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中国とロシア、北朝鮮が日本の領土を狙うことは本当にあるのか?

ロシアによるウクライナ侵攻、北朝鮮の相次ぐミサイル発射実験などを受け、政府は骨太の方針に「5年以内に防衛力を強化する」と明記。岸田首相は「ウクライナは明日の東アジア」などと率先して危機を煽っています。こうした姿勢に疑問を呈するのは、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さん。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、「ミサイル攻撃」はあっても「占領」目的での攻撃は杞憂と断言。中国に関しては、いま大きな代償を払ってまで獲得しなければならないモノは日本にはなく、北朝鮮についても過剰な反撃能力の所持による暴発の方を心配すべきと解説しています。

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中国とロシア北朝鮮は日本の領土を狙っているのか?

ロシアがウクライナに侵攻して以来、日本には「一億総軍事評論家」といった現象が広がっている。自らの安全に敏感であることは大切なことだが、それが「力には力だ」、「憲法を改正しろ」といった短絡的な話に終始するようならば、少し残念だ。

バランスを欠いた議論の先にあるのは、安全保障のディレンマに陥り、経済発展の資源を防衛費につぎ込んだ挙句、国力を失ってゆくという結末だ。

最悪なのは、日本が変化する過程で疑心を膨らませたどこかの国との間で緊張を膨らませ、最終的に「本来しなくてよい戦い」に突入してしまうシナリオだ。

本来、世界が不安定であればあるほど、冷静を心掛けなければならない。なぜ人類が「外交」という手段を獲得したのか。また日本経済の奇跡的な発展はどんな環境下で達成されたのか。見つめ直すときだ。

しかし現状は残念ながらタカ派的な熱狂が支配的だ。岸田首相自ら出席したアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアログ)で「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」と軽々しく言い放ってしまうのだから、国民に冷静を、といっても説得力はない。

さて、後ろ向きのことばかり言っていても仕方がないので、タイトルに掲げた当節流行の、「中国とロシア北朝鮮は日本の領土を狙っているのか?」について考えてゆきたい。といっても長々と書く必要はない。ほぼ杞憂だからだ。

もし「領土を狙う」というのが「占領」や現在のウクライナをイメージしたものであれば、やはり心配はない。日米同盟が機能するなか海を越えて兵力を投射し、反発する1億2000万人を支配し続けるなど、たとえGDPで日本の3倍を超える中国であっても現実的な話ではないからだ。しかも、いまの中国には慌てて日本を支配しなければならない動機も見つからない。

宇宙開発企業・スペースXの創設者及びCEOで電気自動車メーカーのテスラの共同創設者のイーロン・マスク氏が「日本はいずれ存在しなくなるだろう」とツイッターに投稿し話題となった。彼はその裏でポッドキャスト「All-in」のインタビューで、「中国が米国を抜き去り、将来的には2倍あるいは3倍になる」とも予測した。多少大げさな分析だが、彼が指摘した趨勢は否定できない。つまり何もしなくてもいずれ日中間には埋めがたい差が生じる。それが東アジアのリアルなのだ。

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元々資源・エネルギーに恵まれず、電気自動車への転換に出遅れ自動車大国としての地位を失いつつある日本。GAFAに代表されるIT分野での存在感も薄く、再生可能エネルギーの分野でも精彩を欠く。中国がいま大きな代償を払ってまで獲得しなければならないモノはない。

ただ「領土を狙う」という意味が「ミサイルで攻撃する」という解釈なら、可能性は否定できない。どの国も相手国の動きに危機感を覚え追い詰められれば、カウンターバリューを含めた攻撃が選択肢に上るからだ。当然、想定されるのは最悪の事態なので、損得の計算式も平常時とは違ったものになる。

事実、中朝ロのなかで最も軍事力の劣る北朝鮮でさえ、核弾頭を積んだミサイルで東京を狙う能力をすでに備えている。標的を狙うミサイル技術も、潜水艦発射型から極超音速まで、日進月歩だ。

今後もし金正恩政権が倒れることがあったとしても懸念は付きまとう。暴発のリスクに備えなければならず、逆に南北が統一されれば日本は人口と軍事面で強大となった朝鮮半島と向き合わなければならなくなるのだ。これが東アジアのもう一つのリアルだ。

金政権が倒れる、と軽々しく書いたが、その前には積年の敵である日米に対しどんな行動に出るのだろうか。休戦状態にある朝鮮戦争の当事者である国連軍の基地が日本に置かれている現実を考慮すれば、日本がターゲットになる可能性はなおさら高まる。

そのとき日本でいま議論される「反撃能力」は機能するのだろうか。少なくとも彼らを思いとどまらせる理由にはならない。そもそも日本には北朝鮮の動きが全く見えていない。そんななかでどうやって「敵が攻撃する確かな兆候」をつかめるのか。またその兆候が誤りであった場合──実際そうした局面では偽装とフェイクがあふれる──取り返しのつかない責任が日本を襲うという状況下で誰が攻撃を決断できるのか。

つまり反撃能力を獲得し憲法を改正してもインスタントに日本が置かれた状況は変わらない。北朝鮮に対してでさえそうであれば、ロシアや中国が相手ならばどうだろう。

ロシアのウクライナ侵攻後、日本では「もしウクライナが核を保有していたら、あんなに簡単に侵略されることはなかった」という議論が巻き起こった。これも頭の体操として考えたいのだが、ウクライナは果たしてどのタイミングで核を使うことができたのか。決断は簡単ではなかったはずだ。

先制使用は国際世論の厳しい非難を招く。となれば当然、いまのように欧米社会から支援を受ける道は断たれるだろう。一方、ロシアは被害者となり、かつ核を使用する大義名分を得るのだ。待っているのは恐ろしい未来ではないだろうか。このことは日本にも当てはまる話だ。
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2022年6月18日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: 首相官邸

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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