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Tailor's textile mannequin in clothes designer show room

「東京コレクション」が、あのパリコレのようにはなれない根本原因

日本のファッションビジネスは今後東南アジア市場に注目すべきと言われますが、ファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんはそのなかでもいくつかの選択肢を提示しています。今回のメルマガ『j-fashion journal』では、 アジア展開を視野にいれるべき理由とその方法について語っています。

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アジア展開を視野に入れたファッションビジネスを

1.日本発ブランドをアジア市場で展開

西欧のライセンスブランドの時代は終わりました。既に、日本市場はラグジュアリーブランドが直接参入する市場となりました。ライセンス供与は、ブランドイメージのコントロールが困難です。ブランドイメージを重視するなら、直接参入を選びます。

しかも、日本のアパレル企業は、製造卸からSPAへと業態を変えました。SPAは製造小売業と訳されますが、実態は企画小売業であり製造機能は中国に依存しています。ライセンス生産権を与えるならば、中国メーカーに与えた方が理に叶っています。

日本のアパレル企業は、オリジナルブランドを育成し、今度はライセンサーとして東南アジアのアパレル企業にライセンス供与する側に立たなければなりません。

本来は、中国市場に対しても同様の戦略を取るべきでしたが、ライセンスブランドの契約には、中国市場での販売は認可されていません。あくまでも日本市場の販売が条件です。結果的に、大手アパレルは中国市場で展開するブランドがなかったのです。

中国から東南アジアへと生産拠点が移るタイミングで、今度こそ、東南アジア生産と日本を含むアジア販売を実現するべきです。それにはオリジナルのブランドあることが条件になるのです。

ここでも二つの選択肢があります。日本文化をアイデンティティにしたブランドと、現地のライフスタイルに対応したブランドです。

東南アジア市場においては、伝統的な日本文化ではなく、アニメ、ゲームで馴染みのある現代の日本文化が重要です。勿論、アニメやゲームのキャラクターも重要です。日本の住宅、食事、風景等の日常的なモチーフも好まれると思います。

現地のライフスタイルに対応したブランドという意味では、テキスタイルの特徴を生かしたブランドが考えられます。仮に、イスラム圏で白、黒しか着用されなくても、どの程度の色まで許されるかを調査することで、白のバリエーション、黒のバリエーションを組み立てることができます。また、マットとグロスの糸で柄を表現したり、オパール加工等で透けた部分を入れることもできます。

もちろん、様々な高機能な後加工も可能性があります。

現地のアパレルとライセンス契約を結ぶならば、テキスタイルのライセンス、パターンの技術ライセンスという契約もあり得ます。現地のアパレル企業と協業し、アジアのファッションビジネスを育成するといったビジョンを打ち出すことをお勧めしたいと思います。

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2.マイノリティが「文化盗用」を叫ぶ

ラグジュアリーブランドは常に新たな顧客を開拓しようと努力しています。オイルダラーが世界経済を牽引した時には、中東風のコレクションを作り、ジャパンマネーがブランドを買い漁っていた時には日本的なかわいい女性像を、チャイナマネーが世界を席巻した時にはチャイナ風のコレクションを打ち出しました。

しかし、本質は西欧ファッションです。そこにエスニックの味付けをしたということです。ある意味で、パリのデザイナーが「成り金となったあなたたちの文化を認知してあげた」と言っているだけです。

現在は、その立場が逆転しています。ラグジュアリーブランドの顧客だったマイノリティの富裕層がデザイナーに対して、文化盗用を指摘するようになったのです。そもそもデザイナーがコレクションに取り上げたから価値が上がったともいえるのですが、彼らはマイノリティの文化は自分たちの所有物であり、デザイナーがそれを盗用したと主張したのです。

もし、マイノリティが自分たちの文化を元にしたブランドを立ち上げ、コレクションを発表し、それを顧客が認めれば本物です。仮に、西欧人が無視したとしても、同じマイノリティ社会の中で、その価値が認められ、ビジネスが一定の経済規模に達すればローカルブランドとして持続可能になります。

一方で、マイノリティの富裕層は世界的な価値を持つ西欧のラグジュアリーブランドが大好きです。ブランド商品は上流階級に所属するためのパスポートだと認識しています。しかし、あくまで金で買える程度のパスポートです。

マイノリティの文化を世界に認知させることは、金を積んでも実現しません。あらゆる分野、あらゆる表現手段でマイノリティのクリエイターが独自文化を表現し、西欧社会で一定の評価を勝ち取らなければ、世界の中で認知されたことにはなりません。

加えて、マイノリティ自身が自らの文化に誇りを持ち、西欧のブランドより自らのブランドを愛好し、育成することが必要です。

マイノリティの一部が文化盗用と訴えても、マイノリティの多くが西欧ブランドを支持したのでは、独自文化の存在意義も怪しくなってしまいます。文化盗用と主張するなら、西欧文化の象徴であるラグジュアリーブランドの商品を購入しないことです。西欧に認知されるか否かを気にせずに、自分たちで自分たちの文化を愛すればいいのです。

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3.シン・トウキョウコレクションの意義

シン・ゴジラでは、これまでのゴジラの恐怖や、怪獣への攻撃ではなく、ゴジラ出現に対応する政府の会議が主要なテーマとして描かれました。これは全く新しい視点であり、シンと名付けるのに相応しいと思います。

唐突ですが、東京コレクションの話です。高田賢三がパリでデビューし、大人気を博したことが刺激となり、高田賢三の同級生デザイナー達が中心となってTD6(トップデザイナー6)を立ち上げました。それが発展して東京ファッションデザイナー協議会(CFD)となり、東京コレクションがスタートしました。

当初から東京コレクションの課題となっていたのが、パリコレに参加するデザイナーが東京コレクションに参加しないこと、あるいは積極的に協力してもらえないことでした。しかし、これは当然の話です。世界一のパリコレに参加しているデザイナーが東京コレクションに参加してもその意義が見いだせないからです。

第一に、東京コレクションには、コレクションに対する質の高い批評が存在しないこと。つまり、世界のファッションプレスに対する影響力がないこと。

第二に、世界の主要な有名小売店のバイヤーが集まらないこと。日本のデザイナーの多くは、自前で会社を持ち、直営店を中心に展開しています。小売店に卸すことに積極的ではないのです。

東京コレクションに参加する若手のデザイナーも「いつかはパリコレ」と考えています。東京コレクションで評価されても、それで何かが変わるわけではありません。しかし、パリコレで評価されれば、ビジネスも広がり、デザイナー個人の名誉となり社会的ステータスも上がります。

パリコレがメジャーで東京はマイナー。ニューヨークやミラノ、ロンドンもあるので、マイナーの中でもかなり下の位置かもしれません。

私は東京は西欧中心の序列から脱するべきではないかと考えています。極論すれば、洋服以外の服のコレクション。民族衣装から発展した現代のコレクションです。

これをシン・トウキョウコレクションとして再構築できないでしょうか。文化の多様性を重視し、少数民族の独自文化を育成するというコンセプトならば、トウキョウで開催する意味があるのではないでしょうか。とりあえず、「シン・トウキョウコレクション」というタイトルだけでも置いておき、時間をかけて議論することを提案したいと思います。

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4.ASEANコレクションを協業できないか?

日本企業が海外で成功できないのは、自社の利益を追求するだけで、地元経済や地元業界に全く貢献しないことにも原因があります。海外で独立法人を設立し、代表者や主要スタッフは日本から派遣します。日本人は治安リスクのために安全な地域で固まって生活します。現地採用の社員とも積極的に交流はしません。しかも、多くは単身赴任ですから、地元の地域コミュニティやボランティア活動に参加することもありません。従って、地元の企業も地元の消費者も応援してくれません。

しかも、プロモーションには投資せず、ひたすら技術や品質を訴求します。これでは知名度は上がりません。知名度が上がらなければ売れません。

海外市場において、商品の品質やコストだけで市場に浸透するのは困難です。仮に日本製品が売れたとしても、それが地元企業の経営を圧迫していると判断されれば、地元政府は日本企業に対して様々な手段で圧力をかけるでしょう。

海外市場では、地元社会の一員として、地元に貢献することが必要です。それにより、地元政府や地元企業が応援してくれるようになります。

例えば、ASEAN諸国で地元のデザイナーや企業を巻き込んだ形でのファッションショーを開催するのはどうでしょうか。ここで重要なのは、自社製品のプロモーションとしてもショーではなく、地元のファッションを向上させるためのファッションショーということです。

日本にはデザイナーを組織化し、ファッションウイークを運営した実績があります。ファッションショーの演出から運営までを請け負う企業もあります。ファッションショーを紹介するファッションメディアもあります。

また、高度なファッションを生み出すための紡績、合繊メーカー、その他の繊維関連企業もあり、ASEAN諸国に進出している企業も少なくありません。ASEAN市場が成長することで、これらの企業は利益を上げることができます。

日本のアパレル企業やデザイナーがアジアのコレクションに参加することで、ASEAN諸国での知名度が上がります。また、地元で教育機関と連携したプログラムを実践すれば、人材育成に貢献したと評価されるでしょう。

日本の産業育成は目先の売上にこだわり、長期的な戦略が欠如していると思います。お金を関連団体にばら蒔くのではなく、将来のビジネスのために環境整備に投資することも考えていただきたいと思います。

編集後記「締めの都々逸」

「金もなければ 余裕もないが それでも未来に投資する」

昔は日本政府や日本企業は長期的な視野に立った経営をしていると言われたものです。欧米は目先の利益を追いかけて長期的な投資もしないと。だから、欧米企業は日本企業に負けてしまうんだよ。これは日本企業がリードしていた時代の話です。

しかし、欧米企業も考えました。日本企業も自分たちと同じルールにすれば、日本の優位性はなくなるのではないか。それがグローバリズムだったと思います。

つまり、日本にとってグローバリズムとは劣化に向かうことでした。それをマスコミや専門家、高名な学者の皆様が「グローバルこそ目指すべき方向なのだ」というプロパガンダを展開したんですね。それにまんまと引っかかってしまったというわけです。

でも、気がついたのなら反省して、これからの行動を修正すればいいと思います。変化を恐れず、チャンスだと思うことです。イエーイ!(坂口昌章)

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image by: Shutterstock.com

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