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中国を巻き込め。北朝鮮が「最終手段」の核を使えぬよう日本が取るべき“行動”

年明け早々の1月5日を皮切りに、2022年に入り立て続けに4回ものミサイル発射実験を行った北朝鮮。北東アジアのみならず世界の安全保障を揺るがすこの状況と、国際社会はどう向き合うべきなのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では著者で元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、このような事態に陥ってしまった原因を解説するとともに、北朝鮮への対応について考えうる具体案を提示。さらに北朝鮮に核兵器を使わせないために「中国を巻き込む」というシナリオを挙げ、その実現可能性を検証しています。

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世界の無関心が招いた北朝鮮の伸長

今年に入って2週間ほどの間にすでに4回の弾道ミサイルを発射した北朝鮮。昨年も軌道が変則的な新型ミサイルを数度にわたり発射し、国際社会を驚かせました。特に軌道が変則的なものは、まだ完成には至っていないと思われますが、恐らく極超音速ミサイル開発が進められていることを意味します。

極超音速ミサイルと言えば、中ロが技術的に先頭を走り、そこにアメリカが加わるぐらいの、まだまだ新しい技術と思われますが、そこに北朝鮮がそう遠くないうちに加えられることになれば、北朝鮮をめぐる北東アジア地域、および太平洋地域の安全保障環境はがらりと変わることになります。

そして、そこに現在40発から65発保有するとされる核弾頭が搭載できるようなレベルにまで達した場合(ストックホルム国際平和研究所、米国防情報局など)、高まるミサイル能力と合わせ、アメリカ本土にも近いうちに確実な核兵器の脅威が訪れる事態になります。

世界がコロナ禍に苛まれている間に、同じくコロナに苦しめられ、経済は破綻状態にあり、そして国民の福祉を犠牲にしながら、北朝鮮は国際安全保障上の脅威に再浮上しました。

どうしてこのような事態になったのでしょうか?

最大の理由は、【国際社会の無関心と中途半端な対応】にあります。

北朝鮮の核開発の兆候は金日成時代から出ており、すでに核保有国となっていたソ連と中国から止められたにもかかわらず、パキスタンやイランなどと協力して(もちろん、背後には中ソの影があるのですが)核開発を始めます。

その後、核開発を継続しつつ、外交的にはNPTに参加したかと思えば離脱し、IAEAの査察も支援の見返りとして受け入れては、急に追放したりと、核開発は確実に北朝鮮にとっての瀬戸際外交の有力なカードになっています。

話は反れますが、日本が長年訴え続けている拉致被害者問題になかなか国際社会の目が向き、本格的な圧力にならないのも、核開発および核兵器の存在が邪魔しているという見方もできます(拉致被害者問題については、北朝鮮的には解決できない別の理由もあるのですが)。

食糧難や経済的破綻状況の窮状を訴えては、支援と引き換えに“どうでもいい”(すでに使用していない)核施設を破壊するパフォーマンスで時間を稼ぎ、目をそらさせるという戦略を繰り返してきており、アメリカなどもそれを重々承知しているはずですが、これまで効果的な対応はできていません。

クリントン政権下やトランプ政権時にも、北朝鮮への攻撃論は議論されましたが、実際に攻撃にまで至らなかったのは、【北朝鮮の核・ミサイル技術の予想外の進捗と、暴発的に使用する可能性】、【“同盟国”韓国を巻き込めない事情】、【中国とロシアからのプレッシャー】といった理由が考えられます。

それに加えて、ジョージ・W・ブッシュ政権下でスタートしたGlobal War on Terror以降、米軍の海外派兵および駐留が多角化し、死傷者も多数出ていることから、米国内で海外派兵へのアレルギー反応もあり、これまでは「特にアメリカに直接的な安全保障上の危機がないのであれば、手を出すべきではない」という圧力もかかったことも大きいかと考えます。

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そしてコロナのパンデミックは各国の目を内向きにさせ、欧米で高まる中国脅威論とロシアとの対峙というトレンドは、たまたまおとなしくしていた北朝鮮に対するマークのレベルを下げることになりました。

その典型例が、2021年の国連年次総会時に出されたGlobal Concernsのリストに北朝鮮問題がなく、特段、北朝鮮問題を話し合うためのad hoc委員会も開かれなかったことでしょう。実際には、ミサイル実験を行うことで、会期中に目を覚まさせることになってしまったのですが、それでもトッププライオリティではなかったように思います。

中国との微妙な距離感は常に存在しますが、北朝鮮は中国(とロシア)を後ろ盾にして、アメリカからの攻撃を阻み、外交舞台でも上手に中ロを盾にして、決定的な制裁内容を阻止し、中国やロシア、そして“同胞”韓国による安保理決議違反ともとれる“支援”を通じて、国民の窮状とは反対に、軍拡が再加速することになったようです。

その結果、気づいたときにはすでに北朝鮮は直接的に叩けない脅威になってしまいました。

従来型の近距離ミサイルのスカッドERは韓国への攻撃、ノドンは日本全土をカバーし、そして中長距離弾道ミサイルの火星シリーズはほぼ全世界を射程に収めるまでに至りました。そこに最近、極超音速ミサイルの開発途上と見られるミサイルが加わり、おまけに潜水艦からの発射(SLBM)や列車からの弾道ミサイルの発射といった“発射媒体の多角化”まで加わりました。そして、日本の防衛省や米ペンタゴンの分析では、まだ小型化が必要とはいえ、すでに核弾頭を弾道ミサイルに搭載できるレベルにまで来ているということですから、北東アジアをめぐる安全保障体制を再考する必要性に直面していると言えるでしょう。

ゆえに、北朝鮮の核問題への対応は、これまでの「核兵器を持たせない」という方針から、「いかに核を使わせないか」にシフトする必要があります。

実際に北朝鮮が核を用いるのは最後の手段となるでしょうが、核兵器の存在を盾に、今後、周辺国に対する軍事的な行動を取りかねないとの懸念が浮かび上がってきます。もし、金正恩氏及び彼の後継者が「周辺国に軍事的な挑発を行っても、アメリカは自国本土への核攻撃を懸念して反撃できない」と過信した場合、日本が位置する北東アジアは混乱に陥ります。

そして核を搭載できる極超音速ミサイル技術がある程度確立されてしまうと、現時点の米・日・韓のもつミサイル迎撃システムでは対応できませんので、一気に安全保障環境は一変します。

では具体的に何ができるでしょうか?

日本の防衛力強化はもちろんですが、北東アジア地域をカバーする新しいミサイル防衛システムの早期開発と導入や、アメリカに“核による反撃を含め、即時に対抗する”ことを明言してもらうように働きかける、そして日本独自の反撃力を持つ(敵地攻撃能力)ということも要素として考えないといけないでしょう。

現在のバイデン政権の中途半端な外交姿勢に鑑みると、アメリカによる対北朝鮮反撃の明言(核含む)は難しいでしょうし、恐らく言ったとしても、北朝鮮も、そしてその後ろ盾の中国・ロシアも本気にしないと思われます。

極超音速ミサイルに対抗できるミサイル防衛システムの構築は、アメリカも抱える大きな課題と言われていますが、可能であれば、日本もその開発に積極的にかかわる姿勢を打ち出すのは有効だと思います。

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問題は、アメリカがそれを受け入れるか、日本国内の世論は大丈夫か、そして実用化までの期間をどれだけ短縮できるか、でしょう。

一つ目については、菅前総理の時代にバイデン大統領から日本独自の防衛力強化を依頼されていることもあるので、その一環という打ち出し方が出来れば、共同開発の道は開かれると思われます。

二つ目については、先のイージスアショアをめぐる議論と経緯を見た際に、不安が残りますが、これは政治がどこまでの覚悟を決めて取り掛かれるのかにかかっているともいえます。

三つ目については、専門家ではないのでわかりませんが、北朝鮮が極超音速ミサイル技術を確立するまでには実戦配備できないといけないでしょう。一抹の不安が残ります。

そして、「使わせない」ために有効だと思われるのは、中国を巻き込むシナリオです。北朝鮮の後ろ盾として、国際社会における激しい非難や孤立を支えてきた経緯がありますので(実際には中国・北朝鮮とも相互に信頼はしていないようですが)、中国(とロシア)に北朝鮮を制御してもらうというものです。

中国にとっても北朝鮮の核弾頭の存在は脅威に移っていますし、数々のミサイルが中国全土を射程内に収めていることも脅威と認識されていますので、北朝鮮が暴発しないように制御するインセンティブはあると考えます。

ただし、米中対立が激化する中、習近平国家主席の中国は、北朝鮮をアメリカと対抗する際のアジアにおける最前線基地という見方をしているのも事実ですので、そう簡単には動かないとも思われます。

以前、北京の情報筋と話していた際、「北朝鮮は予測不可能であり、中国にとっても脅威だと認識するが、中国は北朝鮮の生命線をしっかりと握っており、生存のためには金一族は中国に背を向けることは不可能だ。中国が北朝鮮を見限るとき、それは北朝鮮の存在の終わりを意味することになるだろう」と言っていたのですが、その認識が広く共有されているとしたら、中国を動かすことに外交的な努力をするのも大きな一手かと思われます。

ただ、米中対立が激化する中、中国を動かして、みすみす大きな対米のための駒を弱体化させることは考えづらいですが。

ただ、先ほど触れた“極超音速ミサイル技術が確立し、かつ核弾頭を搭載できる”ようになった場合、これまで守ってくれた中国に対する北朝鮮の態度がこのまま従属的かどうかは不透明です。

以前、北朝鮮問題を話し合うストックホルム会議の場で聞かされた内容ですが、北朝鮮にとって中国は100%信用している相手ではなく、かつての金日成時代のように、いつ突然裏切ってくるかわからない相手と見なしているようです。

そして、従属関係を良しとしておらず、機会があれば中国に刃を向けることになるかもしれません。

そのことは中国もよくわかっているはずですから、北朝鮮が誰からも相手にされない中、北朝鮮の食糧と燃料などの生命線を握っているのだと考えられます。そして、中国でビジネスをしたり、中国と交渉をしたりしたことがおありになる方はよくご存知かと思いますが、受けた恩を仇で返すような振る舞いは、完全にアウトですから、その場合は中国が北朝鮮の体制転換を行い、実質的に北朝鮮を崩壊させるのかもしれません。これはあくまでも推測ですが。

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そんな中、北朝鮮が核実験とICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射実験を行う可能性があるとの情報が入ってきました。双方ともに明白な国連安保理決議違反になり、少なくともアメリカ政府のレッドラインを超えることとなります。バイデン政権がどこまで厳格な対応を、迅速に取ることが出来るかに、その後の情勢はかかっていると思われますが、同時に核実験とICBMの発射は、北朝鮮の後ろ盾である中国とロシアにとっても許容できないものとされているため、金正恩氏が国内向けのアピールばかりに気を取られて、国際社会の“我慢の限界”のサインを読み違えないことを切に祈ります。

国際社会は交渉と制裁を繰り返して、北朝鮮の核問題と向き合ってきましたが、残念ながら北朝鮮の核保有を止めることはできませんでした。それには、北朝鮮包囲網の不完全さという点もありますが、中国とロシアの外交的なコマとして北朝鮮を存在させていることと、何度も軍事オプションの可能性を匂わせながらも実行に移せないアメリカ政府の現実があります。

起こったことと言えば、北朝鮮人民の窮状が悪化していることと、北朝鮮を核保有国にしてしまったという事実です。

オバマ政権、そしてバイデン政権も“戦略的忍耐”といった理解不能な外交戦略を選択して北朝鮮を後押ししていますし、トランプ氏もdealmakingという自己主張の機会に囚われて、結局、北朝鮮の餌食になりました。

すでにアメリカ政府が行う脅しをまともに取る状況はなくなったと言えます。

そのような中、いかなる偶発的な衝突や暴発も、瞬時に直接的な悪影響につながってしまう日本が選ぶべき選択肢にはどのようなものが現実的に存在するでしょうか?

拉致問題を抱え、そして北朝鮮が核保有国となり、かつミサイル攻撃能力が格段に上がっている今、日本が選べるチョイスはさほど多くないでしょうし、時間もあまり残されていないような気がします。

皆さんはどうお考えになりますか?

(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2022年1月21日号より一部抜粋。この続きをお読みになりたい方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: 朝鮮労働党機関紙『労働新聞』公式サイト

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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