ホンマでっか池田教授が考察。なぜ人は関わりのない他人を助けようとするのか

 

多少のコストは承知の上で、他人を助ける行動を生物学的には利他行動という。生物は通常、自分の生存可能性と繁殖可能性を最大化するように行動する。これは利己行動である。利他行動はこれに反するので、生物学者は長い間、野生動物の利他行動をうまく説明できなかったが、生物は、自分の生存可能性を最適化するのではなく、自分の遺伝子の生存可能性を最適化するのだ、というパラダイムチェンジによって、この問題を解決した。自分の遺伝子を沢山有している可能性が高い個体(子や孫)を助けるのは、まさにこの故である。

生物は血縁関係にない群れの個体を助けることもある。人間の言葉で言えば、困った時はお互い様だ、ということだ。これを「互恵的利他主義」という。ヒトの利他行動の一部はこれで説明できる。今、恩を売っておけば、将来見返りがあるはずだ、という話である。選挙で、自分の当落に関係ない候補を応援する政治家の行動は、この典型であろう。然るに、冒頭に記したような見知らぬ人を助けても、見返りは期待できない。これはどうしたものか。

多くの人の脳では、誰かに感謝されると心地よくなる報酬系が働いている。これは承認欲求の一つで、ヒトは、感謝されたり、褒められたり、認められたりすると、A10神経からドーパミンが分泌され、快感が生じるようになっているのだ。報酬系は一度形成されると、依存症になり易く、ギャンブル依存症も、甘味依存症も、アルコール依存症もなかなか治らない。

同じように感謝・承認依存症も一度形成されると、なかなか治らない。こういう人にとって、みんなの見ている前で、誰かに感謝されたり認められたりするのは快感なのだ。時々、デパートなどでの買い物が止められなくなってしまう人がいる。店員に下にも置かないもてなしを受けて、感謝される快感に溺れてしまったのだ。程度の差こそあれ、傷痍軍人にお金を渡して、感謝された叔母の脳内にもドーパミンは分泌されたに違いない。

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