制度の開始から今日まで、不正受給が頻発している新型コロナウイルス対策の持続化給付金。先日発覚した事件では、現役の職員を含む国税局関係者3名が逮捕され大きな話題となりました。なぜ彼らはこのような犯罪に手を染めるに至ったのでしょうか。今回のメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』では元国税調査官で作家の大村大次郎さんが、これまでに判明している事件の概要を紹介するとともに、国税関係の容疑者たちが犯行に走った理由を考察。そこから見えてきたのは、持続化給付金制度自体の「欠陥」でした。
※本記事は有料メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』の2022年6月16日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:大村大次郎(おおむら・おおじろう)
大阪府出身。10年間の国税局勤務の後、経理事務所などを経て経営コンサルタント、フリーライターに。主な著書に「あらゆる領収書は経費で落とせる」(中央公論新社)「悪の会計学」(双葉社)がある。
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国税職員らの給付金詐欺事件を元国税調査官が解説
国税職員などの詐欺グループによる持続化給付金の不正受給事件が連日、報道されています。この事件では、国税職員ら10人が逮捕され7人が書類送検。グループは約2億円だまし取り、その多くは暗号資産への投資に使われたとみられています。
現在判明している限りでの、この事件の流れは次の通りです。元証券会社の社員、中峰被告らが作っていた暗号資産の投資グループ「マイニングエクスプレス」が舞台になっています。この中峰被告が開いた投資セミナーに、国税職員だった中村上総被告が参加します。そして中村被告もこの投資グループに加入したようで、中村被告は国税局をやめて投資家になっています。
この元国税職員中村被告の元同僚だったのが現役国税職員の塚本晃平被告です。
中村被告と塚本被告は、ルームシェアもしており、同郷の同級生だったという情報もあります。ただ中村被告が国税職員をやめても、塚本被告はやめていません。
だから塚本被告は逮捕時の肩書が国税職員となっているのです。
この投資グループ「マイニングエクスプレス」は、持続化給付金を詐取して投資資金を稼ぐということを思い立ちます。そして、グループの役割分担し、セミナーにきた大学生などに「申請すればお金がもらえる」などと声をかけて大規模な持続化給付金詐欺を行ったのです。
詐取した金の一部は、メンバーが報酬として受け取り、一部は申請した大学生らに渡し、大半の金は、グループの暗号資産投資に充てられたと見られています。
元国税職員中村被告は、グループの中心メンバーの一人であり、1,000万円程度の報酬を得ていたと見られています。が、現役職員の塚本被告は、確定申告書の偽造を担当していましたが、一件当たり数万円、合計で120万円程度の報酬を受け取っただけです。たった120万円の報酬で、安定した公務員の職を棒に振るというのは、バカげた話ですが、塚本被告の場合は、同級生で元同僚だった中村被告の誘いを断れなかったのかもしれません。もちろん親友に誘われたからと言っても明らかな犯罪に加担したのですから同情の余地はありませんが。
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国税関係者の逮捕者はすでに3人
持続化給付金の不正受給で逮捕された現役国税職員は、わかっているだけで2名います。これは2名が共謀したわけではなく、それぞれが別の事件です。今回の詐欺グループの事件以外にも、山梨県での持続化給付金詐欺事件があり、これは去年発覚しているのです。
山梨の事件というのは、2021年2月16日号でもご紹介していますが、2020年12月、甲府税務署の税務署員26歳が新型コロナウイルス対策の持続化給付金をだまし取
ったとして愛知県警に逮捕されたというものです。
この税務署員は、個人事業者をよそおって嘘の所得税確定申告書の控えなどを添付して給付金を申請し100万円をだまし取ったということです。そして押収したパソコンなどによると、ほかに数百件の給付金詐取に関わったと見られています。しかもこの税務署員は、大麻の栽培もしており、その件でも逮捕されています。
これらの事件は、いろんな意味で「現代社会の闇」を感じさせるものでした。
まず「持続化給付金」そのものに様々な欠陥があり、今回の犯罪はその欠陥を衝かれたものであること。そして、今回の事件は、これまでにない異質な要素があること。
犯罪の舞台となった「持続化給付金」について少し説明しましょう。
持続化給付金の欠陥
持続化給付金というのは、新型コロナの影響で売上が急に下がった事業者などが受けられる給付金です。最高200万円までもらえました。
この持続化給付金は国の事業でありながら、電通やパソナの事業共同体が受注するという、いわゆる「中抜き問題」が発覚した事業です。もとの計画からかなりずさんで、利権にまみれた事業ではありました。これらの持続化給付金の利権問題については、このメルマガの2020年6月16日号に書いております。
【関連】元国税が暴露。電通「中抜き」問題と官僚天下り問題との深い関係
持続化給付金の実際の業務を担当したのは、パソナなどの民間企業なのですが、これが初めから無理無理だったのです。民間企業は、全国の事業者の情報も持っておらず、調査権もありません。不正受給をしようと思えばいくらでもできるのです。
案の定、持続化給付金では大量の不正受給が発生しました。しかもその手口は、今まで事業をやってこなかった普通の会社員や大学生が、持続化給付金を申請するだけという驚くほど単純なものでした。逆に言えば持続化給付金は「普通の会社員や大学生が申請しても簡単に給付されてしまう」というような、ずさんな仕組みを持っていたのです。
その申請もそれほど難しいものではなく、添付書類も確定申告書の写し、売上帳の写しなどでよかったのです。詐欺を働いた国税職員の塚本容疑者の担当は、確定申告書の偽造だったとのことですが、これもそう難しいものではありません。確定申告書の用紙は、税務署にも置いてありますし、国税庁のサイトから打ち出すこともできます。その申告用紙に必要事項を書き込んで、税務署の受付印を押せばいいだけです。税務署の受付印も、ゴム印のような簡単なものなので、ちょっとパソコンをいじれば簡単に偽造できてしまうのです。
そして必要書類さえ揃っていれば、相手は民間企業なのでそれ以上のチェック機能はないに等しいのです。
この持続化給付金は、国の機関でやるべきだったのです。たとえば国税庁がこの業務を行っていれば、こんな杜撰なことには絶対にならなかったはずです。まず申請の時点で、事業を行っていたかどうかは簡単にチェックできます。またもし不正があっても、国税庁には全国に調査網があるため、少しでも不審な点があればその場で調査できるのです。
不正受給者の側も、窓口が国税庁であればそう簡単には「詐欺をしよう」とは思わないはずです。
詐欺事件に関与した国税職員たちも、もし国税庁がこの業務を行っていれば、絶対に手を出していないはずです。彼らは国税庁の調査能力を知っているので、詐欺などが簡単に通用しないことは十分に知っているのです。
逆に彼らは、国税庁が関与せず民間企業が業務を行うのであれば、チェックが甘くなるということもよく知っていたのです。民間企業がそう簡単に、事業者の詳細の確認などはできないことは、国税の職員であれば体感的に知っています。
だから我々国民は、詐欺事件の追及をしながらも、この事業自体の欠陥も、しっかり追及していかなければなりません。
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これまでとは異質な国税職員の犯罪
それと筆者が気になったのは、やはり国税職員が3人も逮捕されてしまったということです。3人のうち、すでに退職していた中村容疑者は1,000万円程度の報酬を受け取ったようですが、ほかの2人は100万円ちょっとの報酬です。たったこれだけの報酬で、公務員という安定した職を棒に振るというのは、単純な損得勘定だけでも割に合いません。なぜそんな簡単な計算ができなかったのでしょうか?
国税には5万人の職員がいます。5万人もいれば、いろんな人がいますので、犯罪をおかしてしまう人もいます。何年かに一度は重大な事件を起こす職員がでてきますし、過去には殺人事件を犯してしまった者もいます。
だから、去年、山梨で国税職員が逮捕されたときには、筆者は、「5万人もいればそういう人もいるだろう」くらいにしか考えていませんでした。
しかし3人も出てくるとなると筆者としても、深く考えざるを得ません。彼らのやっていることは、今までの国税職員たちが犯してきた犯罪とは少し質が違います。
この3人に共通するのは「ちょっとした出来心」という言い訳は通じないような、組織的ともいえるような大掛かりな詐欺行為に加担している、ということです。マンガで言えば「悪の組織」の中に入っていたわけです。彼らは日頃から「犯罪にアクセスする生活をしていた」のです。しかも彼らは非常に若いのです。
彼らを見ていると、筆者にはもう自分の将来を捨ててかかっているとしか思えません。もしかしたら、未来に希望を持てない今の日本の社会が、彼らを犯罪に駆り立てた要因のような気もします。いずれにしろ、鉛を飲み込んだような、気分が重たくなる事件ですね。
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