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ドラゴン桜の指南役が警告、望まない中学受験が子供の一生を潰す

首都圏では実に5人に1人が中学受験に臨むと言われていますが、そのマイナス面を把握しておくことも親の責務と言えそうです。今回の無料メルマガ『親力で決まる子供の将来』では漫画『ドラゴン桜』の指南役として知られ、23年間の公立小学校勤務の経験を持つ親野智可等さんが、具体例を上げつつ中学受験に潜む危険性を指摘。さらに中高一貫校の「ある避けがたいリスク」についても、自身の経験を交えながら紹介しています。

過熱する中学受験のリスク

首都圏を中心に異常とも思える中学受験ブームが起きている。なかには中学受験しないと子どもが「負け組」になると思い込んでいる親も多い。負け組、勝ち組というのも嫌らしい言葉だが、いったいなぜ私立中学に入らないだけで負け組と言われる状況になっているのだろうか。

一つには公立中学が世間からバッシングを受けている事実がある。もちろん、批判するべき点は批判しなければならないが、教育予算や人員の増加などの具体的な支援がないまま、ただバッシングするだけでは問題は解決しない。

もう一つは、受験産業のプロパガンダだ。塾を筆頭に、受験産業にかかわる人たちが陰に陽に公立中学を批判する。彼らは私立中学への受験者が減ると商売に影響が出るので、極力、多くの人を中学受験に誘導したい。

入塾説明会やパンフなどでは、直接的に公立中学の批判はしないが、私立中学や中高一貫教育のよさを強調し、相対的に公立中学をおとしめている。

明らかにこれは受験産業のプロパガンダなのだが、意外と気づいていない人が多い。

誰が中学受験をあおっているか

受験を目指す多くの親が「小学校4年生から受験勉強を始めないと遅い」と言う。しかし、どこからそんな話が出たか考えてみたことはあるだろうか。言うまでもなく、これも受験産業のプロパガンダなのだ。

それは私立中学校が言っているわけではない。なぜなら、彼らは入学試験の成績のいい子を上から採っていくだけでいいので、何年生から受験勉強を始めよう関係ないからだ。

だが、受験産業にとってはそうはいかない。彼らは子どもたちにできるだけ早くから受験勉強を始めてもらわないと困る。困るというよりも、それは彼らにとって死活問題なのだ。

少子化による経営危機の到来を何年も前に見越して、「子どもが減るなら同じ子どもたちに何年も通ってもらえばいい」ということで、長期的な戦略の下にプロパガンダを繰り返してきたのだ。

既に、「4年生でも遅い」と言っている人もいる。毎年、毎年、それはエスカレートするばかりだ。おそらく、数年のうちに2年生になり、やがては1年生になるかもしれない。その方が受験産業にメリットがあるからだ。

しかし、お母さんやお父さんたちにはちょっと立ち止まって考えてみてほしい。誰が受験競争をあおっているのか、あおった結果、誰が得をするのか、ということを。

遊びたい盛りの子どもたちに受験勉強を強いるリスクもあるということを分かってほしい。

偏差値が50しかないのに60の学校に行かせたいと思っても、そう簡単に実力は上がらない。すると、親は焦ってくる。

子どもは遊びたいし、学校の勉強もある。塾の勉強と板挟みになり、葛藤が出てくる。親の思い通りにはなかなかやらないし、成績も上がらない。親は次第に煮詰まり、子をしかり、怒鳴り、場合によっては手を上げる。

なかには、「うちの子は何も言わないのに自主的に取り組んでいます」と言う親もいるが、子どもは知らず識らずのうちに親の願いを自分の願いに変えていくものだ。本当は受験も勉強も辛いのに、親が喜ぶ姿を見たいために自分の心を偽り、ストレスがたまってくる。本心から受験したいと思っている子はそう多くはないだろう。

受験を機に親子関係の崩壊が進む

わたしのところにも受験する子を抱えた親から相談が寄せられる。その多くは、「毎日勉強する約束をしたのに守らない」とか「言うことを聞かず、頭にきてたたいてしまった」などだ。

偏差値は親が望むようにそう簡単には上がらない。親が焦って子どもをしかりつければ、子どもは自信を失い、ストレスをため、親子関係に亀裂が入ってしまう。

実際、受験を機に、親子関係の崩壊が進む傾向がある。ストレスをため込んだ子どもは弟や妹、ペットをいじめたり、学校でもトラブルを起こしたりするようになりやすい。

本来、小学校時代は学習の基礎をつくるとともに、親子関係の土台を築くときだ。受験、受験で最も重要な親子関係を忘れてしまうと不信の根が育ってしまう。

わたしは中学受験をすべて否定するつもりはないが、こうしたリスクがあることに無関心な親が多い。

もう一つのリスクは、不合格時の子どもの挫折感だ。受験で失敗した子が恥ずかしくて地元の公立中学校へ入学できなくなるケースもたくさんある。

そのため、あまり望まなかった第5志望の私立中学などへ進学したり、学区を変えて公立中学に行ったりする子もいる。

その挫折感をずっと引きずり、「本当はこんな学校に来たくなかったのに」と、中学時代の3年間を悶々(もんもん)と過ごす子もいる。

なんとかギリギリで志望校に合格したとしても、余力がないと後が大変だ。もともと同じレベルの子たちが集まっているので、ほんのちょっとつまずいただけで、たちまち最後尾ということになりかねない。

すると、学校側から塾に通ってくれとか、家庭教師をつけてくれとか要請され、受験勉強中に勝るとも劣らない勉強漬けの日々が繰り返される。それでもついていけず、場合によっては不登校や転校という結果になることもある。

塾の先生たちは、自分の教え子がどの程度の実力があるか一番よく分かっている。「この子はこの学校に入ってもついていくのが難しい」ということも分かっているのだ。

だから、「この学校には、もしかしたら受かるかも知れませんが、入ってからが大変ですよ」と一言、子どもや親に伝えてやるべきだと思う。

わたしは、ある受験掲示板に「塾の先生がそう言ってくれたので、志望校を変えた」という親のコメントが載っているのを見たこともある。こういう塾の先生もなかにはいるようだ。だが、このような良心的な例は極めてまれだろう。

無理やりでも偏差値の高い学校に入れた方が自分や塾の実績になるのだろう。だが、いやしくも子どもの教育に携わる立場ならば、入学後の子どものことにも配慮して欲しい。

キャラを変える機会を失う中高一貫

最近は中高一貫校もブームになっているが、いい点ばかり強調されていて、そのリスクはまったく取り上げられていない。だが、中高一貫校にはある避けがたいリスクがあるのだ。

それは、中高一貫校の本質にかかわるリスクだが、なかなか大人には分かりにくい性質のものだ。というのも、統計的な数字になって表れることもないし、目に見える形で表に出てこない性質のものだからだ。

具体例を一つ挙げる。

わたしの知っているある子は、小学校のときとてもおとなしく消極的で、名前を呼ばれても返事ができないほどだった。先生に名前を呼ばれると固まってしまってしばらく動かなくなるので、先生はうっかり名前も呼べないというほどだった。

その子は、小中学校でずっとそういう状況だったが、高校で大変身し、積極的になって、3年生の時に生徒会長になったというのである。

話を聞くと、その子は、小学校・中学校時代、ずっと自分で「キャラ(性格)を変えたい」と思っていたが、周囲は同じ友だちが多く、周りの目が気になって変えることができなかったという。

ところが高校に入ると、顔見知りの友だちはほとんどおらず、一念発起して性格を変えたのだという。その子は、「同じ中学からその高校に進学した子が2人しかいなかったおかげで、周りの目を気にしないで新しいキャラに生まれ変われた」と言っていた。

中高という思春期の6年間は大人の6年間に比べて、2倍も3倍も価値があり、さまざまな可能性を秘めているのだ。

人は簡単に人にレッテルを張り、イメージをつくってしまうものだ。中高一貫校だと、中学1年生の1学期に決まったイメージやキャラがそのまま6年間続く恐れがある。その子がいくら新しい自分になりたいと思っても、周りの期待するイメージを打ち破ることは難しい。

6年間メンバーが替わらないということは、6年間同じ人間関係が続くということだ。それは、一度出来た力関係や上下関係も変わらないということなのだ。

もし、弱いキャラ、いじめられるキャラに決めつけられたら、それがそのまま固定化されて6年間続くという可能性が強い。いじめの構造が6年間続くということだ。

しかも、この時期のいじめは、小学生のそれとは比べものにならないくらい巧妙だ。親や教師が目を皿のようにして見ていても見抜けない部分は絶対にある。

いじめられている子自身も、そのことを親や教師に知られたくないと考えることが多い。だから、中高一貫校では、誰にも知られないところで6年間いじめられ続ける子が出てくる可能性が非常に高い。

中高一貫校に進む子が必ずそうなると言っているのではない。そうしたリスクがあることを親も塾の教師も分かっていてほしいと思う。

初出「親力養成講座」日経BP  2008年6月27日

image by: Shutterstock.com

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5年連続でメルマガ大賞の「教育・研究」部門賞を受賞!家庭教育メルマガの最高峰。教師生活23年の現場経験を生かし、効果抜群の勉強法、子育て、しつけ、家庭教育について具体的に提案。効果のある楽勉グッズもたくさん紹介。「『親力』で決まる!」(宝島社)シリーズは30万部のベストセラー。

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【著者】 親野智可等 【発行周期】 不定期

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