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ジリ貧プーチン。西側とロシアの間に下ろされた新たなる“鉄のカーテン”

開戦から130日を超えたウクライナ紛争。先日行われたG7サミットやNATO首脳会合などでも改めてウクライナへの支援が確認されましたが、ロシアの一歩も引かない構えに変化は見られません。戦争当時国の国民のみならず全人類に好まざる影響を与えるプーチン大統領の蛮行は、この先いつまで続くのでしょうか。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、当紛争をウクライナ東部での戦況を中心に詳説するとともに、ロシアの敗退時期を予測。さらにプーチン大統領の意図をくじくため、各国がなすべき事柄について考察しています。

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ロシア経済の危機

ドイツへのガス供給削減、サハリン2の接収などと天然ガスと石油依存経済がおかしくなっている。勿論、ガス供給削減される欧州や日本も大きな影響を受けるが、原発再稼働などの対応策はあり、乗り越えることができるが、ロシアはそれができずに収入が減る事態になっている。この今後を検討する。

ウクライナ東部での戦争は、ロシア軍は攻撃を緩めないが、ウ軍もハイマースとUAVでイジューム方面の弾薬庫や司令部などを次々と破壊している。

ウ軍はリシチャンスクで防衛しいるが、リシチャンスクへの補給路T1302高速道路の防衛ができず、ロ軍に切断された。リシチャンスクの包囲も完成したようであり、ウ軍はリシチャンスクから撤退して、スラビアンスクの防御を固くした方が良いと思うが、まだ、リシチャンスクからの撤退はしていない。補給もできなくなる。

ロ軍は、シベリアから戦車BTGを大量に東部に送り込み、合わせて退役軍人を再徴収して下士官不足を埋め、戦線を維持・攻撃をしている。ウ軍も東部に人員を集めて、ロ軍の全縦深攻撃対応で、ここの防衛を厚くしたことで、他の地域の反撃ができなくなっている。

しかし、ロ軍の全縦深攻撃を止めることができていない。ロ軍が徐々に占領地を拡大している。ウ軍の将兵の損耗も大きくなっているようだ。

ウ軍にハイマースやNATO軍型兵器が実戦に出てきているが、まだ火力量からは負けている。ロ軍の方が押している状態に変わりがない。平原地帯ではロ軍の圧倒的な火砲・戦車群を用いる全縦深攻撃を止めることが難しいのかもしれない。ハイマースやM777榴弾砲の砲撃でロ軍の消耗も大きい。

そして、ロ軍の電子戦兵器クラハ8に対しては、やっとスイッチ・ブレードでの破壊を始めた。スイッチ・ブレードは通信しないで自立して、目標物を破壊できるので、これを利用するしかない。

クラハ8による電波妨害でウ軍のUAVが使えないので、電波を使わないスイッチ・ブレードが最適である。そして、クラハ8は装甲が薄いので、スイッチ・ブレードで容易に破壊できるし、アンテナが特徴的であり、目印もある。

そして、リシチャンスクを包囲するために、ロ軍が集中する場所はスラビアンスクの北の地域とポパスナから南の地域であり、ここの防衛を厚くして、ハイマースで砲撃して戦車BTGを潰し、突破されても次の陣地を構築して、そこで第2・3軍を抑えるしかない。しかし、すでに突破されているので、ウ軍は後退してスラビアンスクで迎え撃つしかないようにも思う。

このように、東部地域ではロ軍優勢の状態が続いている。ロ軍の全縦深攻撃を止める戦術をウ軍は早く確立しないと、東部地域全体を失うことになる。

最近のウ軍勝利は、オデーサ沖の60キロのスネーク島にウ軍国産155mm自走榴弾砲ボーダナで大量の砲撃をして、とうとうウ軍が奪還した。ロ軍はオデーサへの上陸作戦を放棄したようである。しかし、ロ軍のキロ級潜水艦が付近にいるために、オデーサから穀物の輸出ができるとは思えない。

しかし、対艦ミサイル「ハープーン」は射程距離220キロであり、クリミア半島の黒海艦隊基地のセヴァストポリを射程内に収めたことになり、次にはスネーク島にハープーンを設置して、セヴァストポリ攻撃になるはずである。ウ海軍は、大きな成果を収めている。米国から巡視艇クラスを供与されるようであるが、大型の艦船はトルコがボスボラス海峡の通行禁止のために運べない。

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また、ロ軍は、地対地の誘導ミサイルもなくなり、50年前の対艦ミサイルを地上攻撃に使用しているので、目標から400m以上も離れた商業施設を破壊した。

最近、ロ軍が民間施設ばかり攻撃しているのは意図的なものではなく、単に古いソ連製ミサイルを使っているので、精密攻撃ができないだけだとウ軍の将軍は分析している。

この攻撃は、G7サミットで西側がロシアへの対抗の意志を示したことで、久しぶりにキーウへのミサイル攻撃もしたが、ウ軍も、このミサイルを撃ち落せていない。

この防御のために、ドイツ製防空システム「IRIS-T SLM」を供与するが、この最新鋭の防空システムでも、短距離弾道ミサイルしか撃ち落せない。そして、有効射程も短距離級と中距離級の中間くらいまでである。供与予定のアメリカ/ノルウェー製防空システム「NASAMS」も短距離級のものである。

ウ軍が欲しいのは、アメリカ製パトリオットPAC-3であるが、機密性が高く供与はしないはず。

ウクライナ戦争とは、ウ軍の少し前の近代兵器対ロ軍の旧ソ連時代の兵器の戦いでもあるが、旧ソ連の物量対知能的な少数の近代兵器の戦いとも言える。

また、ウ軍の戦車の消耗も激しいが、旧ソ連戦車が東欧諸国でもなくなり、ウクライナに供与できないので、旧式のNATO型戦車も供与するとNATO首脳会合で米バイデン大統領は表明した。その表明した供与する兵器とは、

であり、8億ドルの大規模な武器の供与となる。その上、「われわれはウクライナをいつまでも支援していく」と語った。これでウ軍の反撃を支えることになる。これに対して、ロシア軍は、シベリアの部隊の多くを動員したことで、追加の援軍がないことになる。

しかし、供与リストの中にMQ-1ドローンや欧米戦闘機がないのは残念であるが、機密性が高く供与はしないのであろう。

TB2があるのでMQ-1がなくても、徐々に形勢はウ軍有利になる。英国のウ軍兵士訓練が順調に行けば、今年の秋から冬にはロ軍は敗退する可能性が高い。

もう1つ、中欧・東欧の諸国は、ウクライナに積極的に旧ソ連製兵器を供与したことで、近代的な欧米製兵器になり、NATO軍の装備が標準化したことで、今後の部隊運用が楽になっている。ウ軍もソ連製兵器の消耗が激しく、次からの供与される兵器は徐々に欧米兵器になるので、NATO軍との連携性が高くなる。しかし、訓練時間は長くなるので、実戦配備に時間かかることになる。

6月30日閉幕したNATO会議では、今後の防衛・安全保障で新たに中国への懸念も示した「戦略概念」を採択し、ウクライナ侵攻を続けるロシアを「直接の脅威」と位置づけ、フィンランド・スウェーデンのNATO加盟にも合意した。

2023年以降、危機時に対応する即応部隊を30万人以上に増強するし、バイデン大統領は、ロシアの脅威に対抗するため、ポーランドに常設の陸軍司令部を新設し、陸海空の部隊を欧州全域に追加配備するとした。

このようなNATO会議を受けて、ロシアのラブロフ外相は、ロシアと西側諸国の間に新たな「鉄のカーテン」が下りてきているとした。

NATO会議の前に開かれたG7では、中国の「不透明で市場をゆがめる」貿易慣行を非難するとともに、同国への「戦略的依存」を減らしていくと声明を出した。中ロへの経済的な依存を減らして、同盟国内部で補完するということである。

中ロとの新たな「鉄のカーテン」が下りてきているのであろう。

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敵対国ロシアに対して、リトアニアからは、カリーニングラードへの鉄道貨車便の通過を禁止され、ノルウェーからは、スバルバル諸島のロシア人居住地域への物資輸送を止められた。

ロシア国債のデフォルトも起き、新しい外貨建て国債の発行ができなくなった。SWFITから追い出されたロシアは、インドに輸出する石油代金受取りには人民元を利用するようである。

ロシアの同盟国である中国からも、ロシア向け輸出が60%も減っているという。米国もロシアに軍事転用される中国製民生品への制裁を強化して、その企業への半導体輸出を禁止するという。このため、中国企業もロシアへ輸出できなくなっている。このため、輸入より輸出が多くなり、大幅な黒字でルーブルの価値が上がっている。

前回でも述べたように、ロシアは石油施設や天然ガス施設の維持メンテもできずに、その生産量を減らしている。このため、欧州や日本への供給を減らすしかない。同盟国中国とインドへの石油・天然ガスの供給は止められないが、その代金は欧州や日本への販売価格の半分であり利益が減り、ガスプロムも今年の配当はできないと表明した。

【関連】プーチン後継者はナワリヌイ氏?ロシア政府内で議論が進む「戦後」

もう1つが、ロシア最大(世界第二)の「ウレンゴイ・ガス田」の「パイプライン火災」は続いているようで、火災の規模が拡大中である。真の原因は「地下の埋蔵ガス田」に火が移り、鎮火には数年かかる可能性があるようだ。それも欧米技術が必要であり、このため、このガス田のガスが採取できずに、ドイツへのガスを60%削減したようだ。

このため、他での増収が必要になり、サハリン2は日本企業への支払いがあり、この支払を止めてガスプロムの収入を増やして、国家財政への目減りを少なくする必要があった上に、日本の岸田首相が、G7でロシアを非難したことで、プーチンは接収を強行した。

日本の設備を奪うことになり、日本は二度とロシアでの投資をしてはいけない。欧米日など先進国はロシアとは経済的絶縁状態になる。

このため、ロシアの国家財政と経済の危機になることが見えてくる。今はソ連時代の兵器などの備蓄があり、それを倉庫から出して使用できるが、徐々に損耗がすると、それもできなくなる。ジリ貧な状態になっていく。

しかし、プーチン大統領も東部攻撃の成功で、再度、ウクライナ全土の支配を狙っていると、米軍情報機関は述べている。このプーチンの意図をくじく必要があるので、欧米諸国も大量の武器援助をウクライナに続ける必要になっている。

ウクライナもEUからの軍事支援がないと戦争を継続できないので、ウクライナで稼働している原発での電気をEU諸国に供給して、ロシアからEUへの天然ガス供給削減の影響を小さくするようだ。

日本も原発を再稼働させて、電力不足を解消して、ウクライナ戦争の影響を少なくする必要がある。

さあ、どうなりますか?

(『国際戦略コラム有料版』2022年7月4日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: Anton Veselov / Shutterstock.com

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