先日掲載の「天下の愚策。岸田首相の『日本経済を破滅に導く増税』を阻止する方法」では、政府に防衛増税を思いとどまらせるため私たちが取るべき行動を提示してくださった、国際関係ジャーナリストの北野幸伯さん。では、なぜこの増税に国民が反対の意思を表示すべきなのでしょうか。今回北野さんは自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で、28年間居住したロシアの状況を例に挙げつつその理由を解説しています。
【関連】天下の愚策。岸田首相の「日本経済を破滅に導く増税」を阻止する方法
防衛増税、ここで抵抗しないとどうなるか?
先日、「なぜ日本は【暗黒の30年】になったのか?」というお話しをしました。「最悪のタイミングで3回消費税率が引き上げられたからだ」と。GDP成長率の推移と、消費税率引き上げのタイミングを見比べれば、この結論の正しさは明白に思えます。まだ読んでいない方はこちら。
● 天下の愚策。岸田首相の「日本経済を破滅に導く増税」を阻止する方法
そして、また同じ過ちが繰り返されようとしています。そう、岸田さんが企画している【防衛増税】のことです。
1991年のバブル崩壊と、1997年の消費増税で、【暗黒の20年】が確定しました。2014年と2019年の消費税率引き上げで、【暗黒の30年】が確定した。そして岸田さんは、防衛増税で【暗黒の40年】を確かなものにしようとしています。
2020年、2021年、新型コロナ大不況で、本当に大変でした。2022年、ウクライナ戦争によるエネルギー、食糧価格の高騰、そして円安で、インフレが進行しました。日本国民も企業も、心身共に疲弊し、まだ立ち直っていません。
それでも、ようやく、がんばって立ち上がり、一歩を踏み出そうとしたその時、岸田さんが、「また増税するんでよろしく!」と。
具体的には、たとえば「法人税の納税額に4%から4.5%を一律に上乗せする付加税を科す」そうです。その一方で岸田さんは、「賃金もあげてください!」。経営者の方は、「そんなことできるか!!!」と怒っておられることでしょう。
私は、こういう状況について、前々号のメルマガ(「天下の愚策。岸田首相の『日本経済を破滅に導く増税』を阻止する方法」)で、「総理官邸にメールを書いてください」とお願いしました。書く方法はこちら。
そして、「書きました!こんなことができるなんて知りませんでした!」とお礼のメールがたくさん届きました。なぜ私は、「総理官邸にメールしてください」と書いたのでしょうか?国民が政治に関心を失うと、国はどんどん悪くなっていくからです。
国民が政治に参加できないロシア
皆さんご存知のように、私は1990年から2018年までモスクワに住んでいました。私がモスクワにいる間、
- ゴルバチョフ → エリツィン → プーチン → メドベージェフ → またプーチン
と大統領が代わりました。ゴルバチョフは、「ソ連最初で最後の大統領」ですから、時代を感じます。ソ連は、いうまでもなく「共産党の一党独裁体制」です。国民は、事実上政治に参加できませんでした。
90年代の新生ロシアは、かなりハチャメチャでしたが、政党が乱立し、国民が政治に参加することができました。2000年、プーチンが大統領になり、徐々に報道の自由、政治の自由は無くなっていきました。
今のロシアの状況は、どうなのでしょうか?形式は、民主主義です。大統領選挙も下院選挙もあります。下院には、与党「統一ロシア」、野党「公正ロシア」「ロシア共産党」「ロシア自民党」などがいます。しかし、ロシアでは、野党といえども、プーチンを批判することはできないのです。批判するとつぶされますから。
議会に議席を持ち、プーチンに従順な野党を「システム内野党」といいます。一方、ナワリヌイのように、反プーチンで、議会に議席をもたせてもらえない勢力を、「システム外野党」といいます。ナワリヌイは刑務所にいて、同志はほとんど欧州に逃げました。
というわけで、ロシアには、言論の自由も政治の自由もありません。ロシアで今、SNSに反戦投稿すると捕まります。1回目は罰金ですみますが、2回目は懲役15年の実刑が課される可能性があります。
私は何がいいたいのか?ロシアでは、プーチンと側近たちは「フリーハンドだ」ということです。彼らは、司法を超越している。その結果、どういうことが起こるのでしょうか?2022年4月18日の「NewSPhere」から。
アナリストでロシアに詳しい元アメリカ国務省の特別顧問ポール・ゴーブル氏は、2019年時点でのロシアの貧困について紹介している。ロシア連邦統計局(Rosstat)によれば、屋内にトイレのない家やアパートで暮らすロシア人は3,500万人、お湯の出ない住宅に住む人は4,700万人で、家の中に水道がない人は2,900万人だった。厳しい冬の寒さにもかかわらず、自宅にセントラルヒーティングの設備がない人は2,200万人に上った。(ゴーフル氏のブログ『ウインドウ・オン・ユーラシア』)
実際、モスクワから少し外に出ると、19世紀そのままの光景が広がっていて、驚くことばかりでした。
その一方で、支配者層は、世界の王族も仰天する超豪華別荘を所有しています。
例:メドベージェフ元大統領の複数の別荘(YouTube)
- 別荘1:9分ごろから
- 別荘2:13分7秒ごろから
- 別荘3:19分ごろから
28年モスクワに住んだ結論は、「為政者にフリーハンドを与えると、為政者と取り巻きは汚職により、どこまでも繁栄していく。彼らに反比例して、国民は貧しくなっていく」でした。
日本の民主主義は機能している
ロシアに比べると、日本はずいぶんマシです。野党が、与党の大きな、あるいは細かい汚職をどんどん追及してくれる。それで、ロシアに比べると日本の汚職は、あまり巨大化しません。巨大化する前に、追及されて辞めさせられるからです。
日本の首相は、中曽根さん、小泉さん、安倍さんなど例外はありますが、たいてい1年ぐらいで辞めます。それで、国際社会で軽く見られがちですが、辞めるには辞める理由があるわけで、私は「仕方ない」と思います。これも、「日本の民主主義が機能している証拠」ですね。
国民が声をあげないと、どんどん悪くなる
しかし、私も含む日本国民はどうでしょうか?私は、「あまりにも政治に無関心」あるいは、「あまりにも忍耐強すぎる」と思います。
たとえば今回の増税の件、フランスだったら、おそらく巨大デモが起こっていることでしょう。しかし、日本では、実質何も起こっていません。
私は、何がいいたいのか?「抵抗しなければ、政府は、『大丈夫なんだな』ということで、永遠に増税をつづけますよ」ということです。
そういう意味で、「セクハラ」「パワハラ」「モラハラ」と同じです。相手は、「セクハラ」「パワハラ」「モラハラ」している意識がない。だから、「セクハラやめてください!」「パワハラやめてください!」「モラハラやめてください!」といわなければ、永遠に地獄がつづくことになります。
政治も同じです。政府の人たちは、
「増税しても国民はだまっているぞ。もう少し増税しよう。あれ、まだだまっているぞ。もっと増税しよう。あれあれ、まだだまっているぞ」
私たちは、「いいかげん増税を止めてください!」とはっきり意思表示すべきなのです。でないと、岸田さんは、「消費税率を15%にします!」などと必ずいいはじめます。だから私たちは、声を上げるべきです。
総理官邸にメールを送る手間は、ヤフーニュースにコメントを書くのとあまり変わりません。ヤフーニュースにコメントを書いても何も変わりませんが、総理官邸に意見を書けば、変わる可能性がでてきます。日本を【暗黒の40年】にしないために、総理官邸へ意見を投稿してみてください。
(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2022年12月19日号より一部抜粋)
image by: 首相官邸