、地方自治体の力が強い米国や、比較的小さなヨーロッパの国でもそれなりの動きがあると予想出来ます。

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日本は、地方で高齢者の足が奪われつつある現状を考えれば、高齢者向けの自動運転バスの需要は明らかにあり、このニーズを上手に活用すれば、「ロボットバス」先進国になるチャンスは十分にあると思います。私が地方自治体の長であれば、あらかじめ定まった道路だけを低速(時速40キロ以下)でオンデマンドで走る自動運転バス(7~8人乗り)を導入し、それで、路線バスや(旅館、ゴルフ場、老人ホームの)送迎バスを置き換えることに思いっきり力を入れるだろうと思います。

トヨタ自動車が本気でe-palette(トヨタが2018年に発表した、移動や物流、物販など多目的に活用できるモビリティサービスを目指した次世代EVコンセプトカー)で勝負したいのであれば、これ(日本の地方の高齢者の足)こそが、最初の一歩(Business Entry Strategy)として最適であり、長期ビジョンのスマートシティとも親和性が良いと思います。

オンデマンドの配車問題は、最適解を求めることは「巡回セールスマン問題」と同じく困難ですが、「十分に実用的な答え」を見つけることはそれほど難しくもなく、私も bus2.0 というプロトタイプを1年ほど前に作りました。オープンソース化してあるので(https://github.com/snakajima/bus20)、興味のある方は是非ともご覧ください。マルチコアをどう活用するかなどの観点からも、ソースコードを読むだけで良い勉強になると思います。

ちなみに、自動運転車も完璧ではないので、今後さまざまな事故を起こすのは当然ですが、特に人命の損失に繋がる事故を起こすたびに、メディアが大騒ぎをし、その副反応として、(自動運転車やその技術を提供している会社の)株価が大きく下げたり、最悪の場合は、自動運転機能を一時停止せざるを得ない状況に追い込まれることが繰り返されると思います。

その際には、人間が運転する自動車もある一定の確率で事故を起こすことを忘れ、「自動運転技術はまだ未熟だ」とか「機械に頼りすぎるのは危ない」などのネガティブな情報が、株を空売りしているショートセラー筋から発せられて、株が乱高下することになります。

テスラ車は、しばらく死亡事故を起こしていませんが、次に起こした時には、(少なくとも一時的に)株価が大きく下がることはほぼ確実なので、株を持っている人は、ある程度の覚悟をしておく必要があります。

メディアやショートセラーがなんと言おうと、自動運転技術は進歩を続け、ある時点で必ず人間が運転する自動車よりも安全になり、最終的には「人間が運転する自動車なんて危なくて仕方がない」と多くの人が思うようになるので、そんな時代を見据えた長期的な投資戦略が必要です。

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テスラの本当の価値

チャマス・パリハピティヤは、私が尊敬する投資家の一人ですが、彼がテスラに関して語ったインタビューの解説ビデオ(Billionaire Investor: Tesla Could Be Worth Trillions)の中身がとても濃いので、テスラのことをもっと知りたい人には是非とも見ていただきたいと思います。

簡単にまとめると、テスラは単なる電気自動車の会社ではなく、テスラが起こそうとしている電力革命に目を向けるべきだと彼は主張するのです。

電力ビジネスは、社会に必須なインフラであるからこそ規制も厳しく、企業も保護されて来ましたが、それが、各家庭に設置される太陽光パネルや蓄電池により、大きな変革の時を迎えようとしています。

しかし、そんな変化は、決して業界内部からも政府からも起こらず、既存のビジネスが持たない技術と新しいビジネスモデルを掲げた外部から起こるのです。私が常日頃から言っている「DX(デジタル・トランスフォーメーション)は業界の外から起こる」の典型的な例です。

テスラは、そんな世界に向けて、ハードウェアを売るだけでなく、ソフトウェア技術を駆使して、バーチャルな電力ビジネスを作ろうとしており、それこそが、電力事業のDXであり、そこで作られる価値は、単なる電気自動車の会社が作り出す価値を凌駕して当然だという話です。

私の目に止まった記事

Bitcoin is now worth $50,000 ー and it’s ruining the planet faster than ever

ビットコインの価格が5万ドルを超えたことが話題になっていますが、ビットコインのシステムを維持するためには、世界中のサーバーでマイニング(採掘)という膨大な計算をする必要があり、今や 13.62ギガワット (年間だと 124 テラワット時)を消費するようになっているそうです。

これは世界の電気全体の電力の消費量の 0.5% に相当し、二酸化炭素の排出量に換算すると、年間三千七百万トンに相当するそうです。

ビットコインは、価格が上がれば上がるほど、マイナー(採掘者)たちにとって魅力的になるため、サーバーの数が増え、それに応じて電力消費量も増えるため、このまま放置することは、地球温暖化にとって、とても危険です。Bitcoin Could Push Global Emissions Above 2 Degrees Celsius, Scientists Sayという記事によれば、ビットコインが地球の温度を摂氏2度押し上げることになるという試算もあるそうです。

この事実に、各国の政府がちゃんと目を向けるようになれば、ビットコインを使った商取引なんて許して良いわけがないことが明らかになるため、何らかの規制をせざるを得ない状況に追い込まれると思います。

繰り返しになりますが、テスラがビットコインを購入したことは、大きな間違いです。「地球を維持可能なものにしよう」という会社のビジョンに反しています。

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image by: canadianPhotographer56 / Shutterstock.com

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