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A man in a suit. An orange notebook with Japanese writing. Translation: Pension handbook.

年金保険料の支払いが困難でも「未納」より「免除」申請の方が得をする

年金保険料には、もしも支払いが困難な際に「免除」を申請することができます。しかし、年金アドバイザーのhirokiさんによると、この「免除」申請によるメリットは支払いのこと以外にもあるようです。今回の無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』で、そのメリットについて詳しく解説しています。

年金保険料の免除が最も力を発揮する時

所得が低くて国民年金保険料を支払うのが困難などのような場合は保険料を免除する事が出来ます。勝手に免除してもらえるのではなく、自分で市役所や年金事務所に申請に行く必要があります。免除申請が通ると最大過去2年1ヶ月と翌年6月までが免除期間になります。例えば令和3年7月に免除申請した場合は、1度の申請で最大で令和元年6月から令和4年6月までの期間が免除期間になります。

免除期間は国から多額の税金(11兆円ほど)が投入されていて、全く保険料を支払わない全額免除の場合でも将来の国民年金からの給付である老齢基礎年金の半分の額に相当します。一応、全額免除にしておくとして、それが40年間(480ヶ月)だったとしても老齢基礎年金780,900円(令和3年度満額)の半分の額390,450円が受け取れます。

とはいえ20歳から60歳までの480ヶ月間きっちり年金保険料を納めても満額はやっとこさ780,900円(月額65,075円)であり、全額免除になればその半分になってしまいます。税金分が受け取れると言っても、免除期間が多いというのはとても生活費としては少なすぎると言わざるを得ません。

免除にすると老齢基礎年金の額が低くなってしまうので、年金額の低下を補いたい人は保険料を支払える余裕が出てきた時に、過去の免除期間を追納したほうが良いです。直近10年以内の免除期間は保険料を納める事で、免除期間は保険料を納付した期間(保険料納付済期間)になる。

なお、免除ではなく単に保険料を未納にしてた場合は、直近2年1ヶ月分なら遡って納める事が出来る。それは保険料を納める時効が2年以内なので、未納にしてる期間は2年以内に納める必要がある。免除期間にしておくと2年の時効が10年に大幅に延ばしてもらえる。

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※ 注意

なぜ2年1ヵ月以内の保険料が納められるのか。これは保険料の納付期限が関係します。

国民年金保険料は例えば3月分の保険料は翌月の4月末までが納付期限というように、その月の保険料は翌月末日までが期限となっています。そうすると令和3年3月の2年前は平成31年3月ですが、平成31年3月中はその前月の2月分の保険料の納付期限が到来していないので、平成31年2月分の保険料までが時効以内となる。

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さて、免除期間は保険料を支払わなくても税金分は貰えるというようなメリットがありますが、本当はそれが免除の本来のメリットではないです。免除が本当の力を発揮するのは、若い時に大きな病気や怪我を負ったりした時の障害年金や、自分が亡くなった時に遺族に発生する遺族年金を請求するような場合です。なので簡単に事例を考えてみましょう。

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20歳になる平成15年3月から国民年金第1号被保険者として国民年金保険料を支払う義務が生じたので、毎月の保険料を支払う必要があった。ところが、大学生だったので国民年金保険料を支払うのが難しかったため学生納付特例免除を利用した。学生が使う免除である学生納付特例免除は将来の老齢基礎年金額には反映しないので注意。

卒業して社会人になったら学生の時に免除していた保険料を支払う事を期待して、学生の間は保険料支払いを猶予するというような意味がある。もし支払わない場合は、将来の老齢の年金を貰うための最低限満たすべき年数である10年以内(保険料納付期間+免除期間+カラ期間≧10年)には組み込む。

平成17年4月1日に民間企業に就職して厚生年金加入になったが、同月の平成17年4月25日に会社を退職してしまう。平成17年4月は厚生年金の被保険者期間(国民年金第2号被保険者)ですが、就職した月に退職をした場合は、4月25日退職をした翌日4月26日からはまた国民年金第1号被保険者となり、4月分の国民年金保険料を自ら支払う必要がある。

同じ4月に厚生年金期間(給料から厚生年金保険料天引き)と国民年金期間(自ら国民年金保険料を支払う)がありますが、月の最後の被保険者期間をその月の被保険者期間とするルールがある。なので4月は国民年金保険料を支払う月となるが、同時に厚生年金保険料も支払う月となる。4月26日以降に加入となった国民年金保険料(4月分)を支払わなければ、年金記録としての1ヶ月にカウントされないやや特殊な期間となる(平成27年10月前の一元化前は)。

4月は厚生年金保険料は給与から天引きされたものの、その後の4月分の国民年金保険料を未納にしたとする。よって平成17年4月は未納期間(厚生年金保険料支払ってるので老齢厚生年金額には反映する)。

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※ 注意

同月に就職と退職をした場合は、厚年保険料と国民年金保険料を2重で支払う月となっていたが、平成27年10月からの改正以降は国民年金保険料のみ支払えばいい事になった。なお、20歳未満60歳以降の同月に就職と退職が重なる場合は、厚生年金期間となる(退職後に国民年金に再加入する必要が無いから)。

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さて、急な退職でまた国民年金保険料を自ら支払う事になるが、支払えずに平成17年5月から平成17年10月までの6ヶ月間滞納していた。その間に次から次に保険料の納付書が届くも支払えなかったので堪り兼ねて、平成17年10月中に国民年金保険料の全額免除を申請しに行く。これにより少し遡って平成17年7月から平成18年6月までの12ヶ月間全額免除期間になり、その後も利用して結局は平成17年7月から平成22年6月までの60ヶ月間を全額免除として利用する。

過去2年1ヶ月まで遡って免除になるのは平成26年4月から。それ以前は7月から翌年6月までの1年間が適用された(7月までに申請すれば前年7月まで遡る事はできた)。

未納期間は平成17年4月から平成17年6月までの3ヶ月間。

ところで、平成22年7月に自らの不注意で片脚を切断する重傷を負う事になった(平成22年7月22日初診日)。切断は治らない傷病なので、普通の傷病と違って初診日から1年6ヶ月待つ必要は無く、最短で初診日から障害年金を請求する事が出来る。障害年金が貰えるなら平成22年8月分から年金が貰える。

初診日がわかったら次は過去の保険料納付期間を見なければならない。初診日という保険事故が起きたら障害年金を貰う条件を満たしてるわけではないです。過去に保険料を支払ってない未納期間が多いと、保険事故までに自分でできる努力を怠ったものとして障害年金は貰う事が出来ない。

まず、保険料支払い義務が生じた月から、初診日の前々月までの期間で見る。20歳からの平成15年3月から平成22年5月までの87ヶ月間のうち、保険料を支払わずに未納にした期間が3分の1(33.33%)を超えると障害年金は貰えない。

87ヶ月のうち3ヶ月間が未納なので、問題ない(未納率3.4%)。保険料を支払っていない免除期間は未納扱いではないです。過去の免除期間が単純に未納期間だったら、障害年金は請求できなかったですけどね^^;もし、未納が多くて全体の3分の1を超える場合は、初診日の前々月までの直近1年間(平成21年6月から平成22年5月まで)が未納では無ければそれでもいい。この男性はどちらでも満たしますね。

初診日は国民年金加入中だったので請求の結果、国民年金から障害基礎年金2級780,900円(令和3年度満額)が平成22年8月分から貰えるようになった。切断はもうこれ以上治りようが無いので、永久に障害年金が貰える事になった。平成22年時点の27歳時から平均寿命の80歳まで生きるとしたら、総受給額は53年×780,900円=41,387,700円を受給する事になる。

その後、平成28年に婚姻して子供も生まれたので、障害基礎年金2級780,900円に子の加算金224,700円も加算されるようになった(子の加算金は子が18歳年度末まで)。配偶者加給年金224,700円は障害厚生年金2級以上にしか付かないので、障害基礎年金のみのこの男性には配偶者加給年金は付かない。

さて、この男性は過去に免除の期間が多く、年金保険料をほぼ支払った事は無いですが大ケガを負ったので、年金の給付の一つである障害年金が支払われる事になりました。障害基礎年金2級は老齢基礎年金満額の780,900円と同じ額であり、定額となっています。

もし老齢基礎年金で780,900円の満額を貰おうと思えば、480ヶ月間完璧に保険料(月々約17,000円)を支払い、その間の必要な国民年金保険料は816万円ほどになる。

老齢基礎年金で満額貰ってる人ってあんまり見た事ないんですよね^^;

国民年金保険料を支払うのが困難だからという事で、免除の手続きしに行くというちょっとした手間をかけていたおかげで、予期せぬ事故が起きた時に満足な額ではないかもしれないけど、老齢基礎年金の満額と同じ年金額が一生保障される事になって大いに助かる事になる。なぜそうなったかというと過去の年金記録が単に保険料支払いをサボった「未納」ではなく、免除期間だったから。

免除期間の力は、老齢の年金をまだ貰えない若い世代にこそ発揮される。年金は高齢者のものというイメージは強いですが、障害年金や遺族年金は若い人が大いに関係が深い年金となる。特に障害年金は65歳以降は請求できない年金なので、若い人用の年金とも言える。

民間保険を検討する場合は必ず障害年金や遺族年金が貰える場合もセットで考え、無駄に民間保険料を支払いすぎないようにするといいですね。

※ 追記

傷病は回復するものなので障害年金は基本的には有期年金ですが、今回のように治りようがない傷病は一生涯の給付となる事もある。

また、65歳になるとそれまでの年金記録に応じた老齢基礎年金が支給されるようになりますが、この男性は障害基礎年金のほうが多いので結局は障害基礎年金2級を貰う事になるでしょう。よって障害基礎年金受給開始以降、国民年金保険料を納める意味が無いので無理に保険料を納めるように案内しない事があります。しかし、60歳までは国民年金保険料を支払う義務は免れないので、その間は免除を利用する事になる(障害年金2級以上は保険料全額免除が当然に使える)。

なお、途中で厚生年金に加入した場合は厚生年金保険料を支払わなければならないし、国民年金第3号被保険者になれば保険料を支払わずとも支払ったものとされる点は留意しておく必要はある。

image by: Shutterstock.com

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佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

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【著者】 年金アドバイザーhiroki 【発行周期】 不定期配信

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