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なぜジョブズや盛田昭夫は「学歴」を無視したのか?人材見極めのコツとは

ドラッカーが語る「人は最大の資産」という言葉。その資産をいかに獲得するかが企業の存続に大きく関わります。そこで、今回のメルマガ『戦略経営の「よもやま話」』では、著者の浅井良一さんがリクルートやアップルなどの実例を挙げて人材獲得のためにどんな人を選ぶべきなのかについて語っています。 

人こそ最大の資産 どんな人を選ぶのですか

トヨタの興隆は、トヨタが立地した“三河”という地の人の気質、気風に大いにあずかってできあがったと言えそうです。

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ドラッカーは「人は最大の資産」と言いますが、この貴重な資産をいかに獲得するかは企業の存続、成長にとって決定的な要因になります。そして、その獲得には「マーケティング」の考え方が必要だとします。

話が変わってリクルートなのですが、その創業期に“人材獲得”のためにとったやり方は洒脱で、狙いから逆算しての思い切った手法でした。名もない小さな会社だったため、普通の方法では希望する人材を獲得できないとして「学歴、男女、国籍の差別なし」とし、初任給はといえば大企業よりも30%も高くしたのです。

すると、4人の採用に対し2,000人もの応募があったといいます。特に、働く意欲と能力の高い大卒女子や高卒の人から驚くほど大量の応募があり、後にリクルートを躍進させる活力源となったのです。

ところで、なぜ有能な人材が必要なのかということを考えたいと思います。また事業に成果をもたらすために必要な人材について「そもそも論」から始めて、経営の基本を整理したいと思います。ここから始めなければ「人は最大の資産」であるということが分からず、またどんな人材が必要なのかが分からないため再確認します。

そもそも企業が成立するのは、それは人が対価を支払っても購入したいと思う商品やサービスを提供することができたならばのことで、それが“他よりも優れている”もしくは“今までなかった”もので、初めてより魅力的であるという条件を満たしていなければなりません。では、それらを可能にするのは誰か、それが“選ばれた人達”です。

ここで、さらに「そもそも論」として話を進めます。その“選ばれた人達”とは、どんな人なのかをよくよく考えてみます。ごく普通に言われるのは「一流大学出の好成績でやる気のある人」という答えが返ってきそうですが、ソニーは一見そのような人材を集めたようにみえますが、盛田昭夫さんは「学歴無用論」を展開しています。

少し極端な例をあげます。繁華街の喫茶店でウェイトレスを雇いたいと思った場合「高学歴のやる気のある人」を求めるでしょうか。そうではなくて「笑顔がかわいい、気配りのできる人」となるでしょう。それが葬儀社だとしたら「気配り」は同じだとしても「笑顔がかわいい」ではなくて「誠実みのある人」となるのでないでしょうか。

アップルのスティーブ・ジョブズの場合についてはどうか。ジョブズの仕事のスタイルは「少人数の優秀な人材とチームを組み画期的な新商品を作り出してゆく」ですが、そこで求めた人材について、「他社からの難民で成り立ってる。ものすごく頭が良いんだが、他社ではトラブルの種になるような連中ばかりなのさ」だと言うのです。

ここで言いたいことは、高い成果を実現しようとするならば、喫茶店での「笑顔がかわいい」や葬儀社の「誠実みのある人」や、ジョブズの画期的な新商品をつくる場合の「ものすごく頭が良いんだが、他社ではトラブルの種になるような連中」のように、まず明確な“目標”があって“選ばれる人達”が規定されるということです。

「事業の定義は“目標”に具体化しなければならない。そのままでは、いかによくできた定義であっても、優れた洞察、よき意図、よき警告にすぎない」。これがドラッガーの指摘です。また寄り道ですが、成功の大前提は、いくら卓抜なアイディアがあっても「具体的に目標が設定されなければ」実行できないのです。

もし業績が振るわないとしたら、高い業績をもたらせる“目標”が欠如しているか、あったしてもその目標を達成させる“人材”を誤認し、“選ぶべき人達”を獲得できていないことが原因かもしれません。まずは貢献する目標や高みである目標が必要で、そうでないのであれば高業績おろか普通の業績も望むべきではありません。

ジョブズの場合は、自身の目標を「われわれは宇宙に衝撃を与える」で、松下幸之助さんは「物資を無尽蔵にたらしめ、無代に等しい価格で提供する。人生に幸福をもたらし、この世に極楽楽土を建設する」とします。企業が存続・安定させるには、明確な訴える“目標”が基本的な第一歩で、第ニ歩は「可能にする人材」をいかに獲得するかということです。

それが意外と理解されておらず、業績を低迷させている企業が多く見受けられ、基礎要件が分からないのでは土俵にすら上がれません。もとよりこの要件を整えるのは、経営者が死命をかけた当然の行為であるのですが、ここのところの基礎をしっかり構築しさえすれば、これが起点となり企業の姿を大きく変転させることになりそうです。

 

最大中の最大の“人資産”

ここでまた脱線なのですが、ドラッカーは「人は最大の資産」と言いますが、あらためて確認しなければならないのは最大中の最大の“人資産”は誰かということで、それこそが「経営者自身」であります。こここそが起点で、幸之助さんではありませんが「自身が、まずは最大最高の資産になろうと思わなあきまへんな」がすべての曙光です。

話を、獲得すべき“選ばれる人達”に戻します。

ドラッカーは「良質な人材を引き寄せることができなければ、企業は永続することはできない」と言い「人材の獲得に関しては、特にマーケティングの考え方が必要である」とします。

その人材の獲得のマーケティングを行うについてーー

1.われわれが必要とする種類の人材を引き付け、かつ引き止めておくには、わが社の仕事をいかなるものとしなければならないか。
2.獲得できるのは、いかなる種類の人材か。それらの人材を引きつけるには何をしなければならないか。 を問うことであるとしています。

そして「人が“責任”という重荷を負うためには何が必要か」という問いを起こして、それに解を与えようとします。それは、こんなことです。

1.そもそも仕事そのものに“やりがい”がなければどうにもならない。
2.仕事と収入を失う恐れがあるなかで、仕事や集団、成果に責任を持つことはできない。責任を負うためには、仕事と収入の保証がなければならない。必要なのは収入の保証だけではない。積極的かつ体系的に仕事を与える仕組み、すなわち働く者を“社会の生産的な一員”にする仕組みである。

という条件が必須であるとしています。

さて「産業のコメ」という言葉をご存知のことと思いますが、高度成長時代は鉄鋼であり、1970年代後半以降は半導体がその位置にあります。1992年までは、日本が売上ランキング1位に君臨していたのですが、2020年の売上ランキングは、1位はインテル738億ドル、2位はサムスン電子605億ドル、日本勢ではやっとキオクシアが12位で107億ドルです。

ここでなぜ半導体のことをあげたのかというと、それは人材獲得の実例を知ってもらいたいからです。

サムスン電子が、半導体の売上上位にランキングできるようになったのは、それは日本の半導体の製造現場で活躍してきた熟年技術者に“やりがい”と“社会の生産的な一員”である仕事と収入を提供したからです。サムスン電子の親子にわたる会長の強い思いと着実な意思決定があってのことで、環境はともあれ日本の経営者の惨敗と言えるでしょう。

1986年、東芝大分工場生産ラインを統括担当する製造部長をスカウトして、大分工場と同等設備を有する製造工場を建設。1991年、バブル崩壊で事業撤退や工場閉鎖などで大掛かりにリストラされた多くの日本人技術者を高給でヘッドハンティングし、技術顧問として招聘して最新技術を確立させました。

人的資源が誰にも負けない力を発揮する条件は、強烈な“やりがいの目標”があり“社会の生産的な一員”として“活躍できる場”を与えられた時で、サムスン電子はこれを行ったのです。松下幸之助さんが「人間は本来働きたいもの。働くことをじゃましないことが、一番うまい人の使い方である」が、ありようの道理でしょう。

スティーブ・ジョブズは“選ばれる人達”についてこう言います。

「“偉大な製品”は、情熱的な人々からしか生まれない。即戦力になるような人材なんて存在しない。だから“育てるんだ”。お膳立てさえしてやれば、人は自分の『限界以上の仕事をやり遂げる』んだよ。大事なのは技術ではなく、それを使って何を生み出すことが出来るかだ」

ただし上記の言動は、さんざん人材を絞り上げ色々と失敗も経てきてのことで、これが最も成果が生む方法と実感しての結論です。だから、ここでの「育てる」には、深い含蓄と大きな威力があります。

image by: Shutterstock.com

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【著者】 浅井良一 【発行周期】 ほぼ週刊

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