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ホンマでっか池田教授が「種の保存法」を“欠陥法”だと訴えるワケ

「種の保存法」で国内希少野生動植物種に指定された生き物は、採集・飼育を禁じられ、成体や標本の譲渡も禁止されています。指定以前から飼育している人の累代飼育は例外的に認められていますが、その場合も譲渡はできません。この規定が市井の飼育名人による「種の保存」を妨げていると指摘するのは、メルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』著者でCX系「ホンマでっか!?TV」でもおなじみの池田清彦教授です。今回は、沖縄でオキナワマルバネクワガタを累代飼育する飼育名人のケースを紹介。累代飼育者からの譲渡を認め、繁殖させる愛好家を増やすことが「絶滅」を防ぐことになると訴えています。

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コロナ禍の沖縄に行く

2022年の4月の終わりに1週間ばかり沖縄に行ってきた。沖縄は新型コロナの人口当たりの感染者数が日本一で、あまり気が進まなかったのだけれども、大分前から約束していた「沖縄イチムシ会」の講演の日程が4月23日にフィックスされていたので、キャンセルするのも気の毒だと思ったのと、その後、山原(やんばる)に行ってオキナワホソコバネカミキリのメスが採れればいいなあ、というスケベ心を起こして、コロナ感染を心配するカミさんを尻目に、機上の人となったのである。

沖縄はオミクロン株が大流行しているので、多少はピリピリしているのかと思っていたが、沖縄の人たちはいたって呑気で、一応ほとんどの人はマスクこそしているけれども、余り感染を心配しているようには見えなかった。友人の一人は、二人の孫がともに感染したけれど、別に大したことはなかったと笑っていた。感染者は大勢いるが、若い人の死者はほぼ皆無なので、余り気にしていないのだろう。3回目のワクチンを打て打てと政府は躍起だけれども、私と同じように、政府の言うことを信用していない人も沖縄には多いようだ。

「沖縄イチムシ会」は私の大学の2年後輩の座間味真君が会長をしている団体で、主として沖縄に固有のクワガタムシやカブトムシや淡水魚を増殖して、種の保存に努めるとともに、希望者に幼虫や稚魚を配布するボランティア活動を行っている。「イチムシ」とは沖縄のコトバで「生き物」を指すようだが、座間味君は「虫けら」のことだと言っていた。

虫が好きな人には2つのタイプがあって、1つは採って集めて標本にするのが好きな人、もう1つは飼うのが好きな人だ。私は完全に前者で、飼育はどうも好きになれない。子供の頃はイヌを飼っていたこともあったが、イヌやネコは早々と死んでしまうので、情が移ると可哀そうで、飼う気になれない。昆虫や熱帯魚も飼うのが下手なので、うまく育たないか、すぐ死んでしまう。昆虫を飼うのは、もっぱら綺麗な成虫の標本を手に入れたいためで、飼育を楽しむというパトスはない。

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飼育が好きな人は、幼虫の仕草が可愛い、ブリードしてどんどん増やすのが楽しい、飼育技術を向上させてギネス級のクワガタムシやカブトムシを羽化させたい、といったいろいろな理由を挙げるけれど、結局は生きている昆虫や魚が好きなのだと思う。こういう人は、小動物が居心地よく過ごしているかとか、病気になりかけているかとか、に敏感なのだ。

座間味君の以前の商売はクルマエビの養殖である。沖縄に暫く住んでいた頃、海辺にある養殖場に遊びに行くと、時々、養殖池に素潜りで潜っていた。クルマエビの健康状態を自分の目で確かめているのだという。元気のないクルマエビはつまみ出して、病気の蔓延を未然に防いでいるのだ。クルマエビに限らず、魚介類の養殖はどうしても過密になる。過密になれば、1匹でも感染症に罹れば、あっという間に養殖場全体に拡がって、甚大な被害が出る。これを防ぐために、餌の中に抗生物質を混入させる養殖業者も多い。

座間味君は、抗生物質は使っていなかったようだ。そのために、毎日2回養殖池に潜って、クルマエビの健康チェックを怠らなかったという。座間味君のクルマエビ養殖が好調だということを聞いて、クルマエビ養殖に手を出した近所の人は、暫くしてクルマエビが全滅したという。生き物に対する配慮が足りなかったのだろう。

クルマエビの養殖をやめてからは、クワガタやカブト、メダカ、トウギョなどの養殖を趣味で行っており、近所の小学生に無償で配っていたのだが、これを大々的にやろうと思いついて、「沖縄イチムシ会」を立ち上げたとのことだ。飼育技術が優れているので、どんどん増えて、誰かに配らないと始末に困るという事情もあったのだろう。

子供たちが喜ぶのは沖縄島特産のオキナワカブトやオキナワノコギリクワガタ、オキナワヒラタクワガタなどだという。カブトやクワガタは、どこでも子供たちには人気の虫だ。特筆すべきはオキナワマルバネクワガタの累代飼育だ。オキナワマルバネクワガタは、「種の保存法」で国内希少野生動植物種に指定されていて、採集・飼育も禁止ならば、生き虫や標本の譲渡も禁止である。しかし、座間味君は指定前から累代飼育をしているので、自分自身での累代飼育に関しては、例外的に認められているのである。

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飼育がうまいので、毎年100頭を超えるオキナワマルバネクワガタが孵るようだ。しかし、たとえ無償でも誰にも譲渡ができないので、困っているのである。去年の8月と9月に産卵したオキナワマルバネクワガタの幼虫を最近掘り出したら、208頭の幼虫が出てきたという。これを1頭ずつ飼育すると、今年の秋にはほとんど成虫になる。彼が言うには、譲渡できないので150頭くらいに留めておこうと思ったが、案に反して200頭以上出てきたとのこと。

繁殖をやらないと腕が鈍るので続けるつもりだが、今後は数より大型化に重点を移すつもりだと言っていた。どう考えても「種の保存法」は欠陥法である。そもそもこの法律は、希少な野生動植物種を絶滅から守るためのものだ。座間味君のように累代で繁殖させてくれる愛好家が増えれば、たとえ、野外で絶滅しても、誰かが飼育していれば、種としての絶滅は免れる。

もし座間味君に事故があって、彼が累代で飼育している系統が途切れたら、この種の絶滅確率は増大するに違いない。多くの人に譲渡していれば、絶滅確率は減少する。譲渡を禁止しないと、野外から採集したものを売って儲ける人が出て、密猟を防げないという理由だろうが、それは密猟を取り締まればいいわけで、累代で飼育をしている人からの譲渡を禁止する理由にはならない。飼育品の譲渡禁止は種の保存に関する限り、メリットよりデメリットの方が大きい。(メルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』2022年5月13日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください)

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image by: Shutterstock.com

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