老齢の年金は65歳以上のほとんどが受給しますが、若い人でも貰う可能性があるのが「遺族年金」です。今回の無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』は、著者で年金アドバイザーのhirokiさんが遺族年金の仕組みと、再婚や事実婚の場合の遺族年金の消滅などについて詳しく解説しています。
再婚したり事実婚になった時点で遺族年金は消滅となり、消滅後に貰い過ぎると…
老齢の年金は65歳になるとほとんどの人が貰う事になる年金ですが(4,000万人程)、遺族年金も非常に受給者が多い年金です(500万人程)。なお、制度的には遺族年金は男性にとても厳しいので、多くは女性が受給者となる事が多い。さらに男性の方が早く亡くなる傾向にあるので、残された妻が貰うという流れになる。
遺族年金は65歳以降の人が貰う年金というわけではなく、普通に若い世代も受給者になる。30代40代あたりで遺族年金を貰ってる人も普通にいる。
さて、若いうちに配偶者を亡くし、遺族年金を受給する場合にやや問題となるのが再婚。再婚をすると貰ってる遺族年金が消滅してしまうので時々、再婚を取るか年金を取るか…という悩みが生じる場合もあるようです。じゃあ正式に結婚はせずに事実婚なら大丈夫かというと、事実婚でも遺族年金は消滅する。
ところで事実婚というと同棲みたいなイメージがありますが、同棲=事実婚ではない。事実婚の定義としては、お互いに結婚する合意があって(婚約してるとか)、かつ、夫婦としての共同生活の事実がある(客観的な事実)と認められるのが事実婚。だから婚約はしたけど、夫婦らしい共同生活の実態が無いなら事実婚とならない。結婚するつもりが無い同棲や愛人関係などは事実婚にならない。
お互い結婚しよう!という婚約はしてるけど、それから夫婦共同生活としての実態を持つと事実婚となり、その時点で遺族年金は消滅する。遺族年金が消滅するとは知らずに、慌てて事実婚を解消してもその事実があった時点で遺族年金は消滅するので、その後に復活する事は無い。
たとえば年間120万円の遺族年金を貰っていて令和3年5月1日から事実婚が始まったが、その届け出をしてなかったまま令和5年5月分まで貰っていたら、貰い過ぎた240万円は返済してもらう事になる。よって遺族年金を受給されてる方はその点も考慮した上で、再婚や事実婚をしましょう。
ちなみに再婚後に、再婚した夫(または妻)が死亡した時はその再婚した夫(または妻)から新たな遺族年金が発生する事はあります。
一応簡単な事例を。
1.昭和49年3月18日生まれの女性(今は47歳)
● (令和3年版))何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法!
20歳になる平成6年3月から国民年金強制加入となり、国民年金保険料納付義務が始まった。
平成14年8月までの102ヶ月間は国民年金保険料を全額免除していたが、平成14年9月にサラリーマンの男性と婚姻した。そのため、平成14年9月から国民年金第3号被保険者になった。
平成21年12月31日に夫が交通事故で他界し、加害者からは損害賠償金(保険金)が支給され、年金機構からは遺族年金が請求により支給される事になった。なお、遺族年金と損害賠償金は二重保障になるので、事故日から一定の期間(最長2年。平成27年10月以降の事故は3年)は遺族年金が停止される。
交通事故と遺族年金の調整事例はやや特殊な年金支給をするので5月19日の有料メルマガで事例を交えて発行。
妻の国民年金第3号被保険者期間は平成14年9月から、死亡日の翌日の属する月の前月までである平成21年12月までの88ヶ月。
夫死亡時点の遺族はこの妻と、6歳の子一人。夫は厚生年金加入中に死亡してるので遺族厚生年金が支給となり、18歳年度末未満の子が居るので国民年金から遺族基礎年金も支給。
なお、死亡までの夫の過去の平均給与は40万円とし、厚年期間は15年とする。
・妻への遺族厚生年金→40万円×5.481÷1,000×300ヶ月(最低保障月数)÷4×3=493,290円
・妻への遺族基礎年金→780,900円+子の加算金224,700円=1,005,600円
平成21年12月31日受給権発生の遺族年金合計は、遺族厚生年金493,290円+遺族基礎年金780,900円+子の加算金224,700円=1,498,890円(月額124,907円)。
令和元年10月からは遺族基礎年金受給者に遺族年金生活者支援給付金年額60,360円(月額5,030円)が支給。
令和3年3月に子が高校を卒業し、令和3年4月分からの遺族基礎年金780,900円+子の加算金224,700円+支援給付金60,360円=1,065,960円が消滅する。
よって令和3年4月分からは遺族厚生年金493,290円のみですが、亡くなった夫が厚生年金加入中であり、子の遺族基礎年金が消滅した時に妻は40歳以上だったので中高齢寡婦加算585,700円(令和3年度価額)が65歳まで給付となる。
なので令和3年4月からは遺族厚生年金493,290円+中高齢寡婦加算585,700円=1,078,990円(月額89,915円)。中高齢寡婦加算は遺族基礎年金が消滅する事による急激な年金の低下を防ぐために設けられている。
さて、令和3年時点でこの妻は47歳ですが、お付き合いしていた男性Aさんが居た。子供が高校を卒業した事で、Aさんとお互いに結婚を考えていたが、令和3年6月中に婚約する。結婚すると遺族年金は無くなるという事を知っていたが、まだ婚約だけの段階なので遺族年金は消滅しない。正式にまだ婚姻届けは出さずに、令和3年7月から同居し始めた。婚姻届けを出さなければまだ遺族年金は出ると思っていたが、令和4年10月にようやく正式な婚姻となった。
ここで再婚を理由に遺族年金についての消滅手続きをした時に、実は「婚姻の合意と、かつ、夫婦としての共同生活の実態」が令和3年7月からすでに始まっていたので本当は令和3年7月に遺族年金を消滅させなければならなかった。よって、令和3年7月から令和4年10月までの16ヶ月分の遺族厚生年金89,915円×16ヶ月=1,438,640円は年金機構に返済する事になる。この人の返済は納付書による。
※ 追記
もし事実婚などを届け出ずに、何年も過払いの状態が続くとします。たとえば上記の人が8年間貰い続けると800万円ほどの過払いになり、もちろん年金機構に返済してもらいます。ですが年金には5年の時効があるので、5年を過ぎた3年分は時効消滅し、実際の返済は直近5年分の約500万円となる。
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