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中国は米露レベルまで核ミサイル保有数を拡大できない。専門家が断言する根拠

今年7月、中国が大陸間弾道ミサイル(ICBM)の地下式格納施設(サイロ)を約120基も建設していると米大学が確認した、と主要メディアなどで報道されました。この中国「地下サイロ建設」の動きですが、軍事的には「核ミサイル」保有数の拡大を意味してるのでしょうか? 軍事アナリストの小川和久さんが主宰するメルマガ『NEWSを疑え!』の執筆者の一人である静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授の西恭之さんは、中国が米・露と同規模に核ミサイルの数を拡大しているという可能性を否定。その根拠となる「核兵器物質」の保有量をあげ、実際の核ミサイル保有数を独自の分析で割り出しています。

核兵器物質から見た中国の核ミサイル数

中国が大陸間弾道ミサイル(ICBM)の地下サイロを新たに数百基建設していることが、米国の官民の専門家に発見され、中国側の目的についてさまざまな憶測が飛び交っている。しかし、核兵器約320発を保有し200発強を配備している中国が、核戦力を現在の米国・ロシアの規模に拡大しようとしている可能性はほぼない。中国が配備できる核ミサイルの数の上限は、保有する核兵器物質の量で決まるが、中国は約730発分を生産した後、1987年に生産を停止しており、再開の動きはみられないからだ。

アメリカ科学者連盟(FAS)研究員のマット・コーダ氏とハンス・クリステンセン氏は今年2月24日、内モンゴル自治区西部のアルシャー盟ジランタイ(吉蘭泰)ロケット軍訓練場にミサイルサイロ16基が建設中とする、商業衛星写真の分析を発表した。コーダ氏とクリステンセン氏は2019年9月、新型サイロ1基とみられる施設がジランタイに建設中との分析を示していた。

ワシントンポストは6月30日、甘粛省酒泉市瓜州県の砂漠にミサイルサイロ119基が建設中という、ジェームズ・マーティン不拡散研究センター(CNS カリフォルニア州モントレー)による商業衛星写真の分析を報道した。同紙もCNSも、現場の地名を隣の市の名の「玉門」と呼称している。

FASのコーダ氏とクリステンセン氏は7月26日、新疆ウイグル自治区東部のクムル市(2016年1月までハミ市)にはジランタイおよび玉門のようにドームで覆われて建設中のサイロが14基、基礎工事中の19基があり、格子状の配置からすると最終的に120基が建設されるとの分析を示した。

米空軍大学の中国航空宇宙研究所(CASI)は8月12日、内モンゴル自治区西部のオルドス市ハンギン旗に、上記の3か所に似た工事現場があり、おそらく29基以上のサイロが建設中と発表した。根拠としては商業衛星写真を示した。

中国から米本土やハワイを攻撃可能なICBMは、旧式のDF-5A/B(東風5A/B)が10発ずつあり、サイロ配備型だが、平時は核弾頭を搭載していない。弾頭の数はDF-5Aが1発、DF-5Bが最大5発だが個別の目標へ誘導されない。後継機のDF-41(東風41)は自走式発射機に搭載されて2019年10月1日の建国70周年記念パレードに参加したが、米国防総省によるとサイロからも発射可能という。

数百基のサイロにDF-41を配備する目的については、さまざまな推測が成り立つ。米国はピースキーパーICBMの配備方式として、200発を1000基以上のサイロの間で移動させることで、ソ連による先制攻撃を抑止しようとしたが、中国も同じ考えでサイロを増やしているのかもしれない(米国はこの配備方式を受け入れる州がなかったため、既存のサイロに固定配備した)。

あるいは、有事に米軍が自らの脅威となる中国軍の通常弾頭ミサイルを攻撃する目的で移動式発射機を攻撃した場合に、核ミサイルも破壊される可能性への備えかもしれない。

明らかなのは、中国が保有している核兵器物質では、現在の米国・ロシアの規模に核戦力を拡大することはできないということだ。民間の国際核分裂性物質パネルによると、中国は兵器級プルトニウムの生産を1986年、高濃縮ウランの生産を87年に中止しており、既存の核兵器を含めて兵器級プルトニウム約2.9トン、高濃縮ウラン約14トンを保有しているという。

中国の核兵器が起爆にプルトニウム4キロ、最終段階の核分裂に高濃縮ウラン20キロを使用するなら、中国が保有できる核兵器の数はプルトニウムの保有量に制限され、約730発となる。中国がかつて運転した兵器級プルトニウム生産炉は2基とも廃炉が進んでおり、新設する動きはみられない。

したがって、中国が核戦力を現在の米国・ロシアの規模に拡大する可能性はないと考えてよいだろう。(静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授・西恭之)

image by: Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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