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ポーランド「ミサイル落下」騒動で判明。西側の“エゴ”が生んだ世界の分断

2019年の大阪以来、2年ぶりの対面開催となったG20サミット。なんとか首脳宣言の採択にこぎつけ2日間の日程を終えましたが、識者はこの国際会議をどう評価するのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、「世界の分断が一層決定的になった」としてそう判断せざるを得ない理由を解説。さらにウクライナ紛争停戦を巡るさまざまな動きがあるものの、その会合の場にウクライナの関係者が不在、もしくは声もかけられていないという国際情勢の裏側を明かしています。

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ポーランドのミサイル落下問題で浮上、「ウクライナの武器管理」と世界の分断を明確にしたG20

「なんだかとんでもないことになってきたな」

「国際情勢の緊張度も一段階上がったかな?」

ロシア製のミサイルがポーランドとウクライナ国境の村に落下し、2人が死亡したとポーランド政府が発表した際、私はそう感じました。

その後、様々な憶測が専門家によってもたらされ、G20首脳会議のためバリ島に集っていた各国首脳たちも情報収集と分析に追われていたようです。

G20首脳会議そっちのけで、NATO加盟国とG7の首脳たちは緊急会合を開き、concerted actionsを約束しましたが、その間、他のG20首脳は放置されていたようです。

情報が明らかになってきて、かつバイデン大統領が「まだ初期段階ではあるが、もたらされた情報を見ると、ロシアからミサイルが発射された可能性は極めて低いと思われる」とのコメントを発すると、少し状況は落ち着いたようです。

しかし、その前にゼレンスキー大統領が「これは私がずっと前から警戒してきたことであり、いつNATOの領土がロシアによるテロに襲われるかわからない象徴だ」とSNSを通じて発言していますが、個人的には珍しく勇み足のコメント・発言だったなと感じています。

そして何よりもポーランドに落下したとされるミサイルは、ウクライナ軍が発射した迎撃ミサイルであった可能性が高いと言われるようになってからは、NATO各国はロシアへの非難は弱めてはいないものの、ウクライナに対しては少ししらけムードが漂っているようです。

今回のポーランド絡みのミサイル問題に対しては、様々な可能性が語られましたが、「恐らくロシアはまだNATO加盟国を攻撃するという、NATOにとってのredlineは超えていない」というのが一応の落としどころとなるようです。

とはいえ、2月24日以降、2度目となるNATO憲章第4条に基づく会合がブリュッセルで開催されるようですが、ここでは一体何が語られるのでしょうか?非常に興味があります。

今回の件では「ロシアに直接的な責任はない」との結論に至りそうですが、懸念が示され、さらなる分析が必要と言われているのが【ウクライナの武器管理】です。

今回、ポーランド領内に墜ちたミサイルは、旧ソ連時代のミサイルということが分かってきており、その場合、そのミサイルの所属がロシアなのかウクライナなのかが判明しづらいということです。

またゼレンスキー大統領による勇み足的なコメントが、若干、欧米諸国の疑念を増大させているようで、中には「戦時中とはいえ、武器管理が出来ていないのではないか?もしそうならば、私たち(欧米、特にアメリカ)が供与してきた武器弾薬の管理も怪しい」との懸念です。

一応、アメリカもウクライナに提供する際に武器の転売を禁じ、武器管理を徹底することを約束させているとのことですが、今回の混乱を受けて、アメリカ軍の中からも「再度、ウクライナにおける武器の所在を確認させる必要がある」との声も上がってきているようです。

それに加え、議会下院が共和党マジョリティになることが確実となった今、「ウクライナに対する白紙小切手を用意することはない」という共和党の姿勢がありますので、年明けに新しい議会が開会すると、これまでの様相が一変する可能性があります。

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バイデン政権としても、ウクライナとしても、それまでにはある程度の決着をつけたいと思っているようですが(アメリカ側は実際には定かではないのですが)、その見通しは暗いと思われます。

その一因となり、欧米諸国とその仲間たちがウクライナとの距離感を再考し始めた情報が、国連人権高等弁務官事務所より発表されました。

それは「今回の戦争において、ロシア・ウクライナともに、互いの捕虜に対して残虐な拷問と虐待を加えていることが確認された」という内容ですが、これは人権擁護という原理原則を重視するアメリカのバイデン政権はもちろん、欧米各国にとっても看過できない内容であり、今後、ウクライナの後ろ盾として存在する条件として「捕虜への虐待の事実の検証と再発防止を確約すること」、そして「その履行情報を確認するために監査官を受け入れること」、などをウクライナに求めることになりそうです(もちろん、ロシアに対しても同じです)。

今回の“事案”では一応、シロといわれているロシアですが、プーチン大統領とロシアの今後をめぐる国内外問わない情報戦は過熱傾向にあります。

ヘルソン州からの撤退を「日露戦争以来の屈辱」とけなす情報もあれば、「ロシア政府内で、プーチン大統領なしのロシアの未来について語られている」という情報もありますし、根強いのは「ロシアの敗戦色が濃くなってきた」という情報です。

それに反し「プーチン大統領の権力基盤は安泰かつ強固であり、それは今後も変わらない」という情報もよく聞かれますので、確実に現在に至っても情報戦が繰り広げられていることが分かります。

実際のところは分かりませんが、予備役を招集したあたりから、ロシア国内でこの戦争に対する真剣度が変化し、それは他人の戦争から自分事に変わることを意味し、ロシアにおけるプーチン大統領支持層の一般国民の目を覚まし、真剣にこの戦争とその狙いについて考えさせる機会を与えたようです。

その中で「どうもロシアはウクライナに圧倒されているらしい」、「それはアメリカがウクライナに肩入れしていて、“また”ロシアを倒そうと画策しているらしい」という認識が強くなってきており、昨今の報道で伝えられているのとは違い、「それに勇敢に立ち向かい、ロシア国民を守るプーチン大統領への支持が強まっている」という分析もいくつか届いてきています。

もしプーチン大統領への支持が本当に高まっているのであれば、以前より「可能性が高まっている」と噂される核兵器の使用に踏み切ることになるかもしれません。

戦況が本当に悪化しており、ここで状況の大転換を図るのであれば…。

ロシアの強硬派からは評判の悪いヘルソン州からの撤退を進言したのは総司令官のMr.アルマゲドンであったそうですが、彼は多方面からの噂を聞けば、シリアでも化学兵器使用をためらわない姿を見せ、今回の対ウクライナ侵攻でも「ロシアのプライドを守り抜くためには、手段を選ぶべきではない。それはこの戦いには勝たなくてはならず、同時にいろいろと口出しをしてくる他国は、決してロシアを理解せず、ロシアの助けをすることはない」という考えから作戦の遂行を進めていると聞いています。

それが本当で、その声にプーチン大統領が真剣に耳を傾けたら、ロシア国内的には核兵器使用への心理的なハードルは下がることになるかもしれないと恐れています。

その核使用を止めるのが、プーチン大統領とロシアが頼りにせざるを得ない中国の存在と声でしょう。

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G20そしてASEAN+3の場で「ロシアによる核兵器の使用は断じて許さない」という声を繰り返して、他国との連携をアピールしています。それはG20サミットの場で王毅外相からラブロフ外相に直接に伝えられたと言われていますが、実際の内容は伝わってきません。

「ロシアに核兵器を使われてしまうと、それが対中国でなくても、世界は混乱に陥り、台湾併合という宿願の達成のみならず、中国を経済及び軍事的に真の超大国に押し上げるという計画が全て狂う。それは避けたい」

長く一緒に仕事をしてきた中国の友人はそのように説明してくれました。

同時に「ゼロコロナ対策の徹底と不動産業界への締め付け、そしてトランプ政権時から激化の一途を辿る米中対立によって、中国経済が高成長を毎年のように達成することは出来なくなった。また李克強首相が退任し、習近平政権の経済的なブレーンも第3期には見当たらないことから、来年以降、中国の経済的発展のかじ取りを担える人材がいないといえる。それは中国人民からの政権への反感を生むことになるため、国民の目を内政・経済から外交に向けないといけないと考えているのだろう」と、今回の外遊でフレンドリーさをアピールしている習近平国家主席の姿勢を説明してくれました。

この内容の正確度は分かりませんが、今回の一連の会合時に、3年ぶりの米中首脳会談を受け入れ、日中首脳会談も受諾しにこやかに対応する姿勢を見ていると、「これは3期目を確実にし、自らの権力基盤を固めたことからくる余裕の表れ」なのか、「それとも外弁慶の習近平国家主席らしく、日米とも対等に振舞い、堂々と台湾問題などでも一歩も退かない姿勢をアピールすることで、“世界から認められているリーダー”というイメージを国内に与えたい」のかはよく見ておく必要があるでしょう。

そこにはまた別の要素が絡んでいるようです。

ロシアによるウクライナ侵攻以降、侵攻そのものや核兵器使用の可能性については批判をするものの一向にロシアに対して圧力をかけない姿に、これまで親中だった中東欧諸国やバルト三国が相次いで中国との協議の場から抜けているという厳しい現状があります。

欧米からの働きかけはもちろんあったようですが、中国がロシアに対していつまでも甘いことに愛想をつかしたというのも理由として挙げられるでしょう。

王毅外相らが訪問して繋ぎとめをしたようですが、散々な対応をされたことで見切ったのか、外交・経済的な“紅い波”をより一層アフリカ大陸と中東諸国に注ぎ、ロシアと共に築いてきた国家資本主義陣営の拡大を進めています。

それと並行して、ロシアによるウクライナ侵攻に対して欧米諸国やその仲間たちが行うのをまねて、中国から離れる国々に対しての輸出を控えたり、借金の即時返済を求めたりと“制裁”措置に出るようになってきました。

そこでうまく振舞っているのがASEAN各国とアフリカ、中東諸国であり、それらはウクライナをめぐる分断の構図で“どちらにもつかない”第3極に属する国々でもありますが、うまく欧米諸国との距離を保ちつつ、中国とも友好的に付き合うという作戦を継続することで、恐らく対立軸・分断構造の中で利益を得ようとしているのだと思います。

とはいえ、最貧国に分類される国々は確実に大きな損害を受けることになり、より反欧米・反中ロの感情が高まっています。

気候変動の激化により、自然災害に見舞われ、大きな被害に直面していますが、先進国および国際機関の目がウクライナ戦争に向かう中で、支援が滞る悲劇に直面することになっています。迅速な支援が届かないだけでなく、ロシア・ウクライナ戦争の影響で小麦をはじめとする穀物の供給が滞り、脱炭素のトレンドに乗って石炭から移行した天然ガスも欧州や日本が挙って買いあさるため、貧しい国々には回ってこず、重大なエネルギー危機も引き起こしています。

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そこで上手に手を差し伸べるのが中国とインドです。中国とインドは互いにアジア太平洋によるライバル関係にありますが、ロシア産の天然ガスや原油が安価で手に入ることから、それらを周辺国に分け与えることで着々と支持固めを行っています。

欧米諸国といえば、自ら課した対ロ制裁の影響でロシアからのエネルギー資源の共有が止まっていることから、自らがエネルギー危機に直面していることで他国を支援する余裕がなく、G20などで気前よく持ち出される支援の約束も、実際には途上国からの信用回復の材料にはなっていないのも事実です。

そのような中、バリ島で開催されたG20サミットには、実は大きな期待が寄せられていました。

「ロシアをめぐる分断はあるが、G20が経済的な協力関係を協議する場になれば、もしかしたらコロナや戦争などの影響で滞り、スランプに陥っている世界経済、および途上国における窮状を救う道筋を示すことが出来るかもしれない」

そのような期待感も、会議前には表明されていたようですが、残念ながらG20サミットもロシア非難の場に変わり、実質的な議論は空回りしたようです。

プーチン大統領が欠席し、代わりに出席したラブロフ外相も早々とバリ島を離れたがゆえに、一応、議長であるジョコ大統領とインドネシアの顔を立てるべく、ロシアへの非難も含めたような内容で声明は合意できるようですが、それは結局、何一つ成果を生まないものになる恐れがあります。

多くのメディアは「国連が麻痺して世界は完全に議論が出来ない場所になったと思われたが、今回のG20がそれを救った」という論調を展開していますが、私が疑問なのは、「具体的にどこが成果と言えるのか」という点です。

ロシア非難を受け入れたから?何かしら具体的な信用回復への道筋が示されたから?それとも…。

今回、ロシア製のミサイルがポーランドに落下した事案が発生した際、G20首脳会議開催中にもかかわらず、G7とNATO諸国は、G20をないがしろにして、自分たちだけで会合を行った姿勢は、他の参加国に対して失礼なことであり、かつ議長国インドネシアにもまた恥をかかせることになったようですが、これについて、日本を含むG7諸国はどのような説明をするのでしょうか?

合意と成果を強調するジョコ大統領の表情もどこか暗いのは、G7ではない他のG20諸国の怒りが、実際には中身の議論で合意を生まなかったことに加え、一層の分断をこの世界に生み出してしまったのではないかと、私は恐れています。

ちなみに上記のG7とNATO首脳による緊急会議には日本の岸田首相も出席し、得意げに笑顔でカメラに目を向けていましたが、円卓に並んだ首脳の席順を見た際、岸田総理はどこにいたでしょうか?

会議を呼び掛けたバイデン大統領の隣は、新たに英国首相となったスナク首相と、その反対側はカナダのトルドー首相でした。トルドー首相の隣はマクロン大統領、スナク首相の隣はドイツのショルツ首相…岸田総理は絵の右下の端のほうに座っていました。それもバイデン大統領からは一番遠い位置に。

外交の会議においては、この席順はかなりクリティカルな問題なのですが、このような状況を見て、本当に「日米同盟は強固であり…」と認識できるかは疑問です。

しかし、世界において明確化している分断において、立つサイドを決めてしまったことは疑問がなく、今後その決定が、日本外交と国家安全保障にどのような影響を与えうるかについては、非常に慎重に考えて行動しなくてはなりません。

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今週に連続して首脳級の会合がアジアで開催されることで、もろもろの国際案件、特に紛争案件と分断に対する案件に対する解決策が見いだせるきっかけが作られるのではないかと期待を寄せていたのですが、世界経済の7割強の規模に達するG20は世界の分断を際立たせ、ASEAN会議ではミャンマー情勢に対する共通した対応に合意できず、結局、世界の分断はより明確になり、“陣営”間の距離はさらに開いた気がします。

そのような中、ロシアとウクライナの戦争を収めるために、話し合いの機運が生まれてきたのは、ポジティブな動きだと思います。

トルコのアンカラでは、CIA長官とFSB長官が対面で会談するというウルトラCが実現しました。ここには米ロそしてトルコが深く絡んでいますが、ウクライナの関係者はいません。

ジュネーブで行われている別の話し合いも、またアメリカとロシアの間での協議であるようで、ここにはウクライナの関係者は声もかけられていません。

そして私も絡む調停のグループに対してリクエストを寄せてきた各国のリストには、当事国であるウクライナの名前はなく、様々な国々が並んでいます。

これがどのようなことを意味するのか?

それこそが、私は国際情勢の裏側ではないかと考えます。

以上、国際情勢の裏側でした。

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image by: 首相官邸

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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