2018年に成立した改正民法の施行により、4月1日から18歳に引き下げられた成人年齢。その理由を法務省は「積極的な社会参加を促す」としていますが、デメリットを心配する声が多く上がっているのも実情のようです。今回のメルマガ『伝説の探偵』では、現役探偵で「いじめSOS 特定非営利活動法人ユース・ガーディアン」の代表も務める阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが、成人年齢引き下げを受け活気づいているという悪徳商法業界の、若者たちを騙す手口をリーク。併せて罠にかかってしまった際の対処法も紹介しています。
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成人年齢引き下げ、悪徳商法や詐欺に注意!
民法改正によって成人年齢が18歳に引き下げられた。
すでに、議論に入っているアダルトビデオについての出演についての取消権の是非など、様々な問題が生じている。
今やこうしたメディアは、生涯付きまとう問題であり、いわゆるデジタルタトゥーのように、後からの対策には限りがある事であるから、与野党の議員の方々には頑張ってもらいたいところである。
【関連】18歳でアダルトビデオ出演は「成人」扱いに。政府が閣議決定で物議、AV強要でも“未成年取消権”4月から認めず
さて、成人年齢引き下げからある業界が活発に動き出していることをご存じだろうか。
それは、マルチ商法やネットワークビジネスなどの業界である。
過去においても現在も、こうした消費者被害をまき散らす商法に関する調査依頼は多くあった。中でも大学生をターゲットにした「マルチ商法」や「マルチまがい」の投資や情報商材は、成人年齢に達したことで、未成年取消権によって容易に取り消しができないことを1つの狙いとしていた。
Aさんの場合
すでに社会人となっているが、大学生当時に騙されたことがあるAさんは、成人してからしばらく経って、SNS経由で友人から「パーティーしよう」という誘いがあったそうだ。
そこから色々と連絡を取り合うようになって、紹介したい人がいると言われて、ある人物とSNSで繋がった。
その人物は20代前半で、5万を超えるフォロワー数を持っていて、キラキラ生活をしていた。自宅で撮ったという写真は、明らかに都心の高層マンションからであり、旅行先だというホテルも高級、メイク道具や服などもブランド物で、雑誌の中から出てきたような裕福な生活をしているのがありありとわかるものだった。
「将来何になりたいとかあるの?」
SNS上で「すごいなぁ」と思っていたところ、紹介してくれた友人とのやり取りで、将来の話になった。
真面目に大学生をやってそこそこの企業に就職できたって、はじめは手取りで20万円にも満たない。学生ローンを払って、家賃を払って、光熱費と携帯代を払ったら、残りはわずか。
おしゃれもできないし、雑誌に載るようなお店でディナーなんて全然できない。
ギャラ飲みとかパパ活なんてしたくもないが、それでそのうち結婚して、子育てをして、何も楽しみもないというような話になったそうだ。
ただ紹介をしてくれた友人は、ちょっとしたお小遣い稼ぎをしていて、アルバイトをしていないということだった。
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「ちょっとそれ教えてよ」
思わず、「ちょっとそれ教えてよ」と言ったのが、間違いだったのかもしれない。
友人は、実は、そのキラキラな生活をしている人から、投資情報をもらっているのだということだった。
まずは無料の投資セミナーを受けて、それで納得したら、情報をもらえる権利を買うと良いと言われた。
Aさんは入り口が無料だというのは相当自信があるのだろうと思ったし、そのキラキラSNSの持ち主の周辺が、同様にキラキラ生活をしている様子だというのを、SNS上の検索で見ていたから、強い興味あって、その無料のセミナーを受けたわけだ。
無料のセミナーであるが、クレジットカードの登録が必要だということには違和感を抱いたが、投資にはそれなりの元手が必要だから、そもそも元手もない人に教えるわけがないと説得されて納得してしまった。
結果、セミナーを受けて、その会場で、毎月3万円を払うというコースを選んでしまった。はじめならば、2か月分がお得になる一括払い、30万円の一括払いの特別コースと言われて、その誘いにのってしまい契約してしまった。
騙されたかも
騙されたかもと思ったのは、数か月後であった。色々問い合わせをしたが、友人はレスが遅くなって「私は大丈夫だけど」と言われ、そもそも投資は相場の問題もあるから儲かるときも損をする時もあるとはぐらかされた。
騙されたかもと思う段階の時期は、情報を買ったお金と投資のために借りたお金の返済で、完全に追い込まれている状態であった。
私に相談があった段階は、それからしばらくして親が気付いたところであったので、一旦弁護士に相談するようにアドバイスをしたが、親御さんから目を覚まさせるために、しっかりとした調査をしてほしいと言われたが、費用をかけるまでもないと、その場で意見をさせてもらった。
まず、キラキラSNSのアカウントは、関連するアカウントで表示される写真を照合したが、アングルを変えたほぼ同一のものがあり、架空のものと考えられた。日付違いや顔の写真がないことも指摘できた。
また、Aさんの友人周りに電話をかけまくったところ、同様の被害にあっている人物が確認できた。
投資情報自体も見たが、初心者向けの投資本を読んだ方がためになるだろう内容であり、似非のインサイダー情報もあることから、極めて杜撰なものだと説明をした。
Aさん本人は、私と会った段階で、そういわれるだろうと確信していたそうで、ある種の区切りになったと言っていた。
そもそもは法律問題であるから弁護士に依頼するか諦めて教訓にするかだ。
仕組み信望者
こういう話を聞くと、クーリングオフは、消費者センターに行けば、、詐欺罪で訴えればいいとか、やたらとアドバイスしたがる人がいるが、仮に契約を取り消せたとしても、相手がお金を持っていなければ返金自体は叶わない。
一方で、詐欺師や悪徳商法側は、法の網をかいくぐるように用意周到に準備を進め、しっかり被害者をハメ込む仕組みを作り上げているわけだ。
アダルトビデオ出演の取消権が国会中継で流れていたのをみたとき、まずは注意喚起で、今ある法令を最大限利用することで回復が可能という見解があったが、実際の被害を受ける当事者やその実態が、どこか置き去りになると、こうも噛み合わない見解が飛び出してくるのだと思うのだ。
実態はまるで違うからだ。
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道具屋大盛況
詐欺や悪徳商法には、多くのケースでその詐欺や悪徳商法のネタ元となる「道具屋」と言われる存在がいる。
例えば、弁護士さんがみても「うーん」と唸ってしまう契約書をつくる者がいたり、SNSのアカウントを用意したり、フォロワーを売ったりするのだ。シナリオライターがいるケースもある。
すでに、インターネット上で知れ渡っている「投資情報が入ったUSB」ネタは使えないから、「暗号資産(仮想通貨)」にしようとか、金融商品取引法などに引っ掛からないようにするためにどうするかなど、騙す側は騙す努力を惜しまないし、専門的なのだ。
社会経験がなく、金融リテラシーなどの教養もほとんどない若者は悪徳商法や詐欺師からすれば、騙しやすく問題になりづらい、いわば「カモネギ」状態であり、さらに、こうした年齢層が多くいる大学のキャンパスなどは、「良質の狩場」となりやすい。
民法改正の成人年齢引き下げは、私にはよくわからないが、きっと何かのメリットがあったのだろう、しらんけど…。
私にできることは、何よりも被害に遭わないことが一番いいので、儲け話は「儲けはなし」だという言葉で注意喚起することくらいだ。
ギャグじゃないか!と思うかもしれないが、きっと覚えやすい。
つまり、みんなで注意喚起を今のところはするしかないだろう。ということだ。
ただもしも、騙されたかも、変な誘いを受けたんだけど、という方はすでにいるかもしれない。そうした場合は、まずは、消費者ホットライン「188」や最寄りの弁護士会などに電話を今すぐしてほしい。
編集後記
いじめ問題で色々取り上げられるからなのかわかりませんが、若者に関する相談は毎日のようにきています。その中で、やはり最も多いのが、「詐欺や悪徳商法」に関するものです。
パワハラやアカハラというのもかなりあります。
一般に私が探偵調査業務で扱う投資詐欺などは、高額被害のもので、調査費用をかけても費用対効果が得られる事案となりますが、若者からの相談だと数十万円の被害が多く、調査費用の方が高くなってしまうことが多いのです。
ですので、相手が法人ならば法人登記簿謄本のとり方を教えたり、消費者センターで契約書を見てもらうなどした方が良いなどとアドバイスで留めることがほとんどです。また、法律事務自体が主体となる対応が多いであろうことから、弁護士会の相談センターなどに相談することを勧めます。
成人年齢引き下げで、こうした被害が拡大する懸念は強くあります。特に対象となる若者が多く集まる施設や大学では注意喚起は当然のこと、相談窓口を各機関と連携して作って頂けたらと思います。
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