ビジネスマンであれば、仕事のときに必ずと言ってよいほど意識するのが「タスク管理」。しかし、思わぬ急な仕事が入ってきたり、作業が途中で増えたり、何か始めようと思いついたことが思い浮かぶなど、なかなか仕事をスムーズに進められないのが現状です。そんなマルチタスクと戦う時に重要となってくるのが「メモをとること」です。メルマガ『Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~』の著者で、Evernote活用術等の著書を多く持つ文筆家の倉下忠憲さんは、ビジネスの基本となる「メモから始まりメモに終わる」仕事術のコツを、5つのシチュエーションのメモを事例としてあげながら伝授。この記事を読めば、なぜメモをとるのか、どうやってメモをとるのか、メモをどう活用すればよいのか、が一目瞭然で理解できます。
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メモから始める仕事術
メモなんです。仕事をうまく成し遂げるコツは、メモにあります。メモにしかないといっても過言ではありません。いや、もしかしたら過言かな……。でも、メモに相当な要因があることは間違いありません。
とは言えこれは、「上司の言うことはきちんとメモしておきましょう」といった話ではありません。もちろん、それは大切なメモの一つですが、上司が細かくメールで指示してくれる人間ならば不要なアドバイスです。
「メモから始める仕事術」は、もっと包括的にメモの役割を位置づけます。「書き留めること」を万事の出発点に想定するのです。
たとえば、あなたは一日をどんな風にスタートしますか。私はメモからスタートします。
朝目覚めて、ぼんやりした頭でまずTwitterのタイムラインを(主にリプライなどを)確認し、次にGmailの受信箱を覗いて、そのままFeedlyに溜まっているRSSの見出しをざらっと眺めていきます。
もうその段階で、「その日」に関することがいくつか浮かんできます。GmailにはGoogleカレンダーからの通知が飛んでくるので、スケジュールに必要な行動が想起されるかもしれません。ツイートやブログを眺めているうちに、ブログに書きたいことが出てくるかもしれません。メールの内容によっては、早急に対応すべき作業を発覚することもあるでしょう。
そうして、思い浮かんだことを、さらさらとメモしていきます。
場所はどこでも構いませんが、私は「その日のノート」をよく使っています。一昔前はほぼ日手帳の当日のページで、少し前は、Evernoteのデイリータスクリスト用のノートで、今現在は7wrinerの1ラインを使っています。来月にはもしかしたらScrapboxになっているかもしれません。本当に、どこだって構わないのです。メモを書けさえすれば問題ありません。
書く内容はいろいろです。「今日はメルマガを仕上げたい。R-styleのデザインも気になっている。あとで郵便局にいかないと。午前中に原稿作業を仕上げておいて、午後からは図書館に行こう」。頭に思い浮かんだことを書きつけていきます。
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漠然とでも「その日のシミュレーション」をすること
ここでのポイントは、おそらく二つあります。
一つは、漠然とでも「その日のシミュレーション」を行うこと。時間や分単位で細かく考える必要はありません。午前中はこう動き、午後の早い段階はこう動き、夕方にはこう動いて、夜にはこう動く、といったことをイメージすることです。言い換えれば、なんとなく一日を始めないことです。往々にして、なんとなく一日を始めてしまうと、なんとなく一日が終わります。
もちろん、その日のシミュレーションをしたところで、その通りに進むとは限りません。まったく限りません。そもそも、その通りに進むなら、それはシミュレーションではなく、予知や予言などの奇跡に属する行為になってしまいます。さすがにそれを求めるのは、人の身には重すぎる願いでしょう。
シミュレーションするのは、あくまで「枠」を設定するためです。一日を「24時間の大きな箱」と考えるのではなく、起きてから寝るまでの16時間(あるいはもっと短い時間)だと捉え、さらにその箱に細かい仕切りを入れることで、時間の感覚を研ぎ澄ませます。といってもそれは、レイピアのような鋭利さではなく、削りたてのエンピツ程度の鋭利さにすぎません。
これがあるだけでも、以降の行動選択の基準が変わります。時間がたくさんあると捉えてしまうと、どうしてもゆるく引き延ばして使ってしまうのが人間の傾向なので(もちろん個人差はあります)、わずかでもシミュレーションしておくことで、その感覚を補正するわけです。
朝一にメモるのは「いきなりタスクにしない」ため
もう一つ、朝一にその日のことについて書き出すことの効能は、「いきなりタスクにしない」点にあります。これは極めて重要な点です。
たとえば、メールを読んでいて何か実行すべき案件が発見されたとしましょう。するとすぐさまそれを「タスク」にしたくなります。特に、「今日のタスク」にしたくなります。なんなら直後に取りかかりたくなります。でも、それって本当に今日やるべきタスクなのでしょうか。実は明日でもOKかもしれません。明後日でもOKかもしれません。よくよく考えれば、別に自分でやらなくてもよい場合すらあります。
同じことは、「後でスーパーに行きたいな」と思ったときにも言えます。別段今日スーパーに行く必要はないかもしれません。何か別の買い物と合わせて、その日に行けばいいかもしれません。だから、思いついた直後に、「タスク」にするのではなく、いったん「後でスーパーに行きたいな」とだけメモしておけばいいのです。
事実、自分の脳内で発生したのは、「後でスーパーに行きたいな」と思ったことだけであって、それがタスクであることはその時点では確定していません。しかし、ネットでよくある、
門番「貴様は誰だ?」
着想「タスクです」
門番「よし、通れ」
のような雰囲気で、即座にタスク化され、タスクリストに掲載されてしまうことがよくあります。このやり方をしていれば、あっという間にタスクリストはパンクしてしまうでしょう。
重要な点は、「~~しようと思った」ことと「~~すること」をタスクにすることは別である、ということです。だからこそ、いきなりタスクリストの作成に取りかかるのではなく、まず頭の中に思い浮かんだことをメモするところから、一日をスタートさせるわけです。これは、〈着想と処理を分ける〉という言い方ができるでしょう。
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作業をメモから始める
作業を行う場合でも、メモは有効です。作業を始める前だけでなく、作業中、作業後ともに有効です。特に、不慣れな作業ほど、有効性は上がります。
まずは、作業前のメモから。
一日をメモから始めたように、作業もまたメモから始めてみましょう。
今からどんな作業をするのか、どのように進めようと思っているのか、その時点で考えていることは何か。頭に思いつくことを、ありったけ外に出してしまいます。
そうしてメモを書き出していくと、一日メモと同じように、行動のシミュレーションが発動します。手順が脳内に想起されるのです。また、後々の作業で必要となる情報を書き出しておけば、脳の負荷も下がります。MPを節約するためには大切なことです。
逆に言えば、日常的に繰り返しているような作業の場合は、こうした書き出しは必要ありません。手順が脳内に焼き込まれているので、そのまま行動に移ってもよいでしょう。ポイントは、なんとなく取りかかりにくいなと感じるタスクについて、メモを作ってしまうことです。これで、着手の敷居がぐんと下がります。
「作業中のメモ」は2種類ある
続いて、作業中のメモ。
作業中のメモは、作業の内容に関するメモと、作業の内容に関係しないメモの二種類があります。
作業内容に関係するメモについては、実行したことで何が起きたのか、どんな結果が生じたのかをメモします。一つのログです。
作業内容に関係しないメモは、連想して思いついたこと、突然閃いたことを書きます。人間の脳は、まっすぐ一本には走ってくれないので、関係ないことをいろいろ思いつきますが、それもしっかりキャッチしておきましょう。
できれば、内容に関係しないメモについては、そうしたものを保存する別の場所に書き留めたいところではありますが、そのような余裕がない場合は、気にせず同じ場所にメモしておきましょう。分類は大切ですが、それ以上に書き留めることが大切です。書き留めてしまえば、あとはどうにでもなります。
書き留めたメモをどこで管理するか問題
とは言え、この問題は「作業メモ」に関して難しい問題を含んでいます。一日メモと、作業メモはどこで管理するのか。もし量が少なければ、すべてを一日用のメモに書いてしまえばよいでしょう。そうでない場合は、作業ごとにファイルやノートを作り書き留めていくことになります。
ただし、何かしらの作業中にいったん手を止め、別の作業のファイルを取り出して、そこに書き込むという作業はあまり現実的ではありません。可能ではあるでしょうが、認知スイッチの切り替えにコストがかかりますし、それはつまり面倒でやらなくなる可能性が大、ということです。
そう考えれば、とりあえず手近なところに書き留めておき、その後に処理・分類するのが実際的な運用ではあるでしょう。あるいは、すべてのメモを書き留める単一の媒体を持っておき、そこに何でもかんでもひたすら書き込む方法もあります。
とは言え、そうして雑多に書き込んだものは、後からの利用が難しくなるので、タグ(ラベル)で選り分けることが必要となります。手間を省くための方法を行うために、新しい手間が発生する。本末転倒ではありますが、どうしようもありません。
このようなタグ(ラベル)を使う場合は、一般的にデジタルツールでの運用が想定されますが、アナログツールであっても、記号やマークを使えば、ある程度の選り分けは可能です。また、付箋を一緒に使うことで、「とりあえず一カ所に書き込んでおき、それを後で移動させる」ことも簡易にはできます。
上記のように、メモの扱いは簡単ではありません。「朝に書く一日メモ」に関しては書き場所に悩みませんが、そこに作業メモが入ってくると、混乱が生じ始めます。この点に関しては、もう少し研究が必要でしょう。
とりあえずは、書き込むことを第一目標とし、その後の処理についてはなるべく低コストで行う方法を模索していきましょう。
「作業後のメモ」は何を書く?
では、最後の作業後のメモです。
作業が終わったあとに、作業全体の結果がどうであったのか、次にすべきことは何なのかを書き留めます。いわば、次回の自分への引き継ぎメモです。そうした記述を一つ残してあるだけで、次回の自分の認知経済性は変わってきます。当然のように、こうした作業後のメモを残しているならば、作業の開始はメモの書き込みからではなく、メモの読み返しからとなります。とは言え、どちらにせよメモから始まることは間違いありません。
こうしたメモは、連続ドラマなどの冒頭にある「前回までのあらすじ」に相当すると言ってよいでしょう。そうした記述があれば、多少時間が空いていても、自分がやったこと・やろうとしていたことを思い出せますし、それが作業への取り組み方を変えてくれます。
繰り返しますが、毎日当たり前のように繰り返している作業に対しては、ここまでやる必要はありません。せいぜい作業中に思いついた関係ないことを書き留めるだけで充分です。
しかし、もし間隔が空くような行為、連続性が重要な行為、若干苦手意識を感じているような行為に関しては、まずはメモから始めてみるのがよいでしょう。
(メルマガ『Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~』より一部抜粋)
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