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なぜフルネームで呼ぶ?病院の「患者呼び出しシステム」が抱える問題点

病院や受診科によって異なる患者の呼び出し方法ですが、フルネームで呼ばれる場合がほとんどではないでしょうか。しかし中にはさまざまな事情でそれを忌避したい人がいることも事実です。このような状況を、医療機関サイドはどのように考えているのでしょうか。今回のメルマガ『バク@精神科医の医者バカ話』では、現役の精神科医で内科医としての実績を持つバク先生が、医者が患者のフルネームを確認する理由を紹介。さらに今後の患者呼び出しシステムについて考察しています。

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割と基本だけどよく考えたらなんでなの?:病院のフルネーム確認の必要性と実際役に立ってるのか問題

今回のテーマはご質問で頂きました「病院の呼び出しは何でフルネームなの?」です。最近では当たり前のようになってきましたが、病院では患者さんを呼び出すときにフルネームで呼びますね。それについて理由と、個人の考えをメルマガでまとめようと思います。

なぜフルネームで呼ぶのか?

当たり前ですが、同じ苗字や名前の人は沢山います。苗字が3通り、名前が5通りの人が来院されていたとしたら(そんなレアケースはないけど)?苗字だけで呼ぶより苗字×名前で呼ぶ方がバリエーションとしては3×5=15通りに増えるので間違いが少なくなるのは当たり前です。

私が病院の外来を始めたての時(下記*1に詳細記載あり)に患者さんをお呼びする際あまり考えておらず(例えば舘ひろしさんという名前の患者さんが居たとしましょう)、「たちさん、たちひろしさん、◯番診察室にお入りください」とアナウンスしてしまっていました。

ここで 最初の「たちさん」だけを聞いて待合室にいる「たづさん」や「たてさん」が入ってきてしまう事故が起こりました。これが佐藤さん、鈴木さん、高橋さんという日本の三大多い苗字(明治安田生命調べ)の患者さんだと事故率はさらに上がります。

なので最近はいきなり「たちひろしさん、たちひろしさん、○番診察室にお入りください」と最初から全てフルネームで呼ぶようにするなどの工夫をしています。

しかもまだ外来の場合は患者さんの意識がはっきりしているので「え?主治医が違う」と気付いてくれる可能性があります。しかし入院や緊急搬送時に意識がしっかりしているかは分かりません。そういった場合に患者さんの取り違えがあったら致命的ですよね。フルネームで確認を取ることの大きな目的としては「患者さんが確かにその人であること」を確かめ「その人に必要な医療を提供する」ために行っています。

ちなみに患者さんをフルネームで呼び出すことについては実は法令等による定めはありません。厚労省から出ているのは「ガイドライン」であり、「絶対フルネームを確認しろ!」という論調ではなく、「患者さんにもプライバシーがあるし、患者さんがフルネーム呼ばれるの嫌だなって思ったら柔軟に対応しましょうね」という感じです。

*1の説明

始めたての頃というのは研修医(研修医、専攻医、指導医、専門医という話は又次回にでも書きます)が終わりたてホヤホヤの専攻医(どの科に進むのかを決めたばかりのピヨピヨちゃんだと思ってください。今の制度だと医者歴3年目以降です)時代なので医者の初心者みたいなものです。研修医時代はまだ指導医が見守ってくれているところで医療ができますが、専攻医は一人で外来を回さなくてはなりません(外来受診に行って横にささやき女将みたいなのがついてる先生がいたら嫌すぎますよね……)。

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実際にあった取り違え事案

手術時の左右の取り違えなどは、個人は合っているものの、治療対象を取り違えているパターンだと思います(私事ですが、父が肺がんになった際に主治医ががんの無い側の肺に聴診器を当て「音は昨日よりいいですよ」と言われバチギレしていたのをよく覚えています。患者からしたら左右もわからん医者に命を預けられるか!と思って当たり前なんですけれど……)。これは正直ちゃんと直前に診察対象のカルテを見てくれよとしか言えないのですが……。

ちなみに私も患者さんを間違えたことがあります。私が実際にやってしまった患者さんの取り違えは、日曜日に当直医が入院とした患者さんの主治医に任命(業界?用語で「当たる」と言います)された時に発生しました。当院初診なので私は月曜日に主治医になったものの当然ながら一度も会ったことがない患者さんの顔を全く知りません。こういう場合は病棟の看護師さんに確認するしか方法がないので「昨日入院された◯◯さんってどの方ですか?」と質問しました。そして看護師さんは全く違う△△さんを私に◯◯さんとして紹介してしまいました。この時私が先に「お名前をお伺いしてもよろしいですか?」と△△さん(私は◯◯と名乗られるつもり満々!)に聞き、「はい、△△です。」と言われたので事なきを得ました。

患者さんからすれば「いちいちフルネームなんて確認しなくても普通間違えないでしょ」と思われているかも知れない名前確認なのですが、割とこういった危険なミスを未然に防いでいるケースがあり(特に大きな病院の場合、患者さんの人数が破茶滅茶に多いのでリスクはゴリゴリ上がります)、ご面倒かとは思いますがご協力いただけますと幸いです。

他の取り違え事故から考えられる一番良い対応と問題点

色々調べましたがやはり医療従事者から「○◯さんですか?」と聞くよりも、患者さんから「◯◯です」と名乗っていただくのが一番事故率が減るようです(実際呼び出した後に「お手数ですがお名前をフルネームで名乗っていただけますか?」とご本人にお願いするようにマニュアルを組んでいる病院がありました。こうすることで患者さんが名乗っておられる間、医療者はカルテやラベルを見ながら確かにその名前だな、と確認することが可能になりますし安心です!)。

ですが、やはり「病院に通院していることを他の人に知られたくないから名前を呼ばれたくない!」という人は一定数おられます。これは感情的に……というものから、「ハラスメント被害者であり、加害者から避難中なので名前で個人を呼び出さないでほしい」「性同一性障害がありフルネームが想起させる性別と自分の自覚している性別がズレており本名を名乗りたくない」など様々な理由があり、それは決して軽視できる内容ではありません。

そういった人からしたら「呼び出しでフルネームを言われ、その上自分でフルネームを言わされるのか!!」とお怒りになるのも尤もです。

これに関しては厚労省も「個人情報の取り扱い、患者さん個人の気持ちを大事にしよう!フルネームに固執しなくて良いです!(病院と患者さんの間で呼び出し方を相談して決めて良い)」という立場です。

一番大事なのは一人一人の患者さんが、適切な医療を受けられることですから嫌がっているのに名前を呼ぶことに固執しているのは本末転倒なので病院側も脳死で「ちゃんとフルネームを名乗ってください!確認で必要なんです!」と言ってはいけないことだと思います。

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今後の確認方法あれこれ

かと言って配慮を優先するがあまり個人を取り違えを起こしてしまっては元も子もありません。今後はどうやるのがよりマシなのでしょうか(一番良い!はちょっと無理なので「マシ」という表現にならざるを得ませんが)。

例えば外来であれば受付番号でお呼びするのも一つの手だと思います。個人名はアナウンスされないし、番号なら比較的聞き間違いも起こしにくいでしょう。

ただ以前これを実施している病院に「人を番号で呼ぶな」と怒りを爆発させた方(騒動後自死されており詳細は伏せます)もおられたので、人によっては番号での呼び出しも不愉快なことなのかも知れません。正直100人いたら100人を納得させる方法はこの世にはありません。

しかし諦めて解決策を講じないのも意味がないですし、自分が開業した場合どうしたいか?を最後に語って終わろうと思います。

当科の特徴として、まだまだ周囲の人に精神科の受診を隠したい人は多いと思います。また心が疲弊している中、呼び出しはまだかまだかと構え続けるのも疲れてしまうんじゃないかと。で、今大概の人が持っているスマホへの通知で呼び出しできないかなぁと色々考えています。完全にスマホだけで完結することは難しそうなんですけれど、受付した後にどうにかスマホと受付番号を連携させて、順番の一人手前くらいで「次のお呼び出しです。○番でお呼び致しますのでご準備をお願いいたします」とかを画面に表示させられたら少しは精神的な負担が減らんかなぁと思ったりしております。

こうやってあーだこーだ考え続けることに意義があると思いますし、今後も現状に甘んじず今年も臨床とメルマガを頑張ります。最後までお読み頂きありがとうございました!次回は途中で軽く触れていた「研修医、専攻医、指導医、専門医ってなんぞ?」です。

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image by: Shutterstock.com

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文系から理転して医学部へ、医者になってからも内科医から精神科医へ転身を繰り返している落ち着きのないADHD当事者、依存症家族、AC当事者、毒親育ちのノンバイナリー(無性)。持ち前の衝動性で書籍を書いたりしながら常勤医として奮闘中のバクが、世間の目がまだまだ偏見に満ちている精神科領域について医療者目線と当事者目線で語ったり雑談したりします。その他産業医目線での復職についてや、DPAT(災害派遣精神医療チーム)の話、表ではいいにくいジェンダー問題や発達障害についての赤裸々なお話を不定期にお届け予定です。

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