絶体絶命の独裁者。「プーチンが核シェルターに移動」が意味するもの

 

さて、ロシアによるウクライナ侵攻から5週間が経ちましたが、国際政治の関心事が、戦況よりも、どちらかというと、この紛争後の世界に向かっているように感じます。

その最たる例が、米中対立が一層激化し、そしてこれまでの対立から性格を変えつつあることです。オバマからトランプ政権に至り、バイデン政権にも受け継がれた対立は、アメリカ側からの視点で見ると、経済的な対中脅威論がベースにあり、経済的な対立が実際の姿だったと言えます。バイデン政権になり、AUKUSの結成といったように安全保障面での観点も強調されだしましたが、実際のところは、クアッドがカバーする経済安全保障的な観点が主たる観点だったように考えます。

しかし、今回、ロシアと欧米諸国に引っ張られる国際社会という構図になって、中国に踏み絵を迫る機運ができていますが、これにより、これまで冷戦構造とは違うと指摘されてきた米中対立の構造が、よりイデオロギーベースの対立、それもかつての米ソ冷戦的な性格も加味しだしたと言えます。

その表れが、中国による“志を同じにする国々の囲い込みと勢力圏の拡大”の動きです。中国にとって、中央アジア・コーカサス地方への拡大においてウクライナは重要な拠点ですので、ウクライナを直接的に攻撃することなく、何とも言えない距離感を保ちつつ、主眼をアジア諸国と中東・アフリカ諸国の囲い込みに映しています。

アメリカからもアプローチがかかるフィリピンやマレーシア、インドネシアなどは、ロシアの武力侵攻に対しては非難するものの、対ロ包囲網からは距離を置き、いつものように欧米と中ロの間で何とかバランスを保って生き残ろうとしているように見えます。

今週、シンガポールのシェンロン首相が訪米し、アメリカとの密接な関係をアピールしていますが、このシンガポールも、ロシアの行動に対しては非難の輪に加わるものの、ルーツを同じくする中国とはつかず離れずの立場を取り、また物流拠点という強みを損なわないように、ロシアに対する経済的な制裁には参加していません。独自の対応を選択しているのか、もしくはまだ選べないというのが正直なところなのでしょう。

これはアメリカと近いとされるイスラエル、サウジアラビア王国などの中東諸国、アフリカで“親米国”と目される国々(エジプト、スーダン、ケニアなど)も同じです。今、これらの国々に中国・王毅外相を正面に立てて、新国家資本主義陣営の拡大運動を展開しています。安保理でのロシアに対する非難決議への反対または棄権に始まり、特別緊急総会においても、賛成に回った国もいくつかありますが、実際には反対ではないが、棄権するというぎりぎりのラインで、生き残った国々もまだ多くあります。

このような外交ゲームが繰り広げられている中、刻一刻と一般市民の被害が拡大していますが、関心は今、ウクライナで起こっている直接的な悲劇・被害よりも、「ポスト・ウクライナの世界で、いかに主導権を握るか」に移っているように見えてしまいます。

今週、非公式な協議に参加しましたが、その場で参加者が最初に尋ねた質問が「中国は何を考え、どうしようとしているのか教えてください」というものでした。

参加者の中には、ロシア政府関係者、ウクライナ政府関係者も混じっているのですが、“中国は結局のところどう動くのか”に対する関心が強かった印象を持っています。

停戦協議はファーストトラックと言われる“公式”プロセスで、今後については、セカンドトラックと呼ばれる非公式なトラックでということなのかもしれませんが、皆の関心が「紛争後のウクライナの扱い」と「中国の動き」に集まっていたのには驚きました。

つまり、ウクライナ紛争における議論のフォーカスが、紛争そのものよりも“世界二分化”へ移り、そこで自国はどう振舞うかに移ってきているということなのかもしれません。

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