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中国在住邦人17万人が拘束も。台湾有事で起こりうる最悪のシナリオ

先日掲載の「中国軍機の領空侵犯は既に“攻撃”。台湾有事は国防部長の発言で近づいた」では、中国による台湾軍事侵攻は「起きるか、起きないか」という段階は既に過ぎ、「いつ起きるか」という次元に迫っているとした、外務省や国連機関とも繋がりを持ち、国際政治を熟知するアッズーリ氏。もはや不可避となった台湾有事が勃発した場合、日本はどのような状況に置かれることになるのでしょうか。アッズーリ氏は今回、考え得る最悪のシナリオを紹介。さらにこのタイミングでチャイナリスクを無視するかのような動きを見せる日本企業に対して、批判的な目を向けています。

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最悪のシナリオは台湾有事→日中関係崩壊→拘束・人質にされる在中国日本人の増加

10月の共産党大会で習氏の事実上の終身雇用が正式に決まった。2018年3月、2期10年までとする国家主席の党規約を撤廃した時点で習氏の終身雇用は事実上決まっていたが、今後習氏による対外的強硬姿勢はいっそう強化されるであろう。新たな最高指導部も習氏の側近たちで占められ、イエスマンしか選出されなかった。3期目になっていっそう習カラーが色濃くなった形だ。共産党大会の最終日、胡錦濤前国家主席が退場させられたが、これも新たな時代の到来を予感させるシーンとなった。

共産党大会での演説で、習氏は2035年までに社会主義現代化を確実にし、中華人民共和国建国100年となる2049年あたりまで社会主義現代化強国を推し進めていく方針を明らかにした。また、気になるのは中国式現代化という言葉で、これは明らかに欧米流の発展モデルではない独自のプロセスで発展と繁栄を獲得するという習氏の決意である。社会主義現代化強国、中国式現代化という言葉からは、習氏の米国へのライバル心が強くうかがえる。

2013年、国家主席になったばかりの当時の習氏は米国を訪問した際、オバマ元大統領に対して太平洋には米国と中国を受け入れる十分な空間があると発言したことがあるが、習氏は終身雇用の中で太平洋の西半分で影響力を確保できるよう、中国の大国化を推し進めていくことだろう。

そして、それを推し進めていく上で重要になるのが台湾だ。習氏には台湾の香港化を実現させ、そこを軍事的最前線として西太平洋へ進出し、米軍に対抗する狙いがある。よって、台湾統一への行動が3期目で開始されることは疑いの余地はなく、問題はいつ起きるかだ。台湾有事の時期については多くの指摘があるが、仮に有事となれば日本は米軍を支援するだけでなく、中国軍が嘉手納基地など沖縄の軍事的拠点を空爆することになり、その時点で日本有事となる。要は、日中の間でも戦争が行われる恐れもあり、日中関係は一気に冷え込むことになる

そうなれば、中国は軍事や安全保障だけでなく、経済や貿易、サイバーなどあらゆる領域を駆使したハイブリッド戦を展開してくるだろう。日中の国力差はどんどん離れており、ハイブリッド戦で日本は多大のダメージを被ることは避けられないだろう。この時点で日中関係は崩壊すると言っていい。

中国を危険な国だと認識する必要性

そして、懸念されることの1つに在中邦人の拘束がある。皮肉なことに、今後の日中関係は冷え込む可能性が高いにもかかわらず、中国は日本にとって最大の貿易相手国である。最近ではチャイナリスクを懸念して中国から工場を日本に回帰させたり、中国を通さないサプライチェーンの強化に乗り出したり、企業の間でも脱中国の動きが以前より顕著になっている。しかし、最近も、ニトリホールディングスが来年末までに中国国内で展開する店舗を100にまで増やす方針を発表し、村田製作所は江蘇省にある工場で445億円を投じて生産棟を新たに建設するという最大規模の設備投資を発表するなど、チャイナリスクを無視するかのような企業もある。この時期にむしろ中国依存を増やすなどは極めて危険な対応である。

中国には今でも17万人あまりの日本人がいる。日中関係が崩壊すれば、中国では邦人拘束が増えることは想像に難くない。今年に入っても7月、昨年12月に上海でスパイ行為の疑いで50代の日本人男性が拘束され、6月に正式に逮捕されたことが判明した。日本政府は逮捕容疑や健康状態について中国当局に働きかけたというが、依然として同男性の詳しい健康状態や逮捕理由などは分かっていない。

今年2月には服役中だった70代の男性が死亡した。そして10月には、2016年にスパイ活動をしていたとして逮捕され、6年の実刑判決を受けた60代の男性が刑期を終えて帰国した。同男性は、判決自体も一切いわれのないもので、服役中は多くの監視員に常に監視され、トイレの時でもドアの前に監視員が待っている状況だったという。また、男性は今後も拘束される日本人が増えるだけでなく、中国を危険な国だと認識する必要性を訴えている。

2019年にも、中国近代史を専門とする北海道大学の教授が日本へ帰国直前に北京の空港で拘束され、広州市で拘束された大手商社の40代の日本人男性がスパイ容疑で懲役3年の判決を受けるなど同様のケースがみられ、2021年にもスパイ容疑で拘束されていた日本人男性2人の懲役刑が確定した。スパイ容疑で逮捕された日本人の多くのケースで懲役刑の判決が出ている。

この傾向は今後も変わらないどころか、習近平政権は国内の権力基盤を固めるため2014年の反スパイ法や国家安全法など監視の目を強化しており、今後の日中関係の悪化で邦人拘束に歯止めが掛からなくなる恐れもある。習3期目ではこういったリスクを現実的に考える必要がある。

image by: Alexander Khitrov / Shutterstock.com

アッズーリ

専門分野は政治思想、国際政治経済、安全保障、国際文化など。現在は様々な国際、社会問題を専門とし、大学などで教え、過去には外務省や国連機関でも経験がある。

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