失われた6兆円。日本の自動車産業が陥る「半導体不足」の自業自得

 

では、なぜ需要の急上昇に半導体メーカーは答えることが出来なかったのでしょう?そこには複数の要因があります。一つ目の原因は、自動車会社が採用しているカンバン方式と、自動車会社と半導体メーカーの上下関係にあります。

カンバン方式とは分かりやすく言えば、自動車メーカーが持つべき在庫を下請けのベンダーに持たせることにより、自動車メーカーの在庫コストとリスクを減らそうというものです。ベンダーたちは、必要な部品を詰んだトラックを自動車会社の近くに待機させておき、注文が入ったらすぐに届ける、などの体制を持つことを余儀なくされて来たのです。

その結果、自動車向けの半導体ビジネスは、半導体メーカーにとっては魅力の薄い「儲からないビジネス」になっていたのです。そのため、減産が決まった時にも(将来の増産に備えて)在庫を抱えるようなことをせず、速やかに製造ラインをストップしてしまったのです。

二つ目の原因は、半導体技術の進歩により、製造ラインを構築するために必要な設備投資額が莫大になり、多くの半導体メーカーが、製造をアウトソースし始めたことにあります。ほとんどの半導体メーカーは、レガシーと呼ばれる90nm以上の半導体に関しては自社で製造ラインを持っていましたが(nmは半導体上に描く線の幅です)、40nm、28nmと微細化が進むにつれ、技術も設備投資が追いつかず、徐々にTSMCなどに製造を委託(アウトソース)するようになっていったのです。

特に28nm未満の製造ラインに至っては、Intel、TSMC、Samsungの3社しか作れない状況で、自社で作れるIntel、Samsung以外の全ての半導体メーカーが、製造を委託しているのが現状です。

幸いなことに、マイコンは、パソコンやスマホのチップほどの集積度が必要なく、28nm~90nm程度の(枯れた)プロセスで十分ですが、それでもアウトソース化はかなり進んでいたのです。

買い叩かれて儲からなくなっている上に、(パソコンやスマホと比べて)数量も少ない自動車向けの半導体のために、新たな設備投資をして生産ラインを作りたくない、と考えたのも当然です。

そんな状況の業界に、新型コロナによる自動車の減産と、それによるマイコン需要の低下が起こったのです。その時に、各半導体メーカーが、(TSMCなどに)生産委託をしていた生産ラインをすぐに止めたのは当然です。そんな柔軟性を持つことが出来るからこそ、自社工場で作らずに、アウトソースしているのですから。

TSMC側から見れば、それは自動車向け半導体の生産に必要な28nm~40nmプロセスの生産ラインへの需要が急激に低下したことになります。TSMCとしては、製造ラインを遊ばせておくわけには行きません。しかし、これからの需要の大半が、パソコン・スマホ・ゲーム機器向けの(iPad Airや新型MacBookで使われている)微細加工のもの(28nm未満)になることを考えれば、需要が減ってしまった28nm~40nmのラインをそのまま維持するよりは、5nmなどの最新の半導体の製造ラインに切り替えてしまった方が、良いことは明らかです。

そんな事情もあり、TSMCは、数ヶ月かけて製造ラインを刷新し、「コロナ後」に伸びると予想される、パソコン・スマホ・ゲーム機器の需要に備えるという積極的な設備投資を行ったのです。結果的に、それまで自動車向けの半導体を生産していたラインが大幅に減少してしまったのです。

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