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腰抜けニッポン。中国包囲網に大穴をあける菅政権の“媚中売国”病

いよいよ実現する日米首脳会談ですが、二国間の対中姿勢については相当の開きがあると言っても過言ではないようです。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では著者の島田久仁彦さんが、中国が軍事力と経済力を背景に着々と勢力圏を拡大させている現実を改めて紹介。その上で、米国が主導する対中包囲網の形成を妨げるかのような日本政府の外交姿勢に対して、強い疑問を呈しています。

【関連】このままでは手遅れだ。米中激突の最前線となる日本の鈍重な対応

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中国が世界に叩きつける挑戦状と着実に拡大する勢力圏

ついに米欧による対中包囲網の足並みが揃い、その網が狭まる中、中国は反欧米もしくは欧米から見放された国々からの支持を拡げ、独自の勢力圏を拡大しています。

イラン、サウジアラビア王国、アラブ首長国連邦、そしてイスラエルという、互いに争っているが、共通して米バイデン政権の姿勢に危機感を抱いていると思われる中東諸国。

一帯一路による対中累積債務と新型コロナウイルス感染症のパンデミックに縛られる形で、半強制的に中国への“従属”を求められるアフリカ諸国(特に東アフリカ諸国)。

さらには、圧倒的な軍事力と経済力、そして否定できないレベルまで高まった中国への依存度によって牙を抜かれたASEAN諸国。

そして、脅威を抱きつつも、もはや中国なしでは大国の地位から転落しかねないロシア。

加えて、四面楚歌とまで言われるトルコ。

それぞれの弱み(アキレス腱)は違っても、これらの国々はすべて中国の外交姿勢への忖度を約束させられ、次々と中国の勢力圏に組み入れられています。

例えば、イランやサウジアラビア王国、UAE、ロシアといった化石燃料ベースの経済に立脚する国々に対しては、脱炭素が世界的に進む中、中国は、自国内では脱炭素経済への移行を進めつつ、伸び続けるエネルギー消費に応え、自国のエネルギー安全保障を確立するために、これらの国々から安定的かつ中長期的に資源を輸入するという合意をテコに、中国への支持を取り付けるという、ある意味、Win-Winな関係を築いています。

ただ、本当にwin-winかと言われれば決してそうではなく、以前にもお話しした通り、あくまでの中国にとってのWin & Winというのが実情です。

自国を敵対視する国々に周りを囲まれ、欧米諸国からも敵視されるイランについては、今週、公式に中国と25年間にわたるエネルギー協力のための協定に合意されました。イランにとっては、数少ない味方を得、中国にとっては、エネルギー安全保障の安心度が高まる結果になりました。

そして皮肉にも、イランと敵対するサウジアラビア王国やUAEも、イランが享受し確保したエネルギー安全保障を中国に保障されるという結果になっています。

イスラエルについては、トランプ政権時代の蜜月と明らかな肩入れから、バイデン政権による対イスラエル批判への急展開に直面していることで、対バイデン政権の心変わりへのリスクヘッジとして、ロシアや中国への接近が顕著になってきています。

また、両国との共通案件・関心事としての“トルコ封じ込め”においても距離を縮め、かつ米国ともデリケートなバランスを保とうとの外交的な賭けに出ています。

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中国の衛星国家と成り果てたロシア

大きな変化、特に力のバランスの変化が、中ロ間で顕著になってきています。ソビエト連邦時代には、ソ連にとって中国は“独立しているがある意味、衛星国的な意識”をもっていた存在である中国に、いまでは完全な勢力下におかれているという屈辱的だが、受け入れざるを得ない事実に直面しています。

トランプ政権時代からアメリカに批判されてきたNord Stream II建設計画ですが、その相手国であるドイツも、バイデン政権からの非難が高まる中、9割がた完成している天然ガスパイプライン計画から距離を置かざるを得ない状況になりました。

ほぼ並行して走るNord Stream Iと併せて、欧州各国のロシアへの天然ガス依存度を6から7割に高め、欧州各国に対して天然ガスを材料にした影響力の増大を目論んでいましたが、その行き先が滞ってしまい、ロシアとしては大事な収入源であり、また欧州に対する力の源を失ってしまいました。

そこで中国が欧州に流れるはずだった天然ガスをロシアから引き受け、欧州行きのNord Streamに変わって、中ロ間で開通したパイプラインである“シベリアの力”を通じて、引き受け拡大に乗り出しました。

このディールは、中ロにとってwin-winの結果になると見られています。中国にとっては、エネルギー安全保障を高めることが出来ますし、ロシアにとっては外貨獲得手段の確保に繋がるというのが、win-winの根拠のようです。

しかし、実際にはどうでしょうか?

表面的にはwin-winかもしれませんが、ロシアはこのディールを受けて、中国への経済的な依存度が著しく高まり、ゆえに中国に対して外交的なサポートおよび忖度を強制される結果になってしまいました。つまり、ソ連とロシアという国の違いはありますが、かつての力関係がここにきて逆転したと言えるでしょう。

結果として、ロシアは中国と共に、国家資本主義陣営の中核を担うことを半ば強制されることになりました。

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ドゥテルテ大統領も中国の軍門下に

経済力と軍事力、そして戦略的物資の流通という合わせ技で、中国が支配を拡げたのがASEAN諸国とアフリカ諸国(特に東アフリカ諸国)です。

世界が新型コロナウイルス感染症のパンデミックで混乱する中、ワクチン開発能力がある先進国は、自国民への接種と供給を最優先とし、体制が脆弱な途上国を見捨てざるを得ない状況になりました。WHOなどの音頭でCOVAXファシリティが設立されていますが、その供給能力はまだまだ低いといえます。

そのような中、クオリティについては批判や懸念があるものの、見た目は非常に気前よく、中国政府はアフリカ諸国やASEAN諸国、ラテンアメリカ諸国に中国製ワクチンを配布することで、イメージ改善に乗り出しています。

“見た目は”とここであえて言ったのは、無料供与は平均すると初回の10万回分のみで、供与時にメディアなどで大きく取り上げさせてイメージ戦略を実行した後は、今週の赤道ギニアのケースにもあったように、【以降は協議の上】という条件を付すという、非常に巧妙な手口を用いています。

報じられる批判的な話の内容としては、「あくまでも商売として販売する」という儲けがクローズアップされ、「中国のがめつさ」が強調されていますが、実際には、ここでも【中国への支持を暗に要求する忖度外交】ではないかと考えられます。

結果はともあれ、WHOからのコロナ感染起源を巡る立ち入り検査の邪魔をしたと受け取られたことで悪化していた中国への心情は、スピーディーなワクチン供与を受けて向上するという効果を発しています。

それに加え、なかなか接種が進まない先進国を尻目に、スピーディーかつ広範なワクチン供与を通じて、2021年のコロナワクチン市場のシェアアップという狙いも見事に的中しているような感じがします。もちろん、これまでは…という大きな条件つきですが。

同様の効果は、同じく迅速なワクチン供与を受けた東南アジア諸国でも見られます。

こちらについては、ワクチン外交に加え、一帯一路による経済的な縛り、そして圧倒的な武力の誇示という合わせ技が使われています。

南シナ海における中国の一方的な領有権の主張と九段線の設置、そして人工島の建設と軍事化という一連の動きは、多くの沿岸諸国、特にフィリピンとヴェトナムを激怒させ、一時は戦争も辞さないとの強硬姿勢での対峙に至っていました。

それを大きく変えたのが新型コロナウイルス感染症のパンデミックです。これにより、領有権に対する大きな懸念は残るものの、背に腹は代えられないとのことで、各国の対中強硬姿勢に陰りが見えます。

その典型例は、あのドゥテルテ大統領のフィリピンです。

米中の外務担当者同士の会談が、予想以上に対立構造を浮き上がらせ、米中関係の折り合いが見えないことが明白になったことを受けて、中国は武装漁船を200隻、フィリピン近海に駐留させて、同海域のコントロールを掌握しました。

これまでならば、激怒してフィリピンが中国に対抗してくるところですが、まるで牙を抜かれたトラのように、反論は見せず、「あくまでも様子見をする。対応はASEAN各国と協議する」という対応になってしまいました。

単純化しすぎだとの批判もあるかと思いますが、ASEANの暴れん坊も勢いを削がれ、中国の軍門に下ったといえます。ASEAN諸国は、恐らくアフリカ諸国に比べると、まだ中国への依存度は低いかと思いますが、それでも確実に、そして着実に、中国の勢力圏に飲み込まれる寸前まで来ているかと思われます。

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煮え切らぬ日本の対中姿勢

これに対して、欧米諸国からなる中国包囲網はもちろん反発し、中国が嫌がる新疆ウイグル地区での人権侵害のクローズアップと非難、南シナ海での米英艦隊を中心としたプレゼンスの強化、台湾問題のクローズアップと対立構造の明確化、そして尖閣諸島問題を巡る日本との共同歩調の強調による“対中シールド”のアピールを行っています。

しかし、これまでより結束が高まっていると思われる中、まだ効き目が薄いのが、残念ながら日本の煮え切らない対中姿勢が理由にあります。

ミャンマー問題についても懸念は示しても動かず、新疆ウイグル問題についても懸念に留まり、対中包囲からは距離を置いています。ゆえに、米国務省の分析で用いられた表現を借りると、【日本のはっきりしない態度ゆえに、包囲の網に大きな穴が開いている】という状況になっていると認識されています。

そこに同じく国内で民族問題や分離独立の問題、そして人権侵害の疑いがあるロシア、トルコ、サウジアラビア王国などの中東諸国、そしてエチオピアをはじめとする東アフリカ諸国などの「戦略的な沈黙」が加わり、結果として、中国の強硬姿勢が、勢力圏拡大に寄与しているのではないかと考えられます。

米バイデン政権は、期待以上に中国に対して強硬姿勢を示し、それに欧州各国も協調への復帰という名の下、同調していますし、そこにアジアのライバルであるインドと、中国と袂を分かつことを決めたオーストラリアが加わって、中国への圧力を強めていますが、なかなかcompleteしないのは、Quadをリードしているはずの日本の姿勢ゆえかもしれません。

日本外交の基本は日米関係の強化にあるというのが変わらない方針ですが、メディアなどでその強化がクローズアップされる裏で、米英のアジアにおける再接近が、もしかしたら日本が胸を張るQuadを有名無実化する結果になるかもしれません。

アメリカのペンタゴンおよびインド太平洋軍の最新の分析によると、6年以内に中国が台湾(本島から1,500キロ離れた、台湾が領有を主張する島も含む)を攻撃し、アメリカを含む同盟国はそれに対抗しなくてはならないとの見通しがありますが、アメリカとの最も強い同盟関係を自負する日本はその時、米中の狭間でどのような結論を出すのでしょうか?

空想ではなく、現実に起きうる事態・懸念と想定して具体的な対応を迅速に決めておく必要があると考えます。ロシアのように、中国の衛星国に日本がならないためにも。

皆さんは、どうお考えになりますか?

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image by: plavevski / Shutterstock.com

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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