米国と密約あり。中国が「台湾独立宣言」でもない限り武力侵攻せぬ訳

 

中距離の対中ミサイル網を日本に?

いまペンタゴン主流が力を注ごうとしているのは、上記の2.の中国中距離ミサイル網に対する防衛計画である。

本誌は、自慢するわけではないが、この問題を2015年12月14日付No.815「嘉手納空軍基地は使いものにならない?/米シンクタンクのリアルな分析」で米ランド・コーポレーションの報告書「米中軍事スコアカード/1996~2017年にかけて変化する戦力、地理および力の均衡」を紹介しつつ、次のように述べていた。

▼結論だけを引けば、2017年予測で、中国が108ないし274発の中距離ミサイルを集中的に発射し、嘉手納の2本の滑走路にそれぞれ2個所、直径50メートルの穴を空けられた場合、米軍の戦闘機が飛べるようになるまでに16~43日、大型の空中給油機が飛べるようになるには35~90日もかかる。

▼これほどのミサイルの雨が降れば、嘉手納町だけでなく那覇市を含む広域が壊滅的な打撃を受けるのは明らかで、何日経ったら戦闘機や給油機が飛べるようになるかなど、どうでもいい話である。逆に、もし嘉手納をはじめ普天間や辺野古の米軍基地がなければ沖縄県民の頭に中国のミサイルが撃ち込まれることはない……。

330ページにも及ぶ長大な報告書の中で一際印象的だったのは、中国人民解放軍「第2砲兵団」の陸上発射の短・中距離ミサイルの1996年から2017年(当日は予測)までのミサイル攻撃能力の変化を示した図で(「中国の短・中距離ミサイルの増強ぶり」)、96年には射程280~350キロの短距離ミサイルDF-11および同600キロのDF-15を数十発しか持たず、嘉手納に届かせることもできなかったのに対して、21年後の17年にはDF-11、15に加えて、射程2,500キロの中距離ミサイル、同1,500~2,000キロの巡航ミサイルDH-10を数千発保有して韓国はもちろん日本やフィリピンの全土をカバーし、さらにそのDH-10をH-6爆撃機から空中発射することによりグアムのアンダーソン空軍基地も攻撃することができるようになった。

こうした予測に立って、日米安保マフィアの頭目であるジョゼフ・ナイ元国防次官補が日本や沖縄の前進配備基地はもはや危険だとして、前方配備そのものからの撤退を検討すべきだと言い出したりもした。

しかしペンタゴンは逆で、これを跳ね返すための対中ミサイル防衛網を日本列島から沖縄、フィリピンまでにいわゆる「第1列島線」に沿って射程500キロ以上の地上発射中距離ミサイルを5年間に29億ドルを投入して構築しようとしている。まだどこにどんなものを配備したいのかは分からないが、はっきりしていることは、こんなものを列島各地に配備して中国と対決しようとすれば、そこはいざという場合に必ず中国のミサイルの攻撃対象となる。逆に、米軍がそんなものを日本各地に配備しなければ、その各地は攻撃対象となることはない。

7月8日付朝日の「米軍、対中ミサイル網計画」という8段の大きな記事(写真)は、「中国のミサイル開発強化」が背景となってこういう米軍の計画が浮上したが、日本各地にこれを配備しようとすれば「調整難航必至」と言うだけで、この馬鹿げた配備計画自体の是非は問題にしていない。

高野孟さんのメルマガご登録、詳細はコチラ

 

print
いま読まれてます

  • 米国と密約あり。中国が「台湾独立宣言」でもない限り武力侵攻せぬ訳
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け