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「核の脅し」も通じず。プーチンは戦争資源の欠乏間近で敗戦が確定へ

西側諸国から大量の武器供与を受け勢いづくウクライナに対して、兵員不足が指摘されるロシア。両軍の攻防は現在膠着状態にあると言われますが、開戦から半年を超えたこの紛争は、今後どのような展開を見せるのでしょうか。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、最新の戦況を振り返りつつ、ロシアの勝利がなくなったと分析。さらにロシアの敗戦前提で構成される世界秩序においては、中国の立ち位置が問題になるとの見立てを記しています。

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ロ軍の戦争資源欠乏を待つ

ウクライナ戦争はウ軍がロシア後方の補給基地、空軍基地を叩き、ロ軍の戦争資源が枯渇してきた。しかし、ウ軍は当分、総反撃しないという。今後を検討しよう。

ロシアがウクライナに2月24日から侵攻してから半年が経過した。そして、ウクライナ独立記念日は8月24日であった。

ウクライナでの戦闘では、引き続き、ウ軍はクリミア半島やヘルソン州、ザポリージャ州のロ軍の弾薬庫や兵站拠点、司令部、空軍基地などを撃破して、ロ軍の攻撃力を大幅に減少しているが、この数日は、ロ軍攻撃が一段と減少してきている。

クリミア半島の57mm対空機関砲「S-60」が昼夜ともに、迎撃のために57×348SR弾が発射されている。UAVを頻繁にウ軍はクリミアに飛ばしているようだ。

そして、シリアに配備していたS-300防空システムをクリミアに移転させたようである。このようにクリミアの防空体制が整い、簡単には攻撃できなくなったようである。

しかし、それでも対空ミサイルで対処せずに、対空機関砲を撃つような状態である。安いUAVなので、対空ミサイルを使用しないのかもしれない。

このため、ウ軍もクリミアでは、パルチザン活動を中心に攻撃をするようである。

ロ軍は、戦争資源が枯渇してきたので、バクムットやドンバス方面に優秀部隊を集めて、一点突破を志向していた。それがピスキーであり、ウ軍は、持ち堪えられなくて撤退したが、ロ軍の攻撃が止まったので、ウ軍がピスキーの奪還に動き、市の西側に前進した。

バクムットでは、ソルダー攻撃のスペツナズの消耗が大きく、交代としてカディロフツィを投入したが、真偽不明ながら、そこでスペツナズとカディロフツィが、血みどろの銃撃戦を繰り広げたようだ。このため、ロシア連邦軍参謀本部情報総局GRUの高官が呼ばれたようだ。

ということは、ここに展開していた部隊は、GRUのスペツナズであり、チェチェン部隊を軽蔑していたが、これと交代ではプライドを大きく傷ついたのであろう。

そのためがどうか、ソルダーでもロ軍は前進できないでいる。

ポスロフスキーには傭兵ワグナーを投入した、こちらも前進できていない。最優秀部隊でも損耗が激しく、戦争資源が尽きてきているようだ。

ウ軍の主力部隊がいる南部ヘルソン州では、ドニエプル川西岸地域に展開するロ軍は補給が細っているが、それでもロ軍は多数の戦車とTOS-1の猛攻でブラホダトネを攻撃占領した。ウ軍は一度奪還したが、再度奪われたことになる。

ドニエプル川西岸でもロ軍戦車隊を集中して、攻撃してくるようであり、ロ軍も意地を見せている。ここのロ軍は東部に展開していたロ軍メインの戦車中心のBTGであり、ウ軍も気を付ける必要がある。

しかし、ヘルソン州の西端のオレクサンドリフカは、ウ軍が抑えたようであり、ロ軍はこの街を空爆している。この方面でウ軍は情報統制しているのでよくわからないが、ロ軍の動きから見える。

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カホフカ橋は数度の砲撃を行っているが、26日の攻撃で大型トラックの通行ができくなったが、アントノフスキー橋は数度の攻撃でも補修して、大型トラックの通行ができるようになったので、25日も砲撃を受けている。この状況は確認できないが、近くに船橋も建設し始め、1/3程度はできているようだ。ロ軍も補給の確保を優先的に構築している。

このため、ヘルソン州中北部への補給ができないように、ウ軍はインフレット川のダリフカ橋を攻撃して、通行不能にもしている。ここも数度の攻撃と補修、近くに船橋建設を繰り返している。

ドニエプル川西岸地域のロ軍30BTGの1万8,000名分の補給が、ロ軍も戦争の勝敗を分けるとみているので、橋を破壊されても何度も復旧するようである。

宇ゼレンスキー大統領は23日、ロシアが2014年に併合したクリミア半島の返還を目指す外交枠組み「クリミア・プラットフォーム」の国際会議で、「ウクライナが決めた方法」でクリミアを奪還すると表明し、「われわれに停戦の用意はない」とも明言し、紛争解決は一段と困難になった。だが、ウ軍の攻撃もあまりなく、ロ軍の大きな攻撃もないような状態が続いている。

この会議で、エルドアン大統領は国際法に従ってクリミアをウクライナに返還すべきであると発言した。トルコもとうとうロシアが戦争に負けると見切り、ウクライナに味方するNATOの方針に従うことにしたようである。クリミアのタタール人組織がパルチザン活動を行っていることとも連動している。

エルドアン大統領は、カザフスタンなどの中央アジア諸国の大統領とも頻繁に会っているので、トルコがロシアに代わり、この地域の覇権を狙っているのかもしれない。世界がロシア後の秩序をどうするかで動き始めたようだ。

しかし、ウ軍の攻撃もあまりない理由を、レズニコフ国防相はヘルソン州奪還でも、正面からの猛攻撃はせず、パルチザン活動を中心にキーウ防衛戦と同じような作戦をすると述べている。今までにウ軍でも9,000名の戦死者がいると明らかにして、その戦死者数を少なくすることを優先するのであろうが、もう1つに、ポーランドからの923両の戦車PT-91がまだ届いていないからであろう。

そのポーランドでは、ポズナンの陸軍訓練センターでPT-91と交代するM1A2エイブラムスの訓練が行われている。この訓練が終了した段階で、ポーランド保有の全PT-91をウクライナに供与するが、まだ、供与されていない。

このため、今はロ軍の弾薬庫や司令部などの破壊を中心に、パルチザン活動などで、ロ軍に対処して時間を稼ぐようである。

そして、ザポリージャ原発では、送電が一時停止する事態が起きて、予備電源に頼る事態が起きた。使用済み核燃料の貯蔵プールや原子炉の冷却に不可欠な電源供給がなくなると、ウラン燃料が溶解して、大量の放射線を出すことになる。東京電力福島第1原発事故と同じことになる。

このため、IAEAは数日中に派遣団を率いてザポリージャ原発を訪れる考えであるが、ロシアはOKするのであろうか?

この状況で、米国防総省は23日、ウクライナ軍に対する30億ドル(約4,100億円)の過去最大規模の追加の軍事支援を公表した。ドイツのショルツ首相もウクライナに防空システムIris-Tをはじめ5億ユーロ以上相当の武器供与を発表し、英国の次期首相候補のトラス女史は、「ロシアの核使用には英国の核使用も適時に判断する」などもあり、ウ軍の装備や後ろ盾は充実してくる。

ロシアは核の脅しもできないことになる。本当に使用するなら、突然行うしかない。その時は報復も覚悟する必要になる。

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ロシアは、北朝鮮軍の参戦を期待したが、22日から米韓合同演習を行い、約4年ぶりに野外での機動訓練も実施した。これにより、北朝鮮軍の砲兵をウクライナには送れないようである。勿論、ロシア支配地の瓦礫整理や復興事業には労働者を送れるが、北朝鮮軍の派遣は難しくなったようだ。

ロ軍は、開戦から6カ月で火砲の59%と装甲車の24-50%を失い、10月か11月には火砲がなくなると予測できる。

また、ロシアは、欧州のロシア制裁に対抗して、天然ガス供給を絞っているが、産出した天然ガスが他国に売れずに余っているため、大量に天然ガスを燃やている。その額が1日1,000万ドルである。

欧州はアゼルバイジャンから通常の2倍以上の契約を結び、ロシア産天然ガスの供給停止に備える方向である。それでも天然ガスの不足で今年の冬は大変になる。

このため、プーチンは、冬までに、天然ガス供給を絞ると欧州が、ウクライナでの停戦をウクライナに要求することを期待している。しかし、宇ゼレンスキー大統領は、「われわれに停戦の用意はない」とも明言。このため、ロシアの戦争資源が完全になくなり、ロ軍が自主的にウクライナから撤退するまで、この戦争は続くことになる。

この厳しい戦争状況で、ロシア国内ではプーチンに一気に宣戦布告と総動員令発令まで踏み切らせたい極右の国家主義者イゴール・ガーキン氏などがいて、9月11日の統一地方選挙などで、左右からのプーチン政権批判が出る可能性もある。

もう1つとして、反戦勢力のNRAが、ドーギン氏の娘を爆死させたと声明を出した。反戦運動はロシア国内でのゲリラ活動を強化しているようで、カリーニングランドでもテロ攻撃をしたとロシア政府は言っている。

この総動員令をしないとの批判をかわすために、プーチンは、ロシア軍の定員を14万人増にするとした。ロシア軍総員を190万人から204万人にした。軍人では101万人から115万人にした。しかし、これでウクライナの戦況が変わるとも思えない。

東中欧諸国は、中国がロシアを支援するので、中国を敵と認識して、中国離れを起こしている。このため、「中欧班列」の貨物列車も運行できなくなり、中国が一帯一路構想の一環として、中国と東欧との経済連携である「17+1」から、昨年5月に離脱したリトアニアと今回エストニアとラトビアが離脱した。そして、スロバキアも抜ける可能性が浮上している。

少なくとも、戦争でロシアの勝利がなくなり、ロシアとウクライナの仲介をしていたトルコが、ロシアを見切り、ロシアと仲介できるのは中国しかないが、世界秩序の変化が大きくなってきたことで、中国も迷いが出ている。

中国経済は、欧州と米国への輸出がないと成り立たない。ロシア市場で独壇場でも、米国と欧州市場より小さいので、欧米市場を捨てるわけにはいかない。

もう1つ、米国上場の中国企業の上場廃止になると、企業の存立にも関わり、今の不動産バブル崩壊で金融市場の混乱の上にNY上場企業の破綻になると、中国経済は大きく崩れることになるので、それもできない。

このため、上場基準を満たす合意を中国は米国と協議して、合意に達した。この裏では、米国の要求を中国が受け入れた可能性がある。私は、ロシアへの技術先端品の輸出禁止であり、この他の条件は何かはわからないが、そのうちにわかるはずである。

というように、ロシア敗戦の前提で、どう世界秩序が構成されるのかが、見どころである。一番、中国の立ち位置が問題になる。

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日本の変革は

日本は、ロシア、北朝鮮、中国と3つの敵がいる状態になった。このため、防衛費はGDPの2%以上は欲しいが、一気にはできない。防衛省の2023年度予算概算要求は、過去最大の5兆5,947億円。加えて5年以内に防衛力の抜本強化に取り組むとして、金額を示さない「事項要求」を100項目規模で盛り込み、最終的な予算額は6兆円台半ばになったようである。GDPの2%とは、10兆円であり、まだ大きく足りない。

岸田政権の国家政策は、令和の「富国強兵」政策となる。

安全保障は、軍事だけではない。エネルギー自立と食糧の自立も必要であり、このため、原発新設へ方針転換しその新設では電源喪失でも安全な次世代型の検討を指示した。

もう1つが、世界秩序に対する対応で、アフガニスタンからの98人を難民認定した。やっと難民も受け入れて、日本の政策も世界的な標準値になる方向であり、日本の人口を増やす方向でもある。やっと、世界秩序の転換期の状況になり、日本も変化し始めている。

そして、やっと、国民も野党の一国平和主義から脱却して、普通の国の平和概念になるようであり、一国平和主義の野党への支持率が大きく下がり始めた。

これと、この30年間続けた新自由主義的な経済から国家が経済を指導する1980年90年代と同様な統制経済にシフトしたようである。

しかし、岸田首相は、理想とする国家像を示す必要があり、それがまだないのが、問題であろうとみる。

さあ、どうなりますか?

(『国際戦略コラム有料版』2022年8月29日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: Tverdokhlib / Shutterstock.com

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