MAG2 NEWS MENU

Warsaw, Poland, 25 of February 2022, Demonstration of Ukrainians and Poles in front of the Embassy of Russian Ferderation. Pictures of Putin on cardboard sheets prepared to be trampled on by people

プーチンのハッタリ「経済制裁は効いていない」は大嘘。ロシアに待ち受ける地獄

今回のウクライナへの軍事侵攻が批判され、各国ではロシアへの経済制裁が続いています。しかし、当のプーチン大統領は「制裁は効いていない」とバッサリ。それが真実であるのかを語るのは、国際関係ジャーナリストで28年のロシア滞在歴を持つ北野幸伯さん。北野さんは自身のメルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の中で、 ロシア経済の今後について分析しています。

プーチン「経済制裁は成功しなかった!」は本当か??

プーチンは6月17日、サンクトペテルブルグで開かれた「国際経済フォーラム」で演説しました。その中で、「西側による経済制裁は成功しなかった」といいました。

これ、皆さんもよく聞くのではないでしょうか?「制裁は、効いていないようだ」と。実際は、どうなのでしょうか?

制裁の影響は長期で見るべき

ロシアの知人、友人に、「制裁どう?」と聞いています。皆さん、「インフレだけだ」といいます。

ロシア連邦統計局の発表によると22年5月のインフレ率は、前年同月比で、17.1%だそうです。確かに「ひどいインフレ」ですが、「破滅的」とまではいえないでしょう。

しかし、経済制裁の影響は、長期で見る必要があります。

皆さん、もう忘れているでしょう。プーチンの1期目2期目、つまり2000年から08年まで、ロシアのGDPは、年平均7%成長していたのです。ロシア政府高官は強気で、07年08年には、「ルーブルを世界通貨にする!」と豪語していたものです。

ロシアは2014年3月、クリミアを併合しました。そして、その後、さっぱり成長しなくなりました。2014年から2020年のGDP成長率は、年平均0.38%。何が起こったのでしょうか?そう、欧米と日本が経済制裁を科したのです。

2014年3月当時、ロシア国民は、笑っていました。曰く、「ロシアは、世界有数の資源大国で、食糧を自給することもできる!核超大国で、侵略される恐れもない。制裁は効かない!!!!!!!!!!!」と。ところが、バリバリ効いていたのです。

プーチンは今回も、「制裁は効いてない!」といっています。確かに、短期的に見れば、「効いているが、破滅的ではない」といえるでしょう。しかし、クリミア併合後の推移を見れば、「必ず長期で効いてくる」と断言できます。

しかも、今回の制裁は、クリミア併合時とは比較にならないほど厳しいものです。まさに「地獄の制裁」と呼ぶにふさわしい。どんな影響が予想されるのでしょうか?

ロシア経済の長期的打撃は壊滅的

たとえば自動車。ウクライナ侵攻後、欧米日の自動車メーカーは、ロシアへの輸出、現地生産を止めました。ロシア人は、日本車、ドイツ車が大好きです。しかし、在庫が切れれば、買えなくなる。

ロシアにも、自動車メーカーはあります。AvtoVAZ、GAZ.、KAMAZ.、UAZなどうです。ところが、これらのメーカーは、欧米日からの輸入部品を使っている。それで、「ハイテク車」は作れなくなります。

具体的に。たとえば、欧州の排ガス基準は2014年から「ユーロ6」になっています。しかし、ロシアの自動車メーカーは、単独でユーロ6の車を作ることができない。ロシアメーカーが生産する車は、「ユーロ2レベルだ」といいます。

「ユーロ2」というのは、1996年の基準。つまりロシア車は、「26年前のレベル」まで落ちてしまう。「ロシアに行くと、排ガスくさいな!」となるでしょう。しかも、ロシア車には、「エアバック」がつかないそうです。

以前にもお話しました。私の友人は、スズキの車に乗っています。故障したので、修理しようとしたら、「部品が入ってこないから無理です」と断られたそうです。友人は、悩んでいます。

次に航空機のことを考えてみましょう。ロシアでつかわれているのは、主にボーイングとエアバスです。そのうち半分ぐらいががリース。ウクライナ侵攻が始まると、リース会社はロシアに、「航空機の返還」を求めました。

ところがロシア政府は、「航空機を返却せず、そのまま使ってもいいよ」としたのです。「乗りものニュース」3月12日を見てみましょう。

2022年3月、日本や欧州各国のリース会社が所有し、アエロフロート並びにS7航空などロシアの航空会社が借り受けていた旅客機515機が、ロシア政府によって接収される見込みとなっています。

推定価値1兆円以上にも及ぶ前代未聞の「旅客機の盗難」という事態に直面し、航空業界は大きな岐路に立たされています。

ロシア政府は、「航空機を盗んでもいいよ」と。マフィアですね。しかし、盗むことはできても、その後どうするのでしょう?整備は?部品の交換は?しばらくすれば、盗んだ515機の航空機に乗るのは危険になってくるでしょう。私の友人の「スズキ車」同様、使えなくなるのです。

次に、鉄道を見てみましょう。モスクワとサンクトペテルブルグを結ぶ高速鉄道サプサンがあります。時速250キロで走る(新幹線は320キロ)。「ロシアの技術もそこまで向上したか…」ではないんです。

これ、ドイツのシーメンス製なのです。そして、シーメンスは、ロシアから撤退した。じゃあ、サプサンの整備、部品交換どうするのでしょう?自動車、航空機と同じで、できなくなるのです。

おわかりでしょうか?現状、ロシア制裁の目に見える影響は、「インフレだけ」です。しかし、長期的に見ると、基幹インフラまで影響がでてきます。だから、欧米日の制裁を「地獄の制裁」と呼ぶのです。

私は、ウクライナ侵攻がはじまる前から、「ロシアは、ウクライナとの戦争に勝つかもしれないし、負けるかもしれない。ウクライナとの戦争に勝ったとしても、地獄の制裁はつづくので、【 戦略的敗北は不可避 】だ」といいつづけてきました。その考えに変更はありません。

(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2022年6月18日号より一部抜粋)

image by: CinemaPhoto / Shutterstock.com

北野幸伯この著者の記事一覧

日本のエリートがこっそり読んでいる秘伝のメルマガ。驚愕の予測的中率に、問合わせが殺到中。わけのわからない世界情勢を、世界一わかりやすく解説しています。まぐまぐ殿堂入り!まぐまぐ大賞2015年・総合大賞一位の実力!

無料メルマガ好評配信中

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 ロシア政治経済ジャーナル 』

【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け