失われた6兆円。日本の自動車産業が陥る「半導体不足」の自業自得

 

そんな事情もあるため、今頃になって自動車メーカーが自動車向けのマイコンを増産しろと要求したところで、半導体メーカー自身には余分や製造ラインを持っていないし、彼らがTSMCに委託生産しようとしても、そもそも製造ラインの数が足らないので、どうしようもないのです。

自動車用のマイコンも、5nmなどの最先端のプロセスで作ることは技術的には可能ですが、その製造ラインは、パソコン・スマホ・ゲーム機器向けの半導体の製造をするために何ヶ月前も前から抑えられてしまっているのです。

TSMCにとって見れば、自動車向け半導体の売り上げは、売り上げ全体の3%程度しかなく、いまさらそんな小さなマーケットのために積極的な設備投資をする義理はないのです。

表面的には、新型コロナによる自動車の生産調整が招いた半導体不足ですが、マクロ的に見れば、パソコン・スマホ・ゲーム機業界と自動車業界の間で製造ラインの奪い合いがあり、市場規模が大きく、単価も高い前者が圧勝した結果の半導体不足と言えるのです。

今後、自動車業界は、電気自動車や自動運転により、さらなるデジタル化が必須な状況ですが、そこに出てきた半導体不足は、その成長に大きな足枷になる可能性が大きいので要注意です。自動車産業が日本の主要産業であることを考慮すれば、今後ますます増える自動車向けの半導体の製造設備を国内に持つべきという意見が出てきて当然だと思います。

トランプ政権は、TSMCにアリゾナ工場を作ることを約束させましたが、これは米国の産業にとって要ともいえる半導体のサプライチェーンを米国内に持つべきという戦略的な政治判断の結果です。

これまでは、「エネルギーの自給率」、「食の自給率」ばかり注目されて来ましたが、これからは「半導体の自給率」にも注目すべきなのかも知れません。

【参考資料】

image by: Lerner Vadim / Shutterstock.com

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マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。

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