米軍撤退後のアフガニスタンでのタリバン政権発足を見越し、7月末にはタリバン幹部と王毅外相との会談の席を設けていた習近平政権。中国とタリバンが支配するアフガンの接近は、世界にどのような事態を招くのでしょうか。今回のメルマガ『在米14年&起業家兼大学教授・大澤裕の『なぜか日本で報道されない海外の怖い報道』ポイント解説』では著者の大澤先生が、ニューヨーク・タイムズの記事を引きつつ両者がすでにウィンウィンの関係にあることを解説。さらにアフガンは米中が共通の目的を見出すことができる場所であるとして、今後の両国の協力如何では世界に好影響をもたらす可能性もあるとの分析を記しています。
日本のマスコミが伝えない海外報道の読み解き方とポイントを解説する大学教授・大澤裕さん新創刊メルマガの詳細・ご登録はコチラから
アフガンに入り込む中国の戦略
米国のアフガン撤退で、中国の影響力が増大するという予想があります。
それはどれぐらい真実なのですしょうか?ニューヨーク・タイムズの8月20日の記事「中国はアフガンの真空に入っていく準備ができているか?」を元に解説しましょう。
【参考】In Afghanistan, China Is Ready to Step Into the Void
まず中国から見たアフガンの最大の関心事は「東トルキスタン・イスラム運動」(Eastern Turkistan Islamic Movement、略称ETIM)です。
これは中国から新疆ウイグル自治区(東トルキスタン)の分離独立を主張するイスラム過激派組織です。アフガニスタンにルーツを持ち2000年代にはタリバンやアルカイダの支援を受けていたと言われます。
当然、中国側はこれを「国家安全保障に対する直接的な脅威である」と重要視しています。
すでに先月7月にタリバンの共同創設者であるアブドゥル・バラダー氏と中国の王毅外相はこの問題について話しあっています。そして中国側からは「タリバンが東トルキスタン・グループと完全に決別することを望む」と伝えています。
これに対してバラダー氏は、「タリバンは、いかなるグループにもアフガニスタンの領土を使って中国に有害な行為をさせない」と約束しています。
先月にはタリバン、中国とも首都カブール陥落が近いと予想していたのでしょう。そのタイミングで両者が会って上記のようなことを合意しているのです。
その「東トルキスタン・イスラム運動」以外においては中国とタリバンはウィンウィンの関係にあると言っていいでしょう。
実際この20年間、中国は政治的にはでしゃばらないもののアフガニスタンに数百万ドルの援助を行い、医療支援、病院、太陽光発電所などを提供し最終的にはアフガニスタンの最大の貿易相手国の一つとなっていました。
そしてタリバンは、カブールを占領する前から、中国のアフガニスタンへの投資を保護すると約束していました。
現時点(8月20日)で中国はまだタリバンをアフガニスタンの新政府として正式に承認していませんが、「アフガニスタンの人々が独立して自分たちの運命を決定する権利を尊重する」「アフガニスタンとの友好的で協力的な関係を発展させる」とタリバンに友好的な声明を発表しています。
すでにタリバンと中国の間には阿吽の呼吸があるように見えます。
以下、今後、どのような形で中国とタリバンが協力できるかを記します。
- 中国の長期戦略投資計画のひとつに「ベルト・アンド・ロード(一帯一路)計画」があり、地域全体に資金を供給してインフラを整備しようとしています。
- もし中国がパキスタンからアフガニスタンまで「ベルト・アンド・ロード」を延長することができれば、例えばペシャワールからカブールまでの高速道路を建設することができ、中東の市場にアクセスするためのより短い陸路を確保することができます。
- またアフガンを通して同盟国とも言えるイランとも地続きになり、より協力な関係を結ぶことができます。
- アフガンにはリチウム、鉄、銅、コバルトなどの重要な工業用金属を含む膨大な未開発鉱床があります。タリバンはその開発を望むでしょうし、中国はその開発技術があります。
- 中国が仲介してパキスタンとアフガニスタンを強く結びける事により、その3国でインドと米国に対抗できます(すでに6月に中国はパキスタン・アフガニスタン両国の関係の発展と改善に引き続き協力することを約束しています)。
ここまでで、タリバンと中国がすでに阿吽の呼吸がある事が分かったと思います。
さて、このように中国がアフガンで大きな影響力を持つ事は米国や世界にとって良い事なのでしょうか?
それは持っていき方によります。そもそも米国がアフガンに侵攻したのは9.11のテロを主導したオサマ・ビン・ラディンが率いるアルカイダがいたためです。
もしアルカイダ等のアフガンにいるイスラム過激主義グループが米国でテロ行為を行わなければここまで長く関わる事もなかったでしょう。
そのイスラム過激主義グループの国際運動を恐れているのは中国も同じです。
中国と米国は、その違いにもかかわらず、外交官や技術者を共同で訓練するなど、アフガニスタンですでにいくつかの協力関係を築いています。両国とも、アフガニスタンが内戦状態に陥ることは望んでいません。
両国ともにアフガニスタン人が主導し、アフガニスタン人が所有する政治的解決策を支持しています。したがって、アフガニスタンは、2つの競合する巨大な国が共通の目的を見出すことができる場所なのです。
もし中米が協力してプレッシャーを与える事によってタリバンとイスラム過激主義グループに距離ができれば、世界にとってかえってよかったといえるかもしれません。
日本のマスコミが伝えない海外報道の読み解き方とポイントを解説する大学教授・大澤裕さん新創刊メルマガの詳細・ご登録はコチラから
世界のジハード主義者を活気づかせるタリバン勝利
アフガン首都カブールの陥落、タリバン支配がこれほど早く起こるとは予想以上で世界が衝撃を受けました。
しかし、この「世界」というのは西側自由主義陣営を指しています。ジハード主義者にとっては、これは歴史的な勝利です。
ジハード主義者(Jihadist)とはイスラム神学の教義に基づいた社会の実現のために武力・暴力の行使も容認する人々です。
彼らにはこのタリバンの復活はAD630年に預言者モハメッドが聖地メッカを征服したときのような勝利と言います。
8月21日サウスチャイナモーニングポスト紙の記事によるとジハード主義者の活動が世界各国で活発化するとの事です。
【参考】Afghanistan:Taliban’s return ‘boosts morale’ of militant groups in Southeast Asia
以下、抜粋しましょう。
インドネシア、マレーシア、フィリピン南部の3カ国は、タリバンの勝利によって最も大きな影響を受けるだろう。
イスラム教徒はタリバンから「人々の心と支持を勝ち取る方法」を学ぼうとするだろう。
ジハード主義者はタリバンがアフガニスタンを奪還したことに陶酔しており、その様子はソーシャルメディアへの投稿からも伺える。
アフガニスタンに行って訓練を受けたいという願望を表明しているジハード主義者らがいる。
かつてタリバンがオサマ・ビンラディンにカンダハルでの訓練所開設を許可したのと同じように、アフガニスタンで軍事訓練を受ける機会があれば、彼らは必ず行くでしょう。
ジハード主義者たちは今、神が異教徒との戦いを助けてくれると確信しておりどれだけ時間がかかろうとも、勝利を与えてくれると信じている。
カブール陥落後、タリバンの戦略や戦闘戦術を記したアラビア語のマニュアルをWhatsAppのチャットグループで配布していた。
「ジャマ・ムスリミン・ヒズボラ」というイスラム教グループのメンバーの一部が、「タリバンから学ぶ」ためにアフガニスタンに人を送る委員会の設立を提案してきた。
ジハード主義者がインドネシアにイスラム国家を樹立するのを支援するために、タリバンにインドネシアに支部を設立するように招請する提案もある。
以上、タリバンの勝利が、どれだけ世界のジハード主義者を活気づかせているかがわかる話です。彼らの受け皿に新生アフガンがならないように、日本なりの圧力をかけるべきでしょう。
(メルマガ『在米14年&起業家兼大学教授・大澤裕の『なぜか日本で報道されない海外の怖い報道』ポイント解説』 8月22日号より一部抜粋)
社会の分断化を推し進める「バランスを欠いた報道」を見極めるために
メルマガ『在米14年&起業家兼大学教授・大澤裕の『なぜか日本で報道されない海外の怖い報道』ポイント解説』 では、在米14年の経験と起業家としての視線、そして大学教授という立場から、世界で起きているさまざまなニュースを多角的な視点で分析。そして各種マスコミによる「印象操作」に惑わされないためのポイントを解説しています。8月中であれば、8月配信分のメルマガ全てが「初月無料」でお読みいただけます。この機会にぜひご登録ください。
月額:¥330(税込)/月
発行日:毎週 日曜日(年末年始を除く)
形式:PC・携帯向け/テキスト・HTML形式
日本のマスコミが伝えない海外報道の読み解き方とポイントを解説する大学教授・大澤裕さん新創刊メルマガの詳細・ご登録はコチラから
image by: john smith 2021 / Shutterstock.com