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稲川淳二が語る怪談。会社員が逃げ場のない車内で遭遇した「女性」の正体

現代日本を代表する「最恐」の怪談の語り部として、いの一番に名の挙がるタレントの稲川淳二さん。そんな稲川さんは2009年より12年もの長きに渡り、メルマガ『稲川淳二の眠れない怖い話』にて平日のほぼ毎日、思わず背後を確認したくなるほど恐ろしい怪談を届けてくださっています。今回はその中から特別に、東京の郊外で20代の男性が体験したという恐怖譚を公開。霊が現れるのは、夏場に限ったことではないようです。

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岡田さんの恐怖体験

こんばんは、稲川淳二です。

今日は、青梅にお住いの男性が体験したお話です。

これは、岡田さんという20代の男性の方からいただいた話なんですがね。

岡田さん、東京にお住まいなんですが。

東京といっても、青梅のほうでねえ。

東京にお住まいじゃあない人には、わからないでしょうけど。

まあ、僻地ですよ。

言っちゃうならば、僻地だ。

東京都とも思えないほど遠くてねえ。

ですから、通勤も大変なんですねえ。

でもしょうがない、やっとの思いで買ったマイホームだ。

片道2時間半かかりますけど、通ってるって。

その岡田さんが、4年前に体験した話なんです。

夜、仕事がたまたま早く片付いたんで、

「まあ、一杯どうだ」

仲間に誘われて、飲んだ。

ふだんは、片道2時間半ですから。

同僚の酒の誘いにも断ることが多い。

だから、ひさしぶりに、「行こうか」てんで飲みに行ったんだなー。

で――終電ぎりぎりで帰ることにした。

ところが――。

都内で事故があって。

電車が、青梅の手前で停まった。

快速とか急行しか停まらない駅で。

で、その駅に立ち往生しちゃって、電車はもう、上りも下りもない。

夜の夜中ですから。

で――、「タクシーを手配しますから、駅からこの先はタクシーでお願いします」っていうんだけど、なにしろ人が多い。

立ち往生の乗客が。

で、電車からタクシーに代替輸送する、それ申し込むのにも、結構手間がかかるんだ。

タクシー代、JRが出すんですから。

帰りが遅くなる。並んでるし。

もう早く帰りたい。

疲れてるし、飲んでるし。

一刻も早く帰りたかった。ですから、「少し歩いてみるかな」と。

歩いていれば、流しのタクシーがつかまるかもしれない。

そうすれば、自腹を切ることになるけど、早く帰れる。

そう思って。とぼとぼ、とぼとぼ歩いてた。

駅の周り。

国道のような大きな通りはあるけれども、車がまったくない。

通らない。

「まいったなー」

ここももうかなりの田舎なんだなあ――。

わかって。

「しょうがないなあ。戻るかなー」

って。

で――ふっ、と見ると―――。

道路わきに、赤黒い明かりが見える。

店かな、居酒屋か。

思って、行ってみよう。

とぼとぼ、とぼとぼ

歩いていくと、

赤い、というよりは赤黒い明かりで、「おでん」って書かれてて。

「あぁ、飲み屋か」

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よかった、入ってみよう。

飲んで、タクシーつかまえたいんで、聞いてみよう。思って、

ガラッ

――戸を開けた。

―――70過ぎぐらいのおばあちゃんが一人、

「あ、はい」

「やってますか」

「どうぞ」

てんで、酒、頼んで。適当につまみを頼みながら、

「ところで、タクシーつかまえたいんですけど、電話番号わかりませんか」

聞くと、

「ああ、ここらへんは、そういうもんないねえ」

――いう。

「帰るの、これから?」
「そうです」

事情、話して。

電車が停まったっていうと、

「じゃあ、うちの亭主に送ってもらったら?」

いう。

「ええっ!いいんですか」

「いいですよ、聞いてみますよ」

いって、奥に入ってった。

もうしょうがない、帰る手段がないんで、お言葉に甘えて送ってもらおう。

思ってると、おばあちゃんまた出てきて、

「いいですよ、外に車出してますよ」

いうんで、

「ああ、ありがとうございます」

いって、急いで外に出た。

と――。

真っ暗な道路わきに、車が1台停まってて。エンジンかかってるんで、

「すいません、お世話になります」

いって助手席に乗り込んだ。

これも70過ぎぐらいのおじいさんが、

「いいですよ、いいですよ」

いいながら、運転席にいて、

「どこですか」

聞くんで、家の住所教えて。

「じゃあ」

てんで、ブォォォォ―――

車、発車したんだ。

ブォォォォ―――

走ってると、

「ちょっと、寄り道、するけど、いいかな」

いうんで、

「ああ、いいですよ」

いうと、車が

ブォォォォ―――

いいながら、途中で山道に入って。

急な、すっごく急な坂道、上がって。

どんどん上がっていって、急に、

キィィィ――

停まった。

おじいさん、なにやら、がさごそ、やって。

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ビニール袋のようなもの、ガサガサやって。

それ持つと、

バッ

とドア開けて、

バタン!

――閉めた。

真っ暗な闇んなか――見てると―――。

目の前に、うっ…!

お墓がある。

ええっ――!

思って。びっくりして。

――見てると――おじいさん、墓にお供えして。

で、――手を合わせると、忙しげに戻ってきた。

ブォォォォ―――

また車が発車する。

気になったんでねえ――なんとなく、おじいさんに、

「お家の、お墓ですか」

聞くと、

「いやー、娘のだ」

――。

「あんた、気がつきませんでした?」

いうんで、

「えっ?」

なんですか?

「えっ?」

いうと、

「気づきませんでしたか。じやあ、いいです」

いうんで、

「なんですか、どうかしたんですか」

気になって聞くと、

「いや、さっき、店に娘がいたんですよ」

って――。

「死んだ娘がいたんで、こりやあ、お供え物しなきゃ思って、寄ったんです」

いう――。

娘がいた?

死んだ娘が?

「それって――」

ええっ―――!

なに?

「ひよっとして、幽霊って――こと――ですか」

――聞くと、

「ああ、そうですねえ」

って――。

「時々、出るんですよ。若い男が店に来たりすると、うれしいんでしょうねえ」

いうんで、

ええっ―!

と―――。

「娘は若くして亡くなりましたから」

――。

「若い男性が来ると、落ち着かないんでしょう」

――。

ゾッ――!として、岡田さん、

「じゃあ――」

っていって、

「娘さん、いつも――店にいるんですか」

聞くと、

「ああ、たまにいますよ」

こともなげに――いって、

「今もいますよ」

いうんで、えっ!

思って、思わず運転席のじいさんの顔見ると、

ううっ!

じいさん、バックミラー見てる。

じっ―――

と凝視してるんで、ううっ!

自分も、瞬間、

うっ!

ミラーを見ると―――

あぁぁぁぁ――――――!

青ざめた顔の女いる!

横顔がはっきり映ってるんで、

「うわぁぁぁ!」

もう言葉もない!

声も出ない!

震えが止まらない!

全身が硬直して――叫べない!

あぁぁぁぁ――――。

隣の、じいさんの顔見るのも、怖い。

硬直したまま、硬直したまま―――じっ―――として。

じっと―――じっと―――辛抱して。

辛抱して―――乗って。

「あっ!もうそこでいいです!」

家の近くで急いでおろしてもらって。

車、降りたそうです――。

じいさん、何もなかったかのような顔をして、

黙って、帰ってったそうです―――。

終わり

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image by: Shutterstock.com

稲川淳二この著者の記事一覧

桑沢デザイン研究所を経て工業デザイナー・タレント・怪談家として活動。日本テレビ「ルックルック」・NHK大河ドラマ他、多くの番組に出演。平成8年、通商産 業省選定グッドデザイン賞「車どめ」を受賞。1993年から全国ツアーの怪談ライブを開催。毎年全国20数か所で夏の定番イベントとして定着している。 そして、日本を代表するサマーフェスティバル「RISING SUN ROCK FESTIVAL」や「SUMMER SONIC」にも出演し大喝采を浴びている。

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