消えぬトランプの亡霊。幻に終わる米国「外交的神通力」の復活

 

アメリカとの関係回復に関心がないロシア

さて、中国に続いてバイデン政権が外交を本格化したのが、ロシアとの関係改善です。

表面的には、政権発足当初から画策していた米ロ首脳会談の実現が目的ですが、実際には、度重なるロシアからの“攻撃”にバイデン政権側が参っているというようです。

就任前から、ロシア嫌いを公言し、プーチン露大統領を殺人者とまでけなしたバイデン大統領ですが、政権が目指す国際協調への復帰とアメリカの外交的影響力の回復という目標達成のためには、ロシアとの多方面での対峙は賢明ではないとの判断に至ったようです。

イランをめぐる問題、シリア、北朝鮮、ミャンマー、そしてバイデン大統領が忌み嫌うトルコ・エルドアン大統領対策の背後には、必ずロシア(と中国)がいて、アメリカの対応力を分散させています。

そして、最近実施された、ロシアンハッカー集団による国内インフラ施設への大規模なサイバー攻撃も、バイデン大統領に対ロシア攻撃を封印させる効果があったようです。

今週に入り、アメリカ側が折れる形で対ロ制裁の発動見送りを決めたことで、やっとプーチン大統領側が、バイデン大統領との首脳会談に合意したというニュースが流れました。

その背後では、トランプ政権時代から対ロ攻撃の材料になっていた【ロシア―ドイツ間の天然ガスパイプライン─Nordstream IIの建設】をめぐる批判と対ロ制裁の棚上げが行われています。

一説には、秋に退任するメルケル首相への遠慮という話もありますし、もう95%完成しているものをアメリカが止めるのは限界があるとの見方もあるのですが、結局はバイデン大統領による対ロ大幅譲歩というのが実情でしょう。

その結果、バイデン氏が得たのが、6月16日のジュネーブでの首脳会談実施です。

一応、めでたしということになっているようですが、ロシア側としては、アメリカに対する不信感が非常に強く、あまりアメリカとの関係回復に関心がない模様です。

2011年のNATOによるリビアへの空爆によって、親ロシアだったカダフィー政権が崩壊し、2012年にはアメリカによるロシア大統領選挙への介入、そして2014年のクリミア半島問題以降のアメリカによるロシア攻撃と敵視にうんざりしているようで、今回も首脳会談後、また何か仕掛けてくるに違いないという思いが払しょくできないというのが、モスクワの外交筋の見解です。

そして、アメリカの対中政策、特にアラスカでの“事件”を目の当たりにして、バイデン大統領がプーチン大統領に対して一方的にまくし立てるようなシーンを、ロシアは非常に警戒しており、プーチン大統領がどこまで本気で臨んでくるかは未知数です。

私は、バイデン大統領からのジャブをうまくかわし、結果的に私利私欲を肥やし、より国内での支持率回復につなげ、再度、地政学上のリーダーシップを得ようとするのではないかと考えていますが。

恐らく、構図的には、アメリカのバイデン政権が、ロシアを必要としているということなのではないでしょうか。

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