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「国際廃炉研究機構」解散報道に思う。フクイチ事故から日本は何を学んだのか

東京電力福島第一原発事故の後、廃炉研究の中核として結成された「国際廃炉研究機構(IRID)」の解散が検討されていると、毎日新聞が独自記事で伝えました。研究が見直されるとしても、廃炉作業は継続して進められるもので、そこには多くの作業員の方々がいます。メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』著者で健康社会学者の河合薫さんは、6年前に福島第一原発を訪れた際に出会った使命感を持って働く方々の姿を思い出し、事故から何も学ばず、なかったことにするかのような私たちも含めた私たちの国の政策との温度差に複雑な気持ちを綴っています。

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原発事故はなかったことに?

2016年3月15日。私は福島第一原発にいました。ラジオ局が定期的に原発内を取材していて、レギュラー出演している番組が私を取材陣に加えてくれたのです。敷地に足を踏み入れ即座に感じたのは、「ああ、ここが現場なんだな」というリアルさでした。

7千人ほどの人たちが、自分たちの仕事を黙々と、ただひたすら真面目にやり続ける現場で、さまざまな分野の技術者たちが、必死で目の前の作業に全力を注いでいました。廃炉に何年かかるとか、原子力村とか、社会の評価とか関係ない。荒れ狂った“シン・ゴジラ”が再び動き出さないよう、全身全霊で取り組む姿に、私は感動しました。

シン・ゴジラーー。はるか遠い昔のように感じるこの映画が公開されたのは2016年7月下旬。この映画を見た時、私の脳裏に蘇ったのが、フクイチの現場です。

“現場”には、世界で誰もやったことがない、技術に挑もうとする空気があった。そして、それこそが、“現場”で働く人たちの誇りでした。彼らは健康への不安を抱え、世間からのまなざしに耐え、罪の深さを十二分に感じ取りながらも、目の前の作業に徹していました。まるで、それが、“シン・ゴジラ”が再び息を吹き返さないための最善の策のように。彼らには、前向きに作業すること以外、自分を肯定することができなかった。少なくとも、私にはそう思えました。

今回、6年前の記憶をたどりながら書いているのは、「あの事故を、政府はなかったことにしようとしているのではないか」と疑ってしまうような記事を目にしたからです。

毎日新聞の取材で、オールジャパンの掛け声の下、東電、東芝、日立などで2013年に設立された「国際廃炉研究機構=IRID」が、2023年に解散する方向で検討されていることがわかりました。

IRIDの研究開発の大半は、経産省の廃炉、汚染水対策事業の補助金を受けており、これまでに760億円超の税金が投じられてきました。しかしながら、開発された技術の中には、現場では使えなかったり、成果をだせなかったり、滞る事業も多かったそうです。

さらに、当初、第一原発以外の廃炉にも活用できる技術開発を行うとされていたのに、実際には第一原発は「放射性物質に汚染されている」と特殊な前提があるので、東電以外で使うのは難しいとされているのです。

記事には、原発のコストに詳しい専門家の意見として、「汚染の原因を作った東電が負担すべき。このままでは何十年もの間、莫大な税金がつぎ込まれる」との指摘もありました。

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現在のフクイチは、ほとんどの構内で防護服は必要ありません。しかし、使用済燃料プールの中には燃料が残っていますし、原子炉内部の核燃料が溶け、さまざまな構造物と混じりながら冷えて固まった「燃料デブリ」も存在しています。また、「汚染水」についても、発生量の低減や外部環境への漏洩防止を実現しているものの、今後も対策を続けていく必要がある。

この現実を私たちは、どう受け止めればいいのか。いわずもがな、原子力発電は国が進めた事業であり、福島第一原発で作られた電気を使っていたのは、東京に住む「私」たちです。あの原発事故から11年も経つのに、原因とその責任に関する議論が尽くされているとは言い難い現実もあります。

6年前、私が見た現場は、実に活気に溢れていました。行き交う作業員の方たちが「こんにちわ!」「ご安全に」と、明るく挨拶していました。作業員の方たちに、「この仕事を辞めようと思ったことはないですか?」とうかがってみたとろこ、ほぼ全員が、「全くないです。一度もありません」と即答。

「この先もずっとここで働いていくのですか?」との問いに、「はい。事故前からずーっとここで働いています。この先もここで働きます」力強くこう答えました。

その一方で、原子炉周辺、特に3号機付近は放射線量が高く、爆発でぶっ飛んだ建屋の屋根や、津波で曲がった柱は、テレビに映し出される景色と比べられないほど壊滅的。事故当時、この現場にいた人たちの壮絶な戦いは、私の想像する何千倍、いや何万倍も厳しく、しんどいものだったことが容易に想像できました。

私は震災のあと何度か福島に足を運びました。原発で潤った町が、原発で壊れ、人がいなくなった村に、除染作業員たちがたくさんいました。村には至る所に、大きな黒や青色のビニール袋が積み上げられていて、それを見る度に、「人間ってなんて愚かなんだろう」と切なくなり、「人間ってなんて滑稽なんだろう」と悲しくなった。

私たちが、原発の事故から学んだことはなんだったのか。そして、何を後世に伝えていかなきゃいけないのか。今回のIRID解散の報道に、答えのない問いを突きつけられている気がしてなりません。みなさんのご意見を、ぜひ、お聞かせください。

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image by: Shutterstock.com

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
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