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知らないのは情弱だけ?エンジニアが教えるIT業界の“ダークサイド”とは

ネットやスマホの普及に伴い、さまざまなサービスが無料で受けられるのが当たり前となった昨今ですが、当然ながらその利用には、人によっては「リスク」と感じる不具合もつきまとうようです。今回のメルマガ『杉原耀介の「ハックテックあきばラブ★」』では、システム開発者で外資系フィンテックベンチャーCTO(最高技術責任者)でもある現役東大大学院生の杉原耀介さんが、ITのシステムに関わったことがある人なら誰でも知っているという「業界のダークサイド」をリーク。超有名な世界的企業がこれまで「多くの人の無知」を利用し行ってきたことを白日の下に晒しています。

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プライバシーが重要な人とどうでもいい人

いつものように助走が長くて恐縮ですが、昔お仕事で重機関係の仕事をした時に「なんかちょっと実際にやってみないとわからないな」と思って、気軽に重機の免許を取りに行ったことがあったんです。

そしたらなんだか盛り上がってしまって「これを取るとあれが取りやすくなる。そうするとこれも…」となんだかポケモン感覚で、いろんな関連資格をそのあとどんどん取りまくってしまい、気がついたら普通に取れる主要な資格はほとんど取ってしまったというオタク気質丸出しな頃がありました。

んで、その頃とにかくGoogle様で暇さえあれば重機の資格の取り方や法制度などいろいろ調べまくっていたんですけど、そうするとだんだん各ページで表示される広告が変わり始めました。

どうやら検索履歴からGoogleや広告エンジンさんが「どうやらこいつ重機に興味持っているらしいぜ」と思い始めたようで、やたら重機の販売店や交換パーツの広告が出始めて、とうとうとある日「回転式ミルギングパーラー」(でっかいターンテーブルに乳牛をたくさんのせてメリーゴーラウンド的にぐるぐる回って効率的に搾乳を行う施設)の広告が出たときには「これは完全にGoogle様に“こいつ酪農農家”と認識されたな」と苦笑したものです。

ま、私はもともと見た目が酪農農家風でなんならうちの犬(ラブラドール:でかい)を散歩させていたときに、謎のおじさんから「失礼ですが猪など撃たれるのですか?」とマタギに間違えられたという経験もあるくらいなので(首都圏にマタギが住んでるはずなかろう!)まんざら間違いではないんですけど、それはともかく検索などの「アクション」をどれほど検索エンジンなどが的確に補足しているのかという証左でもあると言えるわけですよね

さわやかなんとか

そう考えると80年代とかインターネットがなかった頃は広告効果を測定するのは非常に難しいことだったわけですね。

まあ、ここらへんはネット広告業界にいらっしゃる諸兄には釈迦に説法ということになるので、かるーく読み飛ばしていただければいいんですが、念の為簡単にご説明いたしますと、ネットがなかった頃の広告の効果を測定するのは、まあざっくりと「その広告をうつことによってどのくらい売り上げが上がったのか」みたいな乱暴な論理が割とあったわけです。

まあ、もちろん統計的なサンプリングとかはやっていたとは思いますが、出稿する方も広告代理店もおおらかというか大雑把というか「いま、これがトレンドなのでこのテイストでいけばナウイヤングにバカウケでしょ」みたいな勢いで、映画みたいなCMつくっていけてる男女が飲み物グビグビのんでにかっと笑うみたいな(あくまで一般的な話をしてて特定のメーカーさんをDISっているわけではないです!すみませんN先生)ま、正直効果があったかどうか比較のしようがない広告にもじゃんじゃんお金を注ぎ込んでいて、広告業界は一躍花形でクリエイティブなお仕事になっていたわけですね(いや、今もそうでしょ。そらそうよ 汗)。

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残酷なネット広告のテーゼ

ただ、インターネット広告が出てきてからその地図は一変しました。もうね、残酷ななんとかのテーゼっていうくらい、残酷に明確に数字が出ます。この広告に変えたら1日にこの広告が何回表示されて、そのうちクリックした人が何%。その中の何%が申し込みに進んで、おいくら万円ずつ平均使ったからトータルの売り上げはおいくらだから広告比率で何倍ですね、これは効果ありますね。もっと出しましょうね、となんだか得意な分野のネタを振られ早口になったようなオタクみたいに、やたら数字がすっきりはっきり示されて、色んな意味で費用対効果がバッチリ出てくるようになった。もうね、映像のクリエイティブとかサラサラな髪の毛がどうとか関係ない(いや、あるけど)。

ともかくこの路線を突き詰めていくとどんどん効果が上がるからAとBどっちがいいんだ、さあ試せ、PDCAぐるぐる回せ!となんだか書いててぐったりするような理詰めの世界に広告業界はなってきたので、ともかく「的確なターゲットに的確な球を投げる」ことが至上命題になってきたわけですね。

あたりまえだけど、酪農やる予定のないやつに乳牛乗せてぐるぐる回す愉快な機械を売り込んでいる場合じゃない。その人がいま「本当に求めているもの」を正確にピッチすることこそが、広告効果を最大にあげるための手法なのだ!あはははは!

と、なんだか徹夜明けに演説して変なテンションになっちゃった人みたいに、やたら盛り上がって「データ至上主義」と「効率性」が高らかに歌い上げられる時代になったわけですが、そこでもっとも大事なのが「で、どうやって正確な球を投げるの?」という問題です。

それはその、あの…

なぜか今までテンション爆上げだったその人は、その質問に答えようとすると若干切先が鈍るのですよね。「んー、まあ、あのー、さまざまなデータを勘案して総合的に判断」というのが答えですが、じゃあその“さまざまなデータ”って何?というと実はそれは「アプリやサービスから吸い上げたユーザーの行動データ」ということになるわけですな。

ユーザーの行動データ、たとえばスマホであれば今どこにいるのかというのをGPSで知ることができます。バーコード決済を使えばどこで何を買ったかもわかるし、なんならビーコンを捕まえて特定の場所に近づいたこともわかりますね。

あと、当然だけど倫理的なことをこっちに置いておけば、メールを「分析」すれば、その人がどこで何を買ったのか、どのホテルを予約してどの電車に乗る予定なのか?なんのライブのチケットを買って、ECでどんな商品を注文したのかを知ることができれば、むちゃむちゃ正確に「その人が何をしていて今何を求めているのか」を推測することができるわけですね。

でも、それ…あなたはどうです?私みたいに「楽になるんだったらなんでも調べていいよー。全然気にしないし」というタイプだったらいいけれど、単に「それを知らずに奪われていた」ということに気がついたら(そしてあえてそれを知らせる努力をしていなかったら)なんとなくいやーな気分になる人も少なくないのかもしれないですね。

まあ、つまりざっくりいうとさっきの「いろんな情報を総合的に判断」というのはそういうことです。なんつーか会社も慈善事業じゃないんで本当の意味で「完全無料」でサービスを提供することは、よほどの茶人じゃないと難しいです。

一見、そういう条件はないかな。と思いきや、サービスに登録するときに「あれ?これ視力検査かな?」と思うような9ptくらいのちいさーい文字でジャラジャラと書いてある文字。そうあなたがろくに読まずに「同意する」を押しているあの中に、あなたのそのサービスで使うデータを転用して分析しちゃうよ!もしかしたら関連会社に提供することもあるけど、ごめんしてね。てへぺろ!って書いてあることが多いわけです。

そしてその吸い上げられたデータは、何ダースもの統計学の博士号を持っているようなエンジニアたちによって「あーでもない、こーでもない」と分析されて、がちゃがちゃっと計算された結果「うん、こいつには搾乳機のCMを出すと効果が高い!」という結論が出されるというわけですね。

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IT業界のダークサイド

実を言えばこの仕組み、ちょっとITのシステムに関わっている人なら誰でも知ってます。なんでかというと、その仕組みを「提供する側」に回ったことがあるから。私もいまはやってないですが、そういうプロジェクトに関わったことも何回かあります。そうですな、まあ、当然のことですが違法ではない。違法ではないけどフェアなのか?と言われると、んーと何分か悩んだ上に、フェアでない、と言い切るには若干の戸惑いを感じなくもないと言えないわけでもないという可能性が高い。というなんだか歯切れの悪い結論しか出せないわけですよ。

これはなんでしょうね。コンピュータ業界の慣習というか、悪習というか「過剰に責任を意識しすぎて利用者に無茶を押し付ける」という傾向が昔からあります。

この話をするときにいつも思い出すのはよく昔見かけたソフトウエアのパッケージのシールのこと。大体そういうソフトウエアに貼られているシールには「警告:このシールを剥がした場合、このソフトウエアに対し返品や交換などを含め一切の責任から免責とします」みたいなことが書いてあるんですが…いやいや、無茶言うなよと。このシールを剥がしてソフトを起動してみて初めて「あ、壊れてるな」「不具合あるな」みたいなことがわかるじゃろが。このシールを剥がさなきゃどないして中身をみろっつーねん。エスパーじゃねえよ、という話ですわ。となんだかよくわからない地方の方言っぽく怒ってしまうことが多いわけですよ。

もちろん、実際に読み込めないというようなことがあればもちろん交換はしてくれるとは思うものの、基本的に「あー、これしたらもう責任とらなーい!あー、もうお前のせい」みたいな小学生みたいなアティチュード、ITの世界ではよくあることです。

つまり、絶対に誰も読まないような9ptのだらだらと長い文章を三行で表示していても、もう嫌だと思っても「戻る」ボタンがないような画面でも、ともかく利用者から「合意」をとってしまえばこっちのもの。その文面の中に結構エグいことを書いてあっても、知らない間に利用者はその規約に同意させられているわけです(ちなみに私が教えている大学の授業では「普段使っているサービスの規約をよく読んで意外だったことをレポートしなさい」という宿題を出すと、大体の生徒から驚愕のレポートが上がってきます(笑))。

(メルマガ『杉原耀介の「テックハックあきばラブ★」』2021年4月15日号より一部抜粋)

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幼少期から独学でプログラムを学び、15歳でプログラムコンテスト荒らしを始める。工学系に一旦は進むもすぐ飽きて美術系に転向。映像・CGデザイナーを経て1995年にインターネットと出会いニューヨークでシステム開発の仕事を始め、その後アイドルから金融まで幅広い新規事業に携わる。直近ではゼロから外資系フィンテックベンチャーのシステム開発を行い、CTOとして成長に寄与。ガジェット大好きなガチオタ。新しいテックトレンドの予言に定評があり「預言者」と呼ばれることも 。慶應義塾大学大学院美学美術史学修士、現在東京大学大学院博士課程在学。

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【著者】 杉原耀介 【月額】 ¥550/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎月 第1木曜日・第3木曜日

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