米国と密約あり。中国が「台湾独立宣言」でもない限り武力侵攻せぬ訳

 

キャンベルが「1つの中国」再確認

それに続き、同政権のアジア政策の要に座るカート・キャンベル=国家安全保障会議(NSC)インド太平洋調整官は7月6日のアジア・ソサエティの会合で、台湾にどこまで肩入れするのかと問われ、

▼我々は台湾との非公式ではあるが強力な関係を支持している。我々は台湾の独立を支持しない。

▼我々はこの問題に含まれる微妙さ(sensitivities)を完全に認識し理解している。我々は台湾が平和に生きる権利を有することを確信している。我々は台湾が、とりわけワクチンのような分野やパンデミックに関連する分野で国際的な役割を果たすことを期待している。彼らを国際社会から締め出してはならない。

▼(中国の脅威について問われ)否定できないことは、グローバル舞台で指導的な役割を果たすことを求める中国の決意は極めて固いということ、彼らは米国に対して何ら感傷的な捉え方をしていないこと、そしてアジアの運営システムを変革したいと望んでいることだ。

▼この挑戦に対応するために、米国はインド太平洋に一層焦点を当てなければならない。米国にとっての課題は、中国に機会を与えるような戦略づくりだろう。それと同時に、もし中国が平和と安定に反する挙に出た場合にはそれに対応することだ……。

ニクソン&キッシンジャーによる米中国交樹立以来、米国は台湾と断交し、「1つの中国」という北京の主張を認めると共に、いざ中台間で軍事紛争が起きた場合に米国が台湾を助けるかどうかについては明言を避ける「あいまい戦略」を採ってきた。ポンペオ前国務長官やブリンケン国務長官などはその伝統的な立場を撤回するかのような発言を繰り返し、中国を刺激してきたが、ここで老練な外交官であるキャンベルがそれをはっきりと否定したことの意味は大きい。

とはいえ、こんなことは国際情勢論のイロハに属することで、仮に米国が「台湾の独立を支持する」「台湾有事には介入する」と公言すれば、台湾は恐らくそれを頼りに独立宣言に踏み出すだろう。そうなると中国は米国との核の撃ち合いを含む全面戦争をも覚悟して台湾を武力制圧せざるを得ない。と言うか、台湾が独立宣言をした場合にのみ、中国は台湾に武力を発動する。なぜか?当たり前でしょう、米国との全面戦争など誰がやりたいと思いますか。だから米国は、いざという時に台湾を助けるとは明言しない「あいまい戦略」を続け、台湾は名目的に「独立する」とは口が裂けても言わずギリギリの事実上の独立状態を保ち、中国はそれを是として自分のほうからいきなり武力侵攻することはないと米国に密約している──というのが、台湾海峡をめぐる伝統的なセンシティビティーズであり、それを突き崩そうとするのは百害あって一利もない馬鹿げた行いである。キャンベルはその常識を再確認したのである。

海軍は台湾有事で出番を期待

しかし、米軍部、とりわけ海軍と海兵隊には「台湾有事」待望論が強い。今年3月9日には、フィリップ・デービッドソン=米インド太平洋軍司令官(当時)が、

▼中国は、ルールに則った国際秩序のリーダーとしての我が国の役割に取って代ろうという野心を強めている。2050年までにだ。

▼その前に、台湾がその野心の目標の1つであることは間違いない。その脅威は向こう10年、実際には今後6年で明らかになると思う……。

と語り、「今後6年と言うなら、2027年までに台湾危機が勃発するということか!」とセンセーショナルに報じられた。また、4月末にデービッドソンの後を継いだジョン・アキリーノ新司令官が3月23日、上院軍事委員会でその指名承認を受けるための公聴会の席で、

▼中国は台湾に対する支配権を取り戻すことを最優先課題と位置付けており、この問題は大方が考えているよりも間近に迫っている。

▼我々は受けて立たなければならない……。

と述べたので、ますます切迫性が印象付けられた。が、これは有り体に言えば、歴代、海軍大将が就くことになっているハワイのインド太平洋軍司令官による予算獲得キャンペーンであって、こんなものを真に受けてはいけない。実際、上掲のミリー議長とオースティン長官の発言は(ちなみにこの2人は陸軍出身)直下にいるインド太平洋軍司令官の前任者と後継者の扇動発言をたしなめるところに意図があったのである。

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