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認知症になった親族の口座は、子供でも引き出せないという現実

2025年には有病者数が約700万人と試算されるなど、もはや誰にとっても特別なものではなくなった認知症ですが、事前準備が後々の「面倒事」を遠ざけてくれるようです。今回、認知症発症後の資産を守る方法をレクチャーしてくださるのは、ファイナンシャルプランナーで『60歳貯蓄ゼロでも間に合う老後資金のつくり方』などの著書でも知られ、NEO企画代表として数々のベストセラーを手掛ける長尾義弘さん。長尾さんは「成年後見制度」「金銭信託」「家族信託」の3つについて詳しく紹介しています。

プロフィール:長尾 義弘(ながお・よしひろ)
ファイナンシャルプランナー、AFP、日本年金学会会員。徳島県生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。1997年にNEO企画を設立。出版プロデューサーとして数々のベストセラーを生み出す。新聞・雑誌・Webなどで「お金」をテーマに幅広く執筆。著書に『コワ~い保険の話』(宝島社)、『最新版 保険はこの5つから選びなさい』『老後資金は貯めるな!』『定年の教科書』(河出書房新社)、『60歳貯蓄ゼロでも間に合う老後資金のつくり方』(徳間書店)。共著に『金持ち定年、貧乏定年』(実務教育出版)。監修には年度版シリーズ『よい保険・悪い保険』など多数。

せっかく貯めた「老後資金」が凍結されて使えない!

以前こんな話を聞いたことがあります。その人の父親は、とても用意周到な人で、老後の生活費に困らないように、それなりの「老後資金」をしっかりと貯めていました。しかも、自分がもし認知症や介護が必要になった時に備え、自分が入る有料老人ホームの施設を見学までしていたそうです。

ところが、父親が認知症になって、有料老人ホームに入る手続きをしようとしたときです。息子さんが老人ホームに入るための頭金を、父親の預金口座から引き出そうとしたのですが、断られてしまいました。なぜかというと本人が認知症になっているので、本人確認ができないからでした。

なんと認知症になると、本人が貯めたお金を本人のために使えない!?という事態になってしまうのです。

でも、これは誰にでもあり得る話なのです。今回は、それらの解決方法を考えたいと思います。

本人のために使うお金は引き出せるかも?

金融機関では、本人の確認ができない場合、たとえ親族であってもお金は引き出せません。ですので、認知症になると銀行口座は凍結されるのです。

いまや、高齢者の5人に1人は認知症を発症すると言われていますので、これは大きな問題になっていて、金融庁をはじめ、金融機関では高齢者の資産の管理・運用について少しずつ新たな取り組みをはじめています。

たとえば、全国銀行協会では、2021年3月に、預金者本人のための入院や介護施設のために使う場合には、引き出しが可能になるという方針を打ち出しました。

成年後見制度を使うのを基本としていますが、本人確認の書類と入院や介護施設などの請求書など、必要な書類を持って行けば、引き出しができるようになるという内容です。

ただ、すべての銀行が引き出し可能になるというわけではなく、まだ銀行の対応によって違いがあるということです。

認知症になっても株式の売買を代行できる

また、株式とか投資信託などの有価証券は、やはり本人でないと売買をすることができません。ですから本人が認知症になってしまうと、その資産は凍結になってしまいます。

そのため、認知症などから高齢者の金融資産を守る取り組みもはじめられています。大和証券では、認知症になったときでも代理人をすることで売買が可能になる「ダイワのファミリーサポート」というサービスを設けています。

これは、本人が認知症になったときでも資産運用ができるように前もって、子どもなどを「口座管理人」に指定しておくというものです。認知症によって判断力が低下したとき、両親に変わり残高・取引内容の確認、注文の発注、各種書類の代筆を行うことができます。

ただし、本人が認知症を発症する前に手続きをする必要があります。認知症を発症してからでは遅いのです。

ムリな保険営業から守る

さて、かんぽ生命での不適切な営業が問題になり、多くの高齢者が被害にあいました。

高齢者の生命保険の加入の際には、親族などの同席で行うことになっています。生命保険協会の「高齢者向け生命保険サービスに関するガイドライン」によると、2人以上の募集人によって商品内容を説明して、説明していない方の募集人は、高齢者の言動や態度を観察し、商品内容の理解度を確認するなどの対応が望ましいとあります。丁寧な対応が必要になると言うことです。

また、認知症になって保険の請求ができない場合も、契約者が代理人を指定しておけば指定代理請求できるようになっています。

認知症になっても財産を守る3つの方法

認知症になったときに財産をまもる方法には、代表的なものとして3つあります。「成年後見制度」「金銭信託」「家族信託」です。

成年後見制度

「成年後見制度」は、まだ判断力があるときに備える「任意後見制度」と、認知症が発症して判断力が不十分な場合の「法定後見制度」があります。任意後見制度は後見人を選んで、公正証書で任意後見人契約を結ぶもので、法定後見制度は家庭裁判所が後見人を選任します。

この成年後見制度は、財産の保全が目的なので、株式の売買や不動産の売買などはできません。融通の利かないとことや手続きが煩雑なところなどデメリットも多いです。

金銭信託

金融信託とは、個人や法人の財産を信託銀行などに運用管理を任せる金融商品です。信託とは、土地や金銭の管理運用を信頼できる人に託すことを意味します。

代表的な信託商品としては、「教育資金贈与信託」「遺言代用信託」などがあげられます。

また新しいサービスとして、「認知症」に対応した信託商品も登場しています。信託銀行に支払う報酬を確認しながら検討してみてはいかがでしょうか。

家族信託

信託銀行などが行う信託以外を「家族信託」と呼んでいます。また「民事信託」とも呼びます。民事信託は、資産の所有者(委託者)、資産を託される人(受託者)、託された資産から利益を得る人(受益者)の3者で契約を結ぶのが基本です。認知症になる前に契約書を作っておけば、発症後の財産管理、死後の財産管理もできるようになります。契約書の作成や手続きは、司法書士や弁護士などを通して行います。成年後見制度では難しい、柔軟な資産管理ができ、自分の希望を反映することができます。最近は家族信託を扱う人が多くなっていますが、できるだけ経験豊富な人を選ぶようにしましょう。

特殊詐欺の被害は年間300億円!

よくニュースなどでは「オレオレ詐欺」がニュースになることがあります。「オレオレ詐欺」「預金詐欺」などの特殊詐欺は2020年には約1万4,000件で、約300億円の被害がありました。

これも判断力の衰えた高齢者がターゲットになっています。高齢の両親には、こまめな連絡が必要になりますね。

認知症の対策についていくつか説明をしてきましたが、そのほとんどが、認知症になる前に手続きが必要なものです。ということは認知症を発症してからでは遅い!ということです。なかなか言い出しにくいテーマではありますが、日頃から両親とよく話し合っておくことをオススメします。

image by: Shutterstock.com

長尾 義弘

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