人は誰しも、意中の相手とお近づきになりたいと望むもの。とはいえなかなか勇気が出せずに関係性を深められないという声も多く聞かれます。そんな状況から脱却する良い手立て、ないものでしょうか。今回のメルマガ『久米信行ゼミ「オトナのための学び道楽」』ではiU情報経営イノベーション専門職大学教授を務める久米信行さんが、読者から寄せられたそんな相談に、自身が大好きだという仏教用語を紹介しつつ懇切丁寧に回答。気になる人と心を通じ合わせるため実践すべき「5つのステップ」をレクチャーしています。
オトナの放課後相談室「ハラスメント時代の社内恋愛の作法とは?」
Question
会社にちょっと気になっている人がいます。
同じ部署の後輩の女性で、明るくよく笑う性格に引かれて、密かに好意を持っています。
ただ、このご時世、迂闊にプライベートなお誘いをしようものなら、セクハラやパワハラ問題にもなりそうですし、振られた時には気まずくて仕方ありません。
ちなみに恋愛は私の苦手ジャンルで、これまでの人生でも告白は1回しかしたことがないので、余計にビビっています。
世の職場恋愛をしている人たちは、どうやって関係を深めいているのか、気になっています。
場違いな相談であることは承知の上で、事例をお持ちなら共有頂ければ幸いです。(東京都・35歳、男性)
久米さんからの回答
日常の和顔愛語で心通わせ、グループランチの良き聴き役から、彼女の好きを共に楽しむパートナーへ
明るくよく笑う女性。素敵ですね。どんな時でも明るく笑っていられる人が、私も大好きですし、自分もそうなりたいです。
さて、初めにお断りしなければならないのは、恋愛は男子校出身の私にとっても苦手ジャンルで、社内恋愛の事例についても詳しくないことです。ましてや、私がお勤めをしていた30年前には、ハラスメント問題などありませんでしたので、あくまでも想像でお話をすることをお許しください。
しかし、そんな私も、新大学で教員になる前(今から2年前)には、eラーニングでハラスメント研修(アカハラとセクハラ対応)を受けました。昔ならあたりまえのことが許されない時代になったことを、あらためて再認識しました。正直言えば、これは大変なことだとビビりました。
しかし、真の問題は別のところにありました。この1年半で、学生のみなさんが、教員に求めているものと、私が教えたいと思っていることの間には、大きなギャップがあることに気づいたのです。ですから、少しずつ、アンケートや対話を通じて、学生ニーズに寄り添えるようにチューニングをしている最中です。
たとえハラスメント防止ルール通りに教えていても、相手の気持ちに寄り添っていなければ、ハラスメント以上に深刻な心のわだかまりができると悟ったのです。
つまり、ハラスメントというと、イマドキの新しい問題に見え、厳しいルールばかりに目が行きがちですが、実は、昔からある悩み、価値観が違う人とのコミュニケーションの問題が根本にあると思うのです。
恋愛で言うなら、男性と女性(あるいはLGBTQ)という決定的な違いに加え、生まれた年代、育った環境、好きなモノ・コト・ヒトが異なる人同士 が、どうすれば会話が弾み、一緒に行動したくなり、さらには共に生きようと思うかを、互いに気遣うことこそ、真の問題なのです。
もしも、お互いにこうした共感のベースがあれば、どこかに行こうと誘われても、それはハラスメントどころか喜びでしょう。逆に気持ちが通じていなければ、ただ声をかけられただけでハラスメントだと感じられてしまうかもしれません。
それでは、どうやって心を通じ合わせるか、具体的な方法を考えてみましょう。
1.和顔愛語の精神で、あいさつや日常会話
私が大好きな仏教用語で、著書でもよく引用する言葉が「和顔愛語(わげんあいご)」です。それは、ことばの通り、いつもニコニコ笑顔を浮かべ、やさしい言葉をかけること。「和顔愛語」こそ、誰もがお金がなくてもできる尊いお布施「無財の七施」のひとつだと言うのです。
ところが、これが簡単そうで難しいのです。そこで、大学の授業では、毎回違う席に座ってもらいながら、お隣の人と笑顔を浮かべながら15秒間無言で見つめあうワークをしています。最初は照れてしまって目が泳いだり、体がくねくねしてしまいますが、だんだん自然体で微笑みあえるようになるから不思議です。
いきなり誰かにやってもらうのは大変ですから、毎朝、鏡に向かって笑ってみるのもいいですね。
そして、会社に行ったら、彼女はもちろんのこと、上司や同僚たちに「和顔愛語」の精神で笑顔のあいさつをしてみましょう。
いきなり、会社ではハードルが高ければ、通勤途中のおまわりさんや駅員さんから始めるのもOKです。照れくさいのは最初だけです。「和顔愛語」には慣れと習慣化が大切で、繰り返せば繰り返すほど、自然に笑顔を浮かべられるようになるのです。
明るくて笑顔が素敵な彼女は、きっとそんなあなたの笑顔のあいさつを見逃さないはず。社用で話す時も、雑談する時も、彼女や同僚に「和顔愛語」で接してみましょう。
2.仕事も楽し気にがんばってみる
一見、恋愛と関係なく思われるかもしれませんが、仕事に懸命に、そして楽し気に打ち込む姿は、男女問わず魅力的に見えるものです。
もしも、その後輩女性が、卒業したてであれば、これまで学生時代に見てきた同世代のチャラチャラした男子学生に比べて、仕事ができるオトナの男性は魅力的に見えるでしょう。
ましてや、30歳前後で、そろそろ結婚を考えている女性だとしたら、これからつきあう人は、自分を支えてくれそうな頼もしい男性を選ぶでしょう。
もちろん、会社や上司に対する愚痴も封印いたしましょう。おそらく、明るく笑顔が素敵な彼女は、人の悪口も、悪口を言う人も嫌いなはず。
辛いことが山ほどあっても「和顔愛語」の姿勢で仕事に取り組むご自身の背中を、彼女に見つけてもらいましょう。
3.美味しいお店を見つけて、みんなでランチ
年齢性別問わず、簡単に仲良くなる方法のひとつは、一緒に美味しいご飯を食べて談笑することです。
「和顔愛語」のあいさつと、楽しい仕事ぶりで、少しずつ彼女とも打ち解けてきたら、男女数名での楽しいごほうびランチを企画してみましょう。
そのためには、まず、美味しくて会話も弾みそうなおしゃれなお店を探すところから始めましょう。
見つけて試して美味しかったら、ランチの後、「こんなおいしいお店が見つかったよ。今度みんなで行こう」と楽しそうに話してみんなを誘うのです。いわゆるグループ交際から始めるのですね。
私が会社勤めの時に驚いたのは、多くの人がいつもいく店にルーティンのように通うだけなことでした。特に男性は…。
新しいお店をひとりで探す「知的好奇心」と、みんなを誘う「行動力」は、ある意味イマドキの「女子力」とも通じて、親近感が増すことでしょう。
4.とにかく話を「聴く力」が「話す力」より大切
そんなグループランチの場や、日常の雑談でも、話すより聴くことが大切です。
多くの男性が、女性の前で「何かを話そう」として緊張し、自爆?しがちです。
しかし、多くの女性は「何それ自慢?」という男性の話を聴かされるより、自分の話をただただ聴いてほしいと願っているそうです。
私は、かれこれ20年近くも、性別、年齢、業種の異なる仲良し経営者数名と悩みをシェアする勉強会に、毎月参加しています。そこで話題になり、まったくその通りだと女性メンバーも太鼓判を捺したのが「ベストパートナーになるために」という本です。
● 『ベスト・パートナーになるために───男と女が知っておくべき「分かち愛」のルール 男は火星から、女は金星からやってきた』
要点をお伝えすると、男は火星人で、女は金星人というぐらい違う生き物であり、男性は理屈っぽく解決策やアドバイスを話したがるが、女性はただただ話を聴いて受け入れて欲しいということです。
明るく笑う彼女にとって、今までで一番私の話を真剣に聴いてくれた人、気が付けば自分のことを一番話してしまう人を目指しましょう。
5.彼女の好きなことを一緒に楽しんでみましょう
そこまで話が聴けたら、彼女が好きなモノ・コト・ヒトがわかってくるはずです。その中で、一緒に試しやすいこと、自分も興味があることを選んで「一緒に楽しみたいけれど、教えて」とお願いしてみましょう。
多くの男性は、自分が好きなことを相手に押し付けるかたちで誘いがちです(まさに私がそのタイプで、今書きながら反省しています)。
しかし、やるべきことはその真逆です。彼女が好きなものごとを自分も楽しませていただくという姿勢が大切なのです。彼女が好きなものごとを、一緒に楽しめれば、もっと彼女のことを知って好きになれますし、彼女も同じ時空を共有したい大切なパートナーだと実感してくれることでしょう。
まれに、私のもとに、これから結婚をする社員や後輩たちが夫婦で訪ねてくることがあります。そんな二人に贈るささやかなアドバイスは「結婚はホームステイ感覚で」ということです。つまり同じ日本人であっても、結婚すると海外留学をしているぐらい異文化体験を味わうということです。
それを辛い、イヤだと考えるか、新しい体験ができて面白い楽しいと感じるかはあなた次第。
もしも、あなたが彼女のスキをスキになって一緒に楽しめたなら、やがて彼女もあなたのスキをスキになってくれる でしょう。
かなり地道な努力ばかりと思われるかもしれませんが、ひとつひとつは決して難しいことではありません。
ひょっとしたら、彼女のことをよく知るうちに、あれちょっとイメージが違ったということもあるかもしれません。それでも、一緒に時間を過ごして、楽しいと感じたなら、きっと、その人はあなたのベストパートナーです。
ぜひ良いご縁に発展されますことを!
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