失われた6兆円。日本の自動車産業が陥る「半導体不足」の自業自得

 

デジタル化の波は、燃料噴射装置、パワーステアリング、クルーズコントロールなどのアナログ装置を置き換えるだけでなく、アダプティブ・クルーズコントロール(前を走る自動車との距離に応じて自動的にスピードをコントロールする仕組み)、自動ブレーキ、電子キーなど、アナログ技術では不可能だった機能の導入すら可能にし、次第に自動車にとってなくてはならないものになって来ました。

さらに、カーナビ、ドライブレコーダ、後方確認カメラなどを搭載した「車載機」が、最初は高級車に、そして次第に普及車にも標準で装備されるようになりました。後方確認カメラが米国で義務化されたことも、「車載機」の標準装備を推し進めました。

この手の電子装置には、マイコンと呼ばれる半導体が必須です。マイコンとはマイクロコントローラ、もしくは、マイクロコンピュータの略で、昔はパソコン用のCPUのことを指していましたが、今では組み込み機器向けのCPUもしくは(CPUを含めた)SoC(System On Chip)のことを指します。

IntelやAMDが提供しているパソコン向けのCPUとの本質的な違いはありませんが、必要とされる計算能力が低いために、集積度も低く安価で、カーナビ用の車載機を除けば、OSすら搭載されていないシンプルなものが大半です。今回、自動車産業全体を停滞させるまでの影響を与えたのは、このマイコン不足なのです。

現在起こっているマイコン不足の直的的な原因は、新型コロナの影響による自動車の減産と、それに伴う、マイコン需要の低下です。去年の2月ごろに新型コロナの経済に与える影響が明らかになると、各自動車会社は需要予測を大幅に下方修正し、減産に踏み切りました。

当然ですが、自動車向けのマイコンを製造している半導体メーカー(ルネサス、NXP、Infineonなど)にもその情報は伝わり、各半導体メーカーは、それに応じてマイコンの生産を抑えるようになりました。

トヨタ自動車の「カンバン方式」で知られる通り、自動車メーカーは、部品の在庫を極力抑え、部品は必要になった時にベンダーに納入させるという方法を採用しているため、自動車の減産が決まったら、ベンダーは素早く部品の減産をする必要があるのです(さもなければ大量の在庫を抱える羽目になります)。

今回の半導体不足は、ワクチンの摂取も始まり、需要が回復し始めたことを受けて、自動車会社が増産を始めようとした時に、その需要の急上昇に半導体メーカーが十分に答えられない状況に陥ったために起こったのです。

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