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大村知事リコール不正署名で押された「指印」に滲む主唱者の本気度

大村秀章愛知県知事のリコール運動での不正署名に用いられた「指印」を事務局幹部が自ら押したことを認めたと、16日の東京新聞がスクープ。2月の記事では、約10万8千もの「“ニセ”の指印」が限られた複数の人物によって押されていたことが伝えられていました。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』著者でジャーナリストの内田誠さんは、「指印」の記述がある新聞記事を通覧。どれもが犯罪、警察がらみであることから胡散臭さを嗅ぎ取り、不正署名事件に関しては、リコール運動主唱者の怨念のような「意志」を感じ取っています。

大村知事に対するリコール運動で行われていた不正署名の問題を新聞はどう報じてきたか?

きょうは《東京》から。1面のスクープ記事は、愛知県の大村知事に対するリコール運動で行われていた不正署名の問題。事務局幹部が自分で「指印」を押していたというもの。そこで、「指印」で検索すると、2017年以来、10件にヒットしました。うち4件は版が違うだけで全く同じ記事なので、実質7件。これらを対象にします。まずは1面記事の見出しと【セブンNEWS】第7項目の再掲から。

事務局幹部「自ら指印」
愛知不正署名 「事務局長が指示」

愛知県の大村知事のリコール運動を巡る不正署名事件で、リコール活動団体の事務局幹部だった山田豪常滑市議は「偽造署名に深く関与した」ことを認めた。東京新聞。田中孝博事務局長の指示で大量の署名簿に自ら指印を押したことを明らかに。

以下、記事概略の補足。《東京》の取材に答えた山田氏は、責任を取って常滑市議を辞職した。山田氏は田中孝博事務局長と共に運動の中心メンバーで、活動方針の決定に関わり、街頭でも署名を呼び掛けたりしていた人物。既に、地方自治法違反容疑で捜査中の愛知県警から任意で事情聴取を受けているという。山田氏は「私自身がやったことを世間にさらして、真相究明に向き合いたい」と話し、「県民のリコール活動を台無しにしてしまい、深くお詫び申し上げたい」とも。

●uttiiの眼

取材者としてみても、あるいは警察の立場から観ても、山田氏は真相解明の端緒として最も適切な人物だろう。既に全面的に“白状”に及んでいるようだから、この次には田中孝博事務局長の不正への関わり方が明らかになるだろうし、その先に、運動の主唱者と言っていい河村名古屋市長や整形外科医の高須氏の不正への関与の有無が明らかになってくるだろう。

しかし、「県民のリコール活動を台無しにしてしまい、深くお詫び申し上げたい」という山田氏の発言には違和感を覚える。80%超ものインチキ署名を書き連ねてもリコール発議に遠く及ばなかったことを考えれば、今回の「リコール運動」に愛知県有権者の支持はほとんど得られなかったとみるべきだろう。無謀なリコール運動を仕掛けたこと自体を反省する気にはならないのだろうか。

【サーチ&リサーチ】

*「指印」は何を意味するのか。興味深い記事が並んでいる。

2017年12月10日付
東京都江東区の富岡八幡宮で宮司の富岡長子さんが殺害された事件で、自殺した弟の元宮司富岡茂永容疑者とみられる人物から、長子さんを批判する手紙が事件後に氏子らに届いていたことが分かったという記事の中で、以下の記述。手紙は封筒入りのA4、8枚で、「茂永容疑者の署名と指印が押してあった」という。

*手紙は、自分の息子を後継の宮司にしろなどと要求するもので、実行されなければ「死後も怨霊となり、永遠にたたり続ける」と書かれていた。命を懸けた「本気」の行動であり、この要求をしているのは「私」自身なのだということを強調するために、「指印」が押してあったということだろう。続いては…。

2019年6月5日付「こちら特報部」
「こちら特報部 私はS(捜査協力者)だった」という記事。石川県加賀市の温泉街にある風俗店で働いていた男性が、警察の捜査協力者にさせられ、「白紙の調書に私の氏名を署名するよう求められた。指印も押した記憶がある。頼まれた枚数は覚えてないくらい」。何のために使うのかは聞いていなかった。「警察に協力すれば覚醒剤をやっていても捕まらないと思った」」と。

*調書にニセの「信頼性」を与えてくれる「指印」の存在。

2020年11月8日付
東京都中央区明石町の歴史についての記事。「明治維新後の1869年に一帯は外国人居留地となり、主に海外から訪れた医師や宣教師などの知識人が滞在した」のが明石町。その居留地通り沿いに「指紋研究発祥の地」と刻まれた石碑がある。

「指紋による個人識別に関する初めての論文を学術誌に発表した英国人医師フォールズが、この地に住居を構えていた。フォールズは日本の指印の習慣に着目。都内の貝塚で出土した土器に残る指紋の跡からもヒントを得ていた。今や世界中で犯罪捜査の基本となった研究は、日本の文化から生まれたものだったのだ」と。

*個人を特定する科学的で確実な情報としての「指紋」。その究極の個人識別情報を自ら公開する、さらす行為としての「指印」。

*以下は、愛知県知事に対するリコール運動絡みの記事。

2021年2月16日付
「愛知県の大村秀章知事のリコールに向けた署名集めに関連し、名簿書き写しのアルバイトに参加した福岡県久留米市内の契約社員の男性(50)」の証言に関する記事。

「リコールのための署名簿は、1枚につき10人分の署名欄があるが、スタッフは「全部埋まっていると不自然なので、7人分ほどを書いたら次の用紙に記入をしてほしい」と注意した。印鑑か指印を押す欄もあるが、アルバイト側は、空欄のままスタッフに渡したという」

*「指印」はアルバイトの人たちの仕事ではなかったようだ。運動幹部に限られたのは何故?

2021年2月26日付
「複数の人物が繰り返し指印を押したとみられる署名が少なくとも約10万8千筆あったことが関係者への取材で分かった。提出された約43万5千筆の4分の1ほどに上る」

*この「作業」は1人では無理だろう。記事も「複数の人物」と書いているが、仮に10人で行ったとしても1人1万回以上「指印」を押す勘定。壮絶な状況が見えてくる…。ニセ署名簿を完成させるというれっきとした犯罪行為。その犯罪をやり通す強い意志の存在が不可欠だっただろう。事務局の人たちの「独断」や「忖度」でやりきれることだろうか。私には、どんな手を使ってでもやりきれ!という「叱咤激励」の声が、どこからか、聞こえてくるような気がする。

●uttiiの眼

これから殺人を犯そうとするものが、これは間違いなく私の意思に基づく私の行為だと保証するためにも用いられる「指印」。そのようなものだからこそ、嘘をつく時にも利用されるというパラドックス。これからは、「指印」が押されていたら、それだけで胡散臭いものと用心しなければならないようだ。

image by: Shutterstock.com

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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