米国と密約あり。中国が「台湾独立宣言」でもない限り武力侵攻せぬ訳

 

96年台湾危機から25年

中国の軍拡とそれによる台湾の「風前の灯火」化は、確かに由々しきことではあるけれども、これはそもそも1996年3月の台湾で初めての総統直接選挙に向けて李登輝が優勢の流れになったことを巡って、まず彼を「独立派」として警戒した中国の江沢民政権が95年7月から96年3月にかけて台湾近海に繰り返しミサイルを撃ち込んだり軍事演習を展開したりする愚行に打って出、それに対してまた米クリントン政権が過剰に反応して、直ちに2つの空母機動艦隊を台湾周辺に派遣するという強硬姿勢を示した。

これがいわゆる「第3次台湾危機」で、米中双方の余り利口とは言えない応酬のもつれが生み出した詰まらぬ結果ではあるが、この事態に腰が抜けるほど驚いたのは北京指導部で、事が起きて数日以内に米空母機動艦隊が2つも来てしまうのでは、中国軍は手も足も出ない。上述のように、中国は台湾を武力侵攻したい訳ではないが、台湾が一方的に独立を宣言した場合には断固として武力を用いてでも「1つの中国」の建前を守り通すということを国是としている。ところがそんなことは絵空事で、空母の1隻も持たない中国は米国が出てきたら手も足も出ないことが天下に晒されてしまったのである。

そこから、海軍を中心とした軍近代化の凄まじいというか涙ぐましい努力が始まった。それを外から見れば闇雲の軍拡で、いよいよ中国は何をするか分からない恐ろしい国に増長しようとしていると映って当たり前だが、私に言わせるとそれは闇雲でも何でもなくて、「いざとなれば武力で台湾解放」という国是を掲げ続けるにはその裏付けとなる軍事力を持たなければお話にならないじゃないかというところに中国側の動機がある。

その実体的な中身としては、

第1に、米第7艦隊と戦って勝てるかどうかはともかくとして、少なくともそれと一定期間でも拮坑していわゆる「接近阻止・領域拒否(Anti Access/Area Denial=A2/AD)」を実現すること、

第2に、その艦隊を後方から支援する日本・沖縄、韓国、フィリピン、グアム、ハワイの陸海空米軍基地を中国本土から一斉に叩くことができるよう短・中距離ミサイル網を増強すること、

第3に、それで収まらなくなった時に最後の勝負となる米本土を狙う長距離核ミサイル戦力を、探知しにくい戦略原潜の充実に重点を移し、その行動圏として南シナ海を致命的に確保すること、

が柱となってきた。それが25年を経てほぼ達成され、

  1. 米第7艦隊はいざという時、中国のA2/ADに遭って、もはや台湾海域に接近することができないかもしれない、
  2. 後背の陸海空米軍事基地はすべて中国の大量の短・中距離ミサイルの目標に入っていて、奇襲攻撃されればひとたまりもなく破壊されるのではないか、
  3. 中国の海洋戦略核戦力の充実は相当進んでいると考えられるが、その実態は南シナ海をいくら探査しても不明――

ということになってきて、それが米軍上層部の人たちの中国恐怖論を生んでいるのである。

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