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なぜ小川淳也は立憲代表になれなかったか。“排除”に動いた「黒幕」の名前

4名の候補者による代表戦を制し、立憲民主党の新たな顔となった泉健太氏。選出後の挨拶で自らを「船長」と例えた新代表ですが、しかしその船出は前途多難であることに間違いはないようです。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、社会全体に「野党嫌い」の風潮が深く根を張っている事実を指摘するとともに、このような状況を招いた原因を考察。その上で、立憲民主党に今後もっとも求められる重要な要素を提示しています。

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立憲新代表は野党嫌いの社会風潮に対処できるか

迫力がない、政策の違いが判らない、盛り上がらないとメディアに散々こきおろされた立憲民主党の代表選は、泉健太氏を新代表に選出して幕を下ろした。

「地盤がなくても、資産がなくても、学歴がなくても、思いと正義感、世の中を変えたいという思いがあれば、この立憲民主党に集ってもらい、ともに世の中を変えることができる」

ハリのある明瞭な声。よどみない泉氏の語り口。政調会長をつとめ、党務の実績もある。無難な選択といえるのだろう。若いのに堂々としていて、見た目、これといった欠点は見つからない。

しかし、泉氏が代表になったからといって、たやすく立憲民主党に新風が吹き込まれるとは、とうてい思えない。

代表選をめぐり、この党に残る古色蒼然とした体質が露呈した。

枝野前代表をはじめ党内最多の27人が所属するグループ「サンクチュアリ」は旧社会党出身の赤松広隆氏が、いわば“創設者”であり、引退した今も影響力を保っているといわれる。

枝野氏が代表辞任を表明した直後、メディアの質問に答えるかたちで代表選出馬の意思をいち早く明らかにしたのは、サンクチュアリのメンバー、小川淳也氏だった。

当然、小川氏はこのグループから20人の推薦人を得るべく奔走したが、ほとんど誰からも色よい返事はもらえない。その背後で、赤松氏が小川排除に動いていたのである。

そんなわけで、サンクチュアリは枝野体制を支えてきた逢坂誠二氏を擁立することになった。

ほかに、菅直人元首相のグループ「国のかたち研究会」(16人)は西村智奈美氏を推し、旧国民民主党の議員による「新政権研究会」(22人)や小沢一郎グループが泉氏を擁立した。

小川氏は大島新監督のドキュメンタリー映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』のおかげで一定の知名度を有するが、党内人気はいまひとつだった。とりわけベテラン議員には受けがよくない。希望の党への合流で民進党が分裂したさい、民進党代表だった前原誠司氏(現・国民民主党代表代行)の最側近だったことも影響しているのだろう。

推薦人20人に遠く手の届かない小川氏は出馬を一度はあきらめかけた。その窮地を救ったのは蓮舫代表代行だ。大串博志氏の推薦人集めをしていた手塚仁雄議員に電話して、こう言ったという。

「小川さんが代表選に出られないのは立憲民主党にとってまずいよ。実直で熱意を持った議員が認められないという悪いメッセージになる」(11月22日デイリー新潮)

これをきっかけに、大串氏の陣営が小川氏を担いで一本化することを決めたため、小川氏はかろうじて出馬することができたが、大串支持の野田元首相、岡田克也氏あたりは、当初、小川氏への乗り換えを渋っていたようだ。

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立憲民主党には、自民党のように強固な派閥は存在しないといわれるが、旧社会、旧民社、旧新生、旧日本新党といった出自や、野党が離合集散を繰り返すなかで生まれた恩讐などが複雑にからんで、党内にいくつもの垣根をつくっている。

世間の注目を浴びる小川氏は、これまで党の主要ポストに就いていなかったこともあり、経歴や貢献度を重視する重鎮たちの目には、映画の効果によるカラ人気とでも映ったのであろう。

それでも小川氏には中堅・若手を中心に支持が広がり、第1回目投票で、72の国会議員票を獲得し、逢坂氏、西村氏を上まわった。敗れたとはいえ、今後に期待を抱かせる結果だ。

正直言って、泉氏は国会論戦で小川氏のように目立っていたわけではなく、筆者には馴染みが薄い。これからどのような政治力を発揮してくれるのか、見当がつかない。

だが、誰が代表であるにせよ、前途は多難であろう。野党は反対してばかりで、国民のために何もしていないという偏見が、10年近いアベ・スガ政治の間に、深く根をはってしまっている。

しかも、その偏見は、政権側の野党攻撃プロパガンダによるものというより、社会の変質といったところに関わっているから厄介だ。

インターネットの国会中継をじっくり時間かけて見てほしい。できれば、予算委員会だけでなく、他の委員会もチェックしてもらいたい。意外に政策論議、政策提案がしっかり行われているのに気づくはずだ。ちなみに、立憲民主党が議員提出した法案は今年の通常国会だけでも46法案にのぼっている。

にもかかわらず、テレビの視聴者の目には、首相や閣僚たちを居丈高に追及する野党議員の姿ばかりが印象づけられる。

メディアに取り上げられたい議員と、議員の発言を利用して原稿をまとめたい記者。双方の利害が一致して、そんなシーンが絶えず繰り返される。その結果、野党議員はいつも目を吊り上げて怒っていて、やたら攻撃的な人種として毛嫌いされ、挙句の果てに若者からは「コミュ障」と非難されるのだ。

「コミュ障」。もちろん、コミュニケーション障害を略した言葉である。本来、他人との意思疎通が上手にできない人のことを指すが、なぜ、野党の振る舞いに、そんなレッテルがはられるのか。

それは、コミュニケーションを過度に重んじるこの社会の風潮と無関係ではないだろう。

この国は人に優しい社会をつくってきた。親は子を滅多なことでは叱らない。教師や上司はパワハラ、モラハラと言われるのを恐れて黙り込む。心地よい人間関係がふつうになった。その心地よさを破る人は「コミュ障」なのである。

この文脈でのコミュニケーション能力、すなわち「コミュ力」は、与党的であれば高く、野党的であれば低いということになる。

つまり、今の社会では、構造的に野党は不利な立場におかれているのである。そのことを自覚したうえで、党のイメージ発信をしていかなければ、泉代表もこれまでと同じ泥沼でもがくことになるだろう。

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かつて、野党精神は社会になくてはならぬものだった。その根底にあるのは、物の考え方、視点、価値観は多様であるということだ。

人の想像力、判断力には限界がある。野党が与党案に対し批判したり疑問を示すことによって、人々の想像力が喚起され、広い視野から政策や政治姿勢の妥当性を判断することができる。

しかし、その考えは今や通用しないようだ。モリ・カケ・サクラ疑惑などで国民はウンザリしているのに、「野党」への支持は一向に広がっていかない。逆に、疑惑を追及すればするほど、野党嫌いが加速する。野党がだらしないから自民党の支持率が落ちないとよく言われるが、むしろ与党に対峙しようとする野党のがんばりが裏目に出ているのだ。

来夏の参院選をひかえ、新代表の前には難問が山積している。共産党との共闘、国民民主党、連合との関係をどうするか、地方組織の整備をいかに進めるか。よほど強力なリーダーシップがなければ解決できない課題ばかりだ。いま一つ押しが足りないともいわれる泉代表が、たくましく変身できるかどうかがカギとなるのは言うまでもない。

しかし、もっと大切なのは、「コミュ力」重視の社会に適応するための知恵を出すことであろう。古い野党のイメージを引きずっていては、不利な状況は変わらない。

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image by: 泉ケンタ - Home | Facebook

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