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米中戦争の火種にも。レアアース問題を新聞はどう報じてきたか?

人権問題などで非難の応酬となり、米中対立の緊張度が高まる中、4月に予定されている日米首脳会談で両国は、レアアース(希土類)の供給網構築で連携していく方針を示すとの報道がありました。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』著者でジャーナリストの内田誠さんは、読売新聞が掲載した「レアアース」に関する記事を通覧し、中国依存の問題が長く指摘されていながら、代替技術開発など明確な解決策が未だ見えない現実を確認。中国がレアアースの禁輸を外交カードとして利用すれば、軍事的な威圧を含む対抗措置も考えられ、危険極まりないと警戒しています。

新聞は今まで「レアアース」をどう報じてきたか?

きょうは《読売》から。1面トップに、日米首脳会談で発表される共同文書についての記事。中国に頼らないレアアース(希土類)などの供給網構築なども書き込まれるとの内容。

改めて、「レアアース」を《読売》のデータベースで検索してみると、1年以内の記事に16件、サイト内で公開している記事の中からは20件ヒット。この20件の中身を見てみることにしましょう。まずは1面記事の見出しから。

「尖閣に安保適用」明記へ
日米首脳会談
共同文書 中国をけん制
レアアース供給網 連携

4月上旬に予定されている菅首相とバイデン大統領の会談の成果として共同文書を出すことになり、中国を念頭に、尖閣諸島に安保条約5条を適用すると明記するほか、レアアースや医薬品のサプライチェーン構築など、安全保障での連携を盛り込む方向。

経済安全保障については、具体的な品目として、バイデン氏が2月の大統領令で供給網強化を指示したレアアースや医薬品、半導体、電気自動車向けの大容量電池などを書き込むことを想定しているという。

特にハイテク製品の生産に不可欠なレアアースについては、中国への依存度が高く、世界全体の7割が中国で生産されている。「日米が連携し、企業が中国を調達先から外したり、レアアースを使わなくても済む技術を開発したりする動きを支援したい考え」という。

●uttiiの眼

レアアースの中国依存という問題はずっと以前から指摘されていて、対策もこの記事に書かれている範囲を出ない。少なくとも、コストを含めてレアアースを代替する技術が開発されたという報にも接していない。となれば、この「連携」が何を意味するのか。とりあえず時間を遡って見ることにしたい。

【サーチ&リサーチ】

*まずは9年前に遡ります。

2012年11月22日付の動画(既に公開期間終了)
タイトルは「日本最東端 絶海の最前線・・・南鳥島」。
「防衛省は21日、日本最東端の南鳥島(東京都小笠原村)に駐留する海上自衛隊の「南鳥島航空派遣隊」の活動を報道陣に公開した。南鳥島は東京から南東に約1860キロ離れた周囲約6キロの小島。同島の近海では6月、液晶テレビなどの部品に使われるレアアースの鉱床が確認され、注目を集めている」と。

*このときはまだ「液晶テレビなどの部品に使われるレアアース」という認識。その後、一挙に2019年までとんで…。

2019年6月7日付
深刻化する米中貿易摩擦についての経済部デスクによる分析記事。「中国は、レアアースの対米輸出規制をほのめかし始めた。…レアアースとは、スカンジウムやイットリウムなど17種類の元素の総称だ。金属に少し混ぜるだけで、耐久性や耐熱性を高めることができ、強力な磁石の材料となるネオジムなど、ハイテク電子製品に欠かせないものが多い。世界の生産量の8割を中国が占めており、禁輸に踏み切れば、強力な報復手段となりえる。2010年、尖閣諸島を巡る問題で、中国はレアアースを禁輸し、日本の産業界を震え上がらせた。当時、世界のレアアース価格は100倍以上に高騰したという」と。

*記者は、2010年の再現を世界中が恐れているとしているが、同時に、中国がレアアースを武器にするのであれば、米国にも対抗手段があり、中国系企業や個人のドル決済を禁じることができるとの指摘。いずれも、「核兵器」に準えられるような強力な手段だと。

2020年3月28日付
政府は、補正予算で、中国など特定の国から日本あるいは東南アジア諸国に生産拠点を移転する企業に対し、整備費用の一部を補助する方針。記事タイトルは「脱中国依存に2000億円 政府方針…生産移す企業 補助」。この記事中、以下の記述。

「車や電機製品といった工業製品のメーカーのほか、国内流通の半分以上を中国から輸入していたマスクや、中国の鉱山で採掘され、ハイテク製品に欠かせないレアアース(希土類)の関連企業なども補助対象となることが想定される」(その後、実際に、レアアースを扱う企業が対象になった模様)。

2020年8月13日付【独自記事】
記事のタイトルは「脱中国依存へ、レアメタル備蓄強化…鉱山開発・製錬の権益獲得も支援」。
「政府は、中国などからの輸入に依存しているレアメタル(希少金属)の安定供給を確保するため、備蓄体制の強化に乗り出す。日本企業による鉱山開発や製錬の権益獲得も後押しする。今後予測される電気自動車(EV)や次世代通信規格「5G」市場の拡大で、レアメタルの需要は急増が見込まれており、資源獲得競争の激化に備える」という。

*「レアメタル」は、17種のレアアース(希土類)を含む概念で、コバルト、リチウム、タングステン、マンガンなどを入れて34種類。「EVのモーター用磁石、半導体の電子部品の製造などに欠かせず、輸入が滞れば産業界にダメージをもたらすのは必至」というもの。政府の対応の中には「備蓄」も含まれていること。またレアメタルのなかには、アフリカで採掘され、中国で製錬されるものがある点も目の付け所のようだ。

2020年9月20日付
トランプ政権の科学政策に関する記事の中で、レアメタルの確保について次の記述。
「米政府の教訓になったのは日本だ。2010年に沖縄・尖閣諸島沖で起きた中国漁船衝突事件などを機に、中国が希少金属の日本への輸出を制限し、価格が高騰するなど大きな影響が出た。トランプ大統領は17年、希少金属の確保を大統領令で指示した。リチウムイオン電池から回収する新技術の開発や、リサイクル関連企業の支援を強化したが、米商務省は19年6月の報告書で依然「経済や軍事上の潜在的な弱点」と懸念を示している。同年9月の米豪首脳会談でレアアースの安定的な供給体制を確認するなど、同盟国からの調達も進めており、中国依存からの脱却を図っている」とある。

*素直に読めば、「中国依存からの脱却」はうまくいっていないように思える。

2020年12月2日付
中国が「輸出管理法」を施行したとの記事の中で、次の記述。
「対象となる具体的な品目は公表されていないが、法律の規定では、安全保障にかかわる物品や技術、サービスで、関連データも含まれる。ソフトウェアの設計図や計算手順など中国が強みを持つ技術やハイテク製品の生産に欠かせないレアアース(希土類)などが対象になるとの見方がある」

2021年2月25日付
バイデン大統領が半導体など4品目の調達について大統領令に署名したとの記事中、次の記述。
「対象は〈1〉半導体〈2〉医薬品〈3〉レアアース(希土類)などの鉱物〈4〉電気自動車(EV)などの大容量電池の4品目。関係省庁に対し、100日以内に供給網の問題点を検証するよう求めた。同盟国と協力した調達先の多様化、国内生産の強化に向けた具体策を検討する」

2021年2月26日付
BS日テレの「真相NEWS」の内容についての記事。番組に出演したアジア経済研究所の江藤名保子副主任研究員が以下の発言。
「中国は(レアアースを)対立する米国をけん制するための政治カードとして使っている」としたあと、「レアアースは航空機や自動車などにも使われている。中国にとっても戦略物資として国内で管理すべきだとの考えもある」と発言。

●uttiiの眼

バイデン政権は「同盟国」を引き連れ、中国への依存度を小さくしようと、必死に「デカップリング」を試みているといったところか。レアアースにせよレアメタルにせよ、調達先を多様化することについては、若干可能性があるかもしれないが、それも限界がある。

一方、技術開発によって「脱レアアース」を図るのは相当な困難が伴うだろう。結局、軍事的な威圧を含む対抗措置を振りかざすことにもなりかねない。バイデン氏は「(米国の)民主主義と(中国の)専制主義の闘い」だとも言及しており、危険極まりない状況と言えるかもしれない。

image by:Ascannio / Shutterstock.com

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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